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ゲノム編集ツール CRISPR-Cas9 システム特集

掲載日情報:2021/06/15 現在Webページ番号:8508

2020年のノーベル化学賞は、ゲノム編集手法の開発に関する業績により、CRISPR-Cas9法の開発者であるエマニュエル・シャルパンティエ博士(ドイツ、マックス・プランク感染生物学研究所)、ジェニファー・ダウドナ博士(米国、カリフォルニア大学バークレー校)の2名が受賞されました。

フナコシ取り扱いのCRISPR-Cas9システムによるゲノム編集ツールをご紹介します。

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ゲノム編集に関する総説(東京大学医科学研究所 真下 知士先生ご執筆)

記載の内容はご執筆時点のものとなります。

CRISPR-Cas9システムとは

CRISPR-Cas9 システムは、ゲノム中で任意の領域を切断できる遺伝子改変ツールです。切断したい標的塩基配列に相補的な配列を含むguide RNA(crRNA:tracrRNA) とDNA 切断酵素Cas9 タンパク質により、ゲノム上の任意の配列を切断します。標的配列のデザインの簡便さや実験手法の容易さから、CRISPRはZFN(Zinc Finger Nuclease)やTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)と並び、注目されるゲノム編集技術です。

マンガ「クリスパーキャスナイン」
©樹庵じゅあん


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CRISPR-Cas9の原理

2つのコンポーネント:Cas9とガイドRNA

  • Cas9ヌクレアーゼ:二本鎖 DNA を切断するハサミの役割
  • ガイドRNA(sgRNA または crRNA+tracrRNA):ゲノム上の標的配列を認識する役割

ゲノム編集の流れ

    1. Cas9 ヌクレアーゼとガイド RNA が複合体を形成
    2. Cas9/ガイド RNA 複合体がゲノム DNA をスキャンし、ガイド RNA と相同な配列を認識
    3. PAM 配列上流の DNA に二本鎖切断(DSB;Double Strand Break)を誘導(ガイド RNA の相同配列が PAM 近傍にある時のみ切断)
    4. 二本鎖切断の後、DNA が修復される際の機構(NHEJ、HDR)を利用して遺伝子の改変を行う
CRISPR-Cas9がガイドRNAをもとに標的配列を切断する原理

guide RNA(crRNA:tracrRNA)により、標的配列へCas9タンパク質が誘導され、PAM配列(NGG)近傍にあるguide RNAと相同な配列で効率的にDNAが切断されます。

●PAM配列: protospacer adjacent motif の略で、Cas9が認識するゲノム上の配列。SpCas9の場合 [5’-NGG-3’]、SaCas9の場合 [NNGRR(T)]
●crRNA: CRISPR RNA
●tracrRNA: trans-activating CRISPR RNA


CRISPR-Cas9による遺伝子のノックアウト/ノックインの原理

CRISPR-Cas9 システムでのゲノムの切断後NHEJ による修復が起こり、塩基の置換や欠損が誘引され、これにより遺伝子のノックアウトができます。
また、切断した部位に特定の配列をノックインしたい場合には、その目的配列を含むドナーベクターを一緒にトランスフェクションすると、相同組換え(HDR)によりその配列をノックインすることができます。

●非相同末端結合(NHEJ;Non-homologous end-joining)
塩基のランダムな欠失/挿入(indels)によるフレームシフトを起こす。
⇒ノックアウト
●相同組換え修復(HDR;Homology-directed repair)
切断付近の配列と相同な配列を持つドナー DNA を一緒に導入することで、ゲノム DNA との間に組換えが起き、任意の配列を挿入することができる。
⇒ノックイン or ノックアウト


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Casに関する知見

2017年、J. ダウドナ博士のグループはCasX、CasY の発見を報告していました*1が、2019年、CasXはCas9やCas12aとは異なるメカニズムで機能する3つ目のプラットフォームであり、大腸菌やヒト細胞でのゲノム編集が可能であることが示されました*2

Cas9 ・ ヒトによく見られる細菌に由来(spCas9:化膿レンサ球菌、SaCas9:黄色ブドウ球菌)
・切断箇所は平滑末端となる
Cas12a(Cpf1) ・切断にcrRNAが必要だがtracrRNAは必要としない
・切断箇所は突出末端(付着末端)となる
Cas13a(C2c2) ・RNA誘導 RNase
・DNAは切断しない
・ dCas13にRNA置換酵素を結合することでRNA編集が可能
CasX ・Cas9よりサイズがおよそ40%小さい
・人体には見られない細菌由来
・ Cas9/Cas12aと共通祖先を共有しない(収斂進化)

●Casの亜種

  • dCas9(deadCas9):ヌクレアーゼ活性欠損型Cas9。DNA配列に結合するが、切断しない
  • nCas9(nickase Cas9):一本鎖ニックを導入
  • xCas9:広いPAM適合と高いDNA特異性を持つ

●dCasの応用

  • 転写活性化因子を融合:CRISPRa(activation)
  • RNAポリメラーゼを立体的にブロックまたは転写抑制因子を融合:CRISPRi(interference)
  • DNA(脱)メチル化酵素を結合:エピゲノム編集

■ 参考文献
*1 Burstein D., et. al.,“ New CRISPR-Cas systems from uncultivated microbes.” Nature 542: 237~241(2017)[PMID: 28005056]
*2 Liu J.J., et. al.,“ CasX enzymes comprise a distinct family of RNA-guided genome editors.” Nature 566: 218~223(2019)[PMID: 30718774]
*3 Yao, Ruilian, et al.“ CRISPR-Cas9/Cas12a biotechnology and application in bacteria.” Synthetic and Systems Biotechnology(2018)


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ゲノム編集のワークフロー(プロトコル)

切断したいDNA配列に対する相補的な配列を含むguide RNA、およびその相補鎖を設計し、それらの断片をCRISPRベクターにクローニングします。作成したCRISPR-Cas9発現プラスミドを目的細胞へトランスフェクションすると、CRISPR-Cas9システムにより標的領域が切断されます。

ゲノム編集ワークフロー デザインデザイン
ノックアウト、ノックイン、編集、タグの挿入などを行う標的配列に対して、guide RNAと相同組換えドナープラスミド(HR donor plasmid)を設計する。

ゲノム編集ワークフロー プラスミドの構築プラスミドの構築
guide RNAをall-in-one Cas9 vectorにクローニングする。5’および 3’側のホモロジーアームをHR donor plasmidにクローニングする。遺伝子をノックインする場合は目的遺伝子もクローニングする。

ゲノム編集ワークフロー 細胞への導入細胞への導入
Cas9, guide RNA(およびドナーDNA)を目的の細胞へトランスフェクション(トランスダクション)またはインジェクションにより導入する。

ゲノム編集ワークフロー 細胞の選択細胞の選択
蛍光レポーターの発現確認(フローサイトメトリー)や抗生物質選択により、導入細胞を選択、濃縮する。

ゲノム編集ワークフロー ゲノム編集された細胞のバリデーションバリデーション
片方または両方のアレルがゲノム編集された細胞について、標的遺伝子の配列を確認する。
PCR、DNA シークエンシング、ミスマッチ検出、ウェスタンブロッティング、表現型の解析など

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標的配列(ガイドRNA)のデザイン方法

標的DNA配列は、末端に「GG」が配置されている領域を選択し、NGG の上流20 塩基で設計します。切断したい標的配列を含むgRNA およびその相補鎖をオリゴ合成等で作成します。

標的領域         5’ NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGG 3’
デザインする配列の例5’TGTATGAGACCACNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN 3’
   3’ACTCTGGTGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCAAA 5’

ベクターにより、標的配列の両端に付加する配列は変わります。
ウェブ上で公開されているguide RNA 設計用のソフトウェア⇒ CHOPCHOP, CRISPRdirect

変異型 Cas9、Cas9 Nickase(Cas9(D10))について

Cas9 タンパク質に D10A アミノ酸変異が生じると、ヌクレアーゼ活性が不活性化し、ニッカーゼ活性を持つようになります。*4。Cas9(D10A)は、野生型Cas9 のようにDNA 二本鎖を切断せず、一本鎖のみを切断しニックを入れます。そのため相同組換えによるゲノム編集において、二本鎖切断により引き起こされるDNA 修復機構NHEJ(非相同末端再結合)が起こらず、望ましくない領域での遺伝子欠失・挿入やオフターゲット効果を抑制することができます* 5。また、最近では2種類のguide RNA を用いて2か所にニックを入れることで、二本鎖切断によるノックアウトで細胞株におけるオフターゲット効果を50 ~ 1,500 倍まで減少できた例が報告されています* 6

Cas9 のDouble Mutant (D10A, H840A) はヌクレアーゼ活性およびNickase 活性を有していませんが、guide RNA 標的配列への結合能を有しています。オフターゲット効果の少ない転写リプレッサーとして機能すると考えられており* 7、部位特異的な転写制御の研究への応用が期待されています。

■ 参考文献
*4 Jinek, M., et al., Science, 17, 337(6096), 816 ~ 821 (2012).
*5 Cong, L., et al., Science, 15, 339(6121), 819 ~ 823 (2013).
*6 Ran, F. A., et al., Cell, 12, 154(6), 1380 ~ 1389 (2013).
*7 Qi LS., et al., Cell, 152 (5): 1173-83 (2013).

Cas9 Nickase(D10)によるオフターゲット効果の抑制

標的部位のセンス鎖に対するguide RNA 1 とアンチセンス鎖に対するguide RNA 2 を作製し、Cas9 (D10A) を用いて2か所でニックを入れ、オフターゲット効果を抑制する。



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フナコシ取り扱いメーカーのご紹介



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CRISPR-Cas9システム製品ラインナップ

Cas9プラスミド/mRNA/タンパク質/レンチベクター

■DNA-free ゲノム編集のメリット

  • ホスト細胞株ゲノムへのプラスミド DNA 挿入のリスクを回避
  • Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミド使用時に必要な、プロモーターと細胞株の適合性の検討が不要
  • Cas9 ヌクレアーゼタンパク質は一過的な発現のため、オフターゲット効果を抑制

任意のガイドRNAを組み込めるCas9ベクター

ガイドRNA

■ガイドRNA
sgRNA(single guide RNA キメラ単鎖 RNA):ゲノム編集効率が高い(Cas9 タンパク質との同時導入)
crRNA:tracrRNA (CRISPR RNA: trans-activating CRISPR RNA ハイブリッド):短鎖 RNA のため取り扱い/コスト有利

ドナーDNA

■HR ドナーベクター
Cas9と組み合わせて使用します。
Cas9単体でも DSB(二本鎖切断)により遺伝子ノックアウトが可能ですが、ノックアウト用の HRドナーベクターを用いることで、相同組換えに成功した細胞を効率よく選択できます。また、Cas9で切断した部位に特定の配列をノックインしたい場合には、その目的配列を含むドナーベクターを一緒にトランスフェクションすると、相同組換え(HDR)によりその配列をノックインすることができます。

細胞への導入

ゲノム編集の確認

受託サービスを利用する

CRISPR-Cas9を利用して転写を活性化する

CRISPR-Cas9を利用して転写を抑制する

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