ミトコンドリア（Mitochondria）研究用製品特集

ミトコンドリアは二重膜細胞小器官で、真核細胞における代謝エネルギーの90％以上を産生します。構造的には膜間を区切る内膜と外膜があり、内膜はクリステと呼ばれるひだ状に配列され、中央のマトリックス（マトリクス）にまで達しています。ミトコンドリアの機能不全は、神経変性、心血管系、代謝、自己免疫、腫瘍などの多くの病態の主な要因であることに加え、老化などの自然現象とも関連付けられています。

ミトコンドリアは、外膜と内膜の二層の脂質膜構造を有し、内膜にはクリステと呼ばれるひだ構造が存在します。真核細胞において、生化学的エネルギーであるATPを生み出す「発電所」とも呼べる重要な役割を担っています。またそれ以外にも、細胞情報伝達や増殖、分化、細胞死といったさまざまな生体内プロセスに関与します。ミトコンドリアの機能不全は脳卒中やアルツハイマー病などの疾患を引き起こし、ミトコンドリア内の代謝経路変化は細胞内の病的変化を反映しています。例えば、がん細胞はミトコンドリア内でATPを生成する際に、酸素消費を行わずに好気的解糖によるエネルギーを選択的に利用します。このようにミトコンドリアは細胞内エネルギー代謝の中心的役割を担っているため、近年創薬における薬理学的標的として注目を集めています。

呼吸の過程は大きくは解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3つに分けられます。ミトコンドリアには、ATP産生に関与する電子伝達系酵素複合体（呼吸鎖複合体）というⅠ～Ⅴの複合体が存在し、下記の機能を担っています。

■ Complex Ⅰ（NADHオキシダーゼ／Co-enzyme Qレダクターゼ）
NADHの酸化に続きユビキノン（Q）の還元によるユビキノール（QH2）の産生、電子受容体のO2の還元を触媒します。

■ Complex Ⅱ（コハク酸／Co-enzyme Qレダクターゼ）
コハク酸からフマル酸への酸化、同時にユビキノン（Q）の還元によるユビキノール（QH2）の産生、電子受容体のO2の還元を触媒します。

■ Complex Ⅲ（CoQ シトクロムc オキシドレダクターゼ）
ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わる主要タンパク質。QH2産生中にユビキノールComplex ⅠとⅡから電子を受け取り、QH2はQサイクルとして知られる一連の酸化還元反応に入ります。

■ Complex Ⅳ（シトクロムc オキシダーゼ）
ミトコンドリア電子伝達系内の最終的な電子受容体。シトクロムcの酸化と酸素原子（O2）の4電子を還元することで水（H2O）を産生します。

■ Complex Ⅴ（F₁F₀ATPシンターゼ／ATPアーゼ）
電子伝達鎖（ETC）と複合体を形成していないミトコンドリアのF₁F₀ATPシンターゼは、一般にComplex Ⅴと呼ばれます。Complex Ⅴは、電子伝達鎖によって生成されたプロトン勾配の形成エネルギーを利用するマルチサブユニットタンパク質で、Piの存在下でADPのリン酸化によってATPを形成します。このメカニズムは酸化的リン酸化として知られており、哺乳動物細胞におけるATP生成の約90％に関与しています。また、ComplexⅤはATPアーゼとしての機能も有し、ATPを加水分解することでプロトン勾配を形成します。代表的な阻害物質に、OligomycinやAurovertinなどがあります。

シトクロムc（Cytochrome c）は、ミトコンドリア内膜に結合している電子伝達系に必須のヘムタンパク質です。アポトーシスに伴い、ミトコンドリアはCaspase活性化物質であるシトクロムc（Cytochrome c）などを放出することにより、電子伝達系が変化し膜電位差を消失することが知られています。このためミトコンドリアの膜電位は、細胞の生死を評価する指標として利用されています。

ミトコンドリアは、独自のDNA（ミトコンドリアDNA : mtDNA）を有し、母性遺伝します。ミトコンドリアDNAは塩基置換変異が起こりやすいことが知られています。ミトコンドリアの機能不全は、ATP需要の多い心筋、骨格筋、脳に異常を生じ、糖尿病、脳筋症、心筋症などのミトコンドリア病に関与していると考えられています。また、ミトコンドリア病の多くはミトコンドリアDNA上の遺伝子の変異が原因ですが、ミトコンドリアDNAのコピー数の減少や染色体DNAの異常もミトコンドリア病に関与することが報告されています。