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細菌の保存

掲載日情報:2025/12/24 現在Webページ番号:71088

細菌を長期に渡って維持するには、継代培養以外に、菌体の凍結乾燥や、超低温での凍結により菌体を保存する方法がよく用いられています。本記事では、各保存法の概要、必要な機器・消耗品および培養困難な細菌株を保存する際の注意点についてご説明します。

細菌の増殖、保存、応用に関する一般的な技術情報のまとめは、「細菌の培養方法をご紹介します(ATCC® Bacteriology Culture Guide)」をご覧下さい。
微生物品質管理試験用のリファレンススタンダードは、「ATCC® MicroQuant™」をご覧下さい。
本製品は研究用です。研究用以外には使用できません。
商用利用については、ATCC® Webサイトをご確認下さい。

細菌の保存

多くの菌株は、凍結乾燥や-130℃以下での冷凍保存(凍結保存)により、長期間保存することができます1。これらの保存法には、培養しながら細菌を維持する場合に必要な設備と試薬の準備にコストをかけるよりも、はるかにまさる下記のような利点があります。

  • 細菌ストックを作成することで設備の故障や、他の微生物のコンタミネーションによる菌株の損失防止
  • 直近で使用する予定がない菌株の維持に必要な時間、エネルギー、試薬コストの削減
  • 遺伝的不安定性や選択圧を伴う長期の継代培養により引き起こされる、表現型変化に対する保護
  • 一連の実験に使用する、基準となるストックの作製

凍結保存法

<概要>
一般的に、生きた細胞の培養液を凍結すると、生存率の低下を引き起こします2、3。細菌の培養液の温度が氷点下以下に下がると、氷の結晶が形成され始め、培養液中の溶質の濃度が高くなります。細胞内で氷の結晶が形成されると、細菌の内部構造はダメージを受けます。この影響は、冷却の過程で、細胞内の水分が浸透圧により細胞外に移動することで、最小限に抑えることができます。一般的に-1~-10℃/分の、ゆっくりした冷却操作により、この水分の移動が促進されます。しかし、細胞は水分を失うにつれてサイズが縮小し、耐えられる最小サイズ以下になると、急速に生存率が低下します。グリセロールやジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤を加えることで、この影響を軽減することができます4、5。培養細菌の保存のため、ATCC®は、凍結保護剤としてグリセロールの使用を推奨しています。

細菌を凍結保存する標準的な方法は、バイアルの凍結保護剤を含む培地中で-70℃に到達するまでゆっくりと凍結することです。次にこのバイアルを-130℃以下の液体窒素フリーザーに移し、保存します。凍結保存された細菌の復元(起眠)には、37℃のウォーターバス内で、細菌の懸濁液を素早く解凍する必要があります。そして、バイアル内の全ての内容物を適切な増殖培地に移します。ただし、解凍された細菌の生存率に影響する多くの要因を考慮する必要があります。これらの重要な要因には、凍結保護剤の組成、細菌の細胞周期の違い、保存溶液中の細菌の濃度などが含まれます。十分な生存率を得るために、各菌株に適した凍結保存のプロトコルの検討や、対数増殖期後期の培養液から細菌を回収していることを確認して下さい。

細菌の凍結保存に関する追加情報については、当社テクニカルサポート(試薬担当)またはATCC®にご確認下さい。ATCC®の凍結保存された細菌株は、通常の場合、最終濃度10%の滅菌済みグリセロールを含む培地を用いています。

<凍結保存用培地>
グリセロールやDMSOは、非常によく用いられている凍結保護剤です。ATCC®では、ほとんどのケースで、20%のグリセロ―ルのストックを用意し、最終濃度10%での使用を推奨しています。なお、対象となる細菌株がグリセロールに感受性を示す場合は、50%DMSOのストックを用意し、最終濃度5%で使用することができます。グリセロールはオートクレーブによる滅菌が可能である一方、DMSOはフィルター滅菌を行う必要があります。DMSOは、皮膚に速やかに浸透する性質があり、またその際に毒性を持つ異物も浸透させる可能性があるため、DMSOを取り扱う際は、細心の注意を払う必要があります。

DMSOやグリセロールは、Reagent gradeの製品のみを使用するようにし、小分け、遮光して保存するようにして下さい。ATCC®では、細菌株保存用に厳格に試験されたDMSO(ATCC® 4-XTM)や、難培養性ではない細菌株(易培養性の細菌株)の凍結保存用培地である、10%グリセロール含有のTSB培地(ATCC® 20-2200TM)を販売しています。ただし、各細菌株の最適な組成については、条件検討を行う必要があります。

<必要な機器・消耗品>
A. 凍結保存用バイアル
凍結保存用バイアルの材質としては、ガラス製とプラスチック製の2種類が選択できます。ATCC®では、凍結保存ストックの保管にプラスチックのバイアルを使用しています。

ガラスバイアルは取り扱いが難しく、使用前に滅菌処理する必要、高温の炎による密閉処理が必要があり、開封が難しい場合があります。その一方で、ガラスバイアルは、貴重な培養液を何年にも渡って保存する場合に推奨されており、一度適切に密閉すると、確実に保存できると考えられています。

ガラスアンプルによる凍結保存ができない場合、プラスチックバイアルが使用できます。プラスチックバイアルは、バイアル内にシリコン製のガスケットがある内ネジタイプと外ネジタイプの2種類があります。内ネジタイプのバイアルは、簡単に手に入る一方、外ネジタイプと比較して幾つかの欠点があります。例えば、シリコン製のガスケットは高い密閉性がありますが、正しくキャップを閉める必要があり、締めが強すぎたり弱すぎたりすると、バイアルからの漏れの原因になります。

B. 冷却速度制御チャンバー
-1℃/分の冷却率で試料を冷やすには、幾つかの方法があります。現状では、Thermo Fisher Scientific社のCryoMed Freezerのように、コンピューターで厳密に冷却速度が管理できる冷却装置の使用が最適と言えます。実際にATCC®でも採用している方法です。ただし、このような装置は比較的高額で、必要となるのは非常に感受性の強い細菌株を扱う場合のみです。

コストが低めの方法としては、断熱されたチャンバー内に入れた凍結保存用バイアルを-70℃またはそれ以下の温度のフリーザーに収めて凍結する方法があります。理想的な-1℃/分に近い冷却速度が得られる冷却チャンバーが幾つか市販されており、ATCC®では、CoolCell LX(ATCC® ACS-6000TM)を販売しています。断熱用に紙や綿、ピーナツ型(バラ)発泡緩衝材を敷き詰めた、容量1L程度の15 mm(3/4インチ)厚の壁を持つポリスチレン製ボックスに、バイアルを入れる方法でも対応可能です。

<液体窒素冷凍保管>
長期保存時に必要な-130℃以下の超低温は、特別なフリーザーや液体窒素冷凍システムによって維持ができます。液体窒素冷凍システムは、液体窒素にバイアルを浸漬する方法、もしくは液体窒素の気相中にバイアルを保管する方法の、主に2種類があります。液相タイプの保管システムでは、より多くの窒素が保持できるため、メンテナンスが容易です。しかし、液体窒素が誤ってバイアル内に流れ込み、取り出した際に破裂する可能性があります。そのため、ATCC®では気相タイプのシステムでの保管を強く推奨しています。

気相タイプの保管システムでは、液体窒素を含むコンテナ内に、垂直方向に温度勾配が形成されます。コンテナの底面では約-196℃になる一方、コンテナ上部の温度は、コンテナ内の液体窒素の量や、コンテナのフタが開いている時間により変化します。細菌の確実な保管のため、コンテナ内の液体窒素を十分量保ち、コンテナ内上部の温度を-130℃以下にして下さい。ほぼ全ての保管システムに、温度警告装置が備えられています。

<凍結保存の手順>
以下に示す手順は、難培養性ではないタイプの多くの細菌株(易培養性の細菌株)に使用できますが、必要に応じて手順の検討が必要になります。難培養性の細菌株の保存に関する情報は、本記事の最後で説明しています。ATCC®の細菌株の凍結培地の組成は、ATCC®の各製品ページをご参照下さい。

  1. 凍結保存の準備段階において、細菌株の機能維持のため、適切な培地を用い、最適な条件下で細菌株を培養して下さい。細菌株は対数増殖後期まで培養して下さい。
  2. 細菌を凍結する際は、最終濃度が5~10%になるようにグリセロールまたはDMSOを培地に加えて下さい。グリセロールは、通常、最終濃度の2倍の濃度の液体として用意し、細菌の懸濁液と等量を混合します。
  3. 必要な本数のバイアルに細菌株名と日付を記載したラベルを貼付します。細菌の懸濁液を各バイアルに1~1.8ml程度の量に小分けします。スクリューキャップを強く締め、プラスチックチューブを密閉します。ガラスアンプルの場合は、酸素ガスバーナーを用いてアンプルのネックを炎の中で回転させて加熱し、ネックの部分を引いて密閉します。
  4. この細菌株を15~40分程度室温に放置し、凍結培地と馴染ませます。ただし、DMSOを使用した場合、40分以上放置すると、細菌の生存率が低下する恐れがあります。
  5. このバイアルをあらかじめ4℃に冷やしておいた、冷却速度を制御できるチャンバーに入れ、-70℃以下の冷凍室に少なくとも24時間置きます。または、あらかじめ4℃に冷却したプログラム式冷凍庫に入れ、-40℃以下になるまで-1℃/分の冷却速度で制御、-40℃から急速に-130℃に冷却する方法もあります。
  6. バイアルを液体窒素または-130℃のフリーザーに速やかに移します。
  7. フリーザーの場所や細菌の詳細など、必要な情報を記録します。
  8. バイアルを-130℃のフリーザーに移してから24時間後、バイアルを1点取り出して菌株を適切な培地中で培養し、生存率やコンタミの有無を確認します。

<凍結細菌の復元(起眠)>
凍結された細菌は、できる限り速やかに温めて融解し、直ちに適切な増殖培地に移す必要があります。一部の細菌株では、凍結保存からの復元に、通常より長く時間がかかる場合があります。
4.および5.の操作は、ラミナーフロークリーンベンチ内の厳密な無菌条件下で行って下さい。

  1. 温度とpHが調整された適切な増殖培地が10 ml以上入った培養用の容器を用意します。
  2. 液体窒素を含むフリーザーから細菌のバイアルを取り出し、37℃または各細菌株の通常の増殖温度にセットしたウォーターバス中で緩やかに振とうしながら解凍します。すべての氷の結晶が溶けるまで(約2分間程度)細菌株を温めます。
  3. ウォーターバスからバイアルを取り出し、バイアルを70%エタノールに沈めるか、スプレーすることで消毒します。
  4. バイアルのフタを開け、全ての内容物を、あらかじめ準備しておいた増殖培地に移します。
  5. 適切な時間培養後、培地の状態を確認します。

凍結乾燥法

<概要>
凍結乾燥は昇華により凍結した物質から水分やそれ以外の溶媒を取り除く処理です6。昇華は、凍結された液体が、液相を経ずに気相に直接移行することで起こります。凍結乾燥のプロセスは、安定かつ簡単に水和する状態の物質を作り出します。このプロセスは、凍結構造の形成、大部分の水分の除去、結合水の乾燥除去の3つのステップを経て進行します。

凍結初期段階で、氷の結晶が形成され始め、懸濁液中の溶質の濃度が高くなります。凍結中に用いられる方法の違いは、素材に対する凍結乾燥の能力に大きく影響します。ゆっくりした速度での冷却は、垂直方向への氷の結晶構造の形成を促し、凍結された物質からの効率的な水分の昇華を促進するため、推奨されます。

凍結乾燥された物質は吸湿性があり、湿気から保護された状態での保管が推奨されます。加えて、この凍結乾燥された物質は、酸素や温度変化などにも弱く、保存期間に大きな影響を与えます。凍結乾燥された物質を湿気や酸素から保護した状態で、4℃で保管することが重要です。

菌株の凍結乾燥について追加情報が必要な場合は当社テクニカルサポート(試薬担当)または、ATCC®にご確認下さい。ほとんどのATCC®の分譲用菌株は、凍結乾燥された培養菌として調製されています。

<必要な機器・消耗品>
A. 凍結乾燥用チューブ
凍結乾燥された生物の保存のため、ATCC®では二重のガラスアンプルやストッパー付きセラムバイアルを使用しています。二重ガラスアンプルは、凍結乾燥機を用いた、培地の凍結乾燥に使用します。まず、二重ガラスアンプルの内側のインナーバイアルに試料を入れ、綿栓して凍結乾燥します。次に減圧下で、外側のアウターバイアルを密閉します。少量のシリカゲル乾燥剤が入れられたアウターバイアルが、試料の乾燥状態を維持します。この方法で保存された試料は、ほぼ無期限に保存できます。

一方で、ストッパー付きセラムバイアルは、プレセプトロール法を用いて凍結乾燥する際に用いられます。この特別な方法は、費用対効果が高く、多くの保存試料を用意する方法として開発されました。この方法で保存された菌株は、品質管理、教育、試験に用いられるような、汎用の細菌株に対して利用されます。この方法では、試料はガラス製セラムバイアル内で凍結乾燥され、ゴム製のストッパーと金属キャップにより密閉されます。プレセプトロール法を用いて凍結乾燥された細菌は、多くの場合、ブチルゴム栓で密閉されたセラムバイアルで提供されるため、コストを抑えるのに役立ちます。このプレセプトロール法により製造された試料の有効期限は約5年です。

B. 凍結乾燥に用いる設備
細菌の凍結乾燥の方法は幾つかありますが、ATCC®では凍結乾燥器を使用する方法とプレセプトロール法を用いています。この2つの方法では、細菌試料を適切な保存剤と混合後に保管用アンプルに分注し、固体の塊になるまでゆっくり凍結させます。試料を凍結後、VirTis社のGenesis Pilot Lyophilizerや、Millrock Technologies社のMax85 Freeze Dryerなどの凍結乾燥機を用いて凍結乾燥します。

一次乾燥では、昇華により凍結乾燥体から水分が除去されます。これには真空ポンプを利用しており、水分子は凍結乾燥体から除去され、コンデンサーと呼ばれる冷却トラップ上で凝結します。この方法により、コンデンサーの温度を、細菌の温度より低くすることができ、この温度差は、昇華の速度に影響を与えます。一次乾燥が完了した後、残留した水分は、細菌を加熱することで除去されます。そして二次乾燥により、試料中の水分含有量を1%以下程度になるまで除去する必要があります。この過程では、低圧と低温のコンデンサーを維持するシステムが必要です。試料の乾燥後、アンプルを適切に密閉し、冷蔵(4℃)で保存します。

<保管方法と凍結乾燥された菌株の生存率>
細菌の生存数を最大にするため、凍結乾燥前に、最適な状態で細菌を培養しておきます7。通常、増殖期の違いは、凍結乾燥時の生存率に影響します。対数増殖後期や定常期前期の細菌培養物は、低温ストレス下でも十分に生存する可能性が高くなります。細菌培養物の適切な調製のほか、適切な培養条件と増殖培地を使用することが重要です8。 栄養豊富な非選択増殖培地は、細菌の生存率を高めるために大いに役立ちます9

凍結乾燥された細菌は吸湿しやすいため、乾燥状態での保管が必要になります。酸素の含有や保存温度などの外部要因は、凍結乾燥細菌の保存可能期間に影響を与えます。 酸素は細菌の生存率に悪影響を与えると共に、凍結保存時の温度に直接比例します。そのため、凍結乾燥細菌の長期保存時には、湿度と酸素から試料を保護し、冷蔵(4℃)状態を維持することが必要です。

<凍結乾燥の手順>
A. 凍結乾燥機

  1. インナーバイアル(Glass Vials社、11.5×35 mmサイズのガラス製バイアル)を洗浄し、脱脂綿で栓をします。
  2. アウターバイアル(Glass Vials社、14.25×85.0 mm)に少量のシリカゲル乾燥剤(Thermo Fisher Scientifics社、grade 42、6~16 mesh)を入れ、バイアルの底半分を覆うようにします。インナーバイアルの衝撃を保護するため、小さな綿を追加して、100℃で一晩加熱します。
  3. 細菌株の性質を維持するため、適切な培地を用いて適切な条件で細菌株を培養します。細菌は対数増殖期後期まで培養します。
  4. 得られた細菌株をReagent 20(ATCC® 培地組成 9520)に懸濁し、良く混合します。各インナーバイアルに0.2 mlずつ懸濁液を分注します。綿栓を交換し、バイアルの縁の高さと同じになるように刈り込みます。
  5. 次にインナーバイアルをステンレス製の容器に入れ、試料をゆっくり凍結します。
  6. 試料を凍結後、凍結乾燥機内で18時間、試料を凍結乾燥します。
    凍結乾燥機の使用の前に、コンデンサー(冷却トラップ)はあらかじめ冷却し、凍結乾燥機は30 umHg未満になるまで排気して下さい。
  7. 凍結乾燥サイクルが完了した後、凍結乾燥機からインナーバイアルを取り出し、あらかじめ準備していたアウターバイアル内に挿入します。インナーバイアルの綿栓の上に繊維紙製の1/4インチサイズの栓を詰めます。
    この作業はドライキャビネット内で行って下さい。
  8. バーナーを用いてアウターバイアルを繊維紙のすぐ上のガラスが収縮し始めるまで回転しながら加熱します。この操作により、毛細管を作製します。ガラスが冷えたら、バイアルを凍結乾燥機のマニフォールドのポートに取り付けます。凍結乾燥機を50 umHG以下になるまで排気します。
  9. バーナーを用い、バイアルの毛細管部分を密閉し、4℃で保管します。24時間後、培地中で細菌株を起こし、生存率とコンタミの有無を確認します。

B. プレセプトロール法(Preceptrol Method)

  1. 2 mlのセラムバイアル(Wheaton Scientific社)にラベルを貼ります。バイアルをトレーに並べ、直径6.5インチのフィルターとアルミホイルで覆い、180℃で4時間加熱します。その間、スロット入りのブチルゴム製のストッパー(West Pharmaceutical Services社)をオートクレーブで滅菌しておきます。
  2. 細菌株の特性を維持するため、適切な培地を用いて適切な条件で細菌株を培養します。細菌株は対数増殖期後期まで培養します。
  3. 細菌株をReagent18に懸濁します。
  4. 各バイアルに懸濁液を0.4 mlずつ分注し、各バイアルに滅菌済みのストッパーを慎重にセットします。気化ガスによりに外れる場合があるので、ストッパーを強く押し込まないように注意して下さい。
  5. 凍結装置内で試料をゆっくり凍結します。
  6. 試料の凍結後、0,5~1インチ厚の滅菌済みの綿でバイアルを覆い、凍結乾燥機内で18時間、試料を凍結乾燥します。
    凍結乾燥機の使用の前に、コンデンサーはあらかじめ冷却し、装置を100um Hg未満になるまで排気して下さい。
  7. 凍結乾燥サイクルの完了後、凍結乾燥機からバイアルを取り出し、消毒液を十分にスプレーします。安全キャビネット内で少なくとも30分間、バイアルを紫外線下に置きます。
  8. アルミ製キャップ(Wheaton Scientific社)でバイアルを密封し、4℃で保管します。24時間後、培地中で細菌株を復元し、生存率とコンタミの有無を確認します。

   Reagent18の組成
  ・トリプティックソイブロス 0.75 g
  ・スクロース 10.0 g
  ・ウシ血清アルブミンフラクションV 5.0 g
  ・蒸留水 100 ml
    Reagent18を調製後、0.2 μmのフィルターを用いて滅菌を行う。


<凍結乾燥した細菌の復元>

  1. 凍結乾燥した細菌に、0.3~0.4 mlの培地を加えて懸濁します。
  2. 良く混合し、5~6 mlの液体培地が入ったチューブ(試験管)に移します。
  3. この懸濁液を数滴、寒天スラントや平板寒天培地に加えます。増殖培地は細菌に最適なもの使用して下さい。各菌株に最適な培地については、ATCC®のウェブサイト上の製品詳細ページをご確認下さい。
  4. 細菌株を適切な温度と大気条件(嫌気、好気など)で培養します。

培養困難な細菌株(難培養性の細菌株)の保存

多くの細菌株は凍結乾燥可能で、ほとんどの細菌株は液体窒素の気相内で凍結保存ができます。凍結保存や凍結乾燥保存の準備段階において、細菌株は最適な条件下で培養する必要があります。この条件には、平板培養、振とう培養、静置培養も含まれます。また、培養困難な細菌株の保存の準備の際には追加の注意点があります。

<嫌気性細菌>
嫌気性細菌の適切な保存には、増殖、回収、分注、凍結の間、嫌気状態を維持する必要があります。凍結保存剤と懸濁用培地は、事前に脱気し、滅菌済みの管を用いて無酸素ガスを供給することで、嫌気状態を維持する必要があります。

<バクテリオファージ(Bacteriophages)>
多くのバクテリオファージは、問題なく凍結乾燥法で保存できますが、凍結乾燥法で保存できないバイクテリオファージも液体窒素で保管できる場合があります10、11。保存に先立ち、バクテリオファージを軟寒天培地や液体培地中で、10^8 pfu/mlになるように増殖させます。バクテリオファージは、コントロールされた冷却速度下であれば、保存剤が無くても凍結保存できます。ただし、凍結保護剤を必要とするバクテリオファージの場合は、懸濁液と等量の20%のグリセロールを混合します。凍結乾燥の場合、フィルター滅菌済みのバクテリオファージの懸濁液を20%のスキムミルクと混合し、凍結乾燥機を用いる方法で凍結乾燥を行います。

<モリクテス綱(Mollicutes)>
モリクテス綱の微生物の保存には、凍結保存や凍結乾燥に先立ち、液体培地での増殖が必要になります。培養後、細菌の懸濁液を遠心し、培養液と等量の20%グリセロ―ルを混合した保存液に懸濁します。また、凍結乾燥機を利用する場合、培養液と等量の24%スクロースを混合した保存液に細菌を懸濁することができます12

<ナイセリア(Neisseria)、ヘモフィラス(Haemophilus)、カンピロバクター(Campylobacter)、ヘリコバクター(Helicobacter)>
これらの属の細菌は、保存中のダメージに非常に弱いことが知られています13。細菌の生存率と復元率を高めるため、細菌株は最適条件での培養と適切な増殖期での回収が必要になります。凍結乾燥時にこれらの細菌株の安定させるため、凍結の前に0.5%のアスコルビン酸ナトリウムを培地に添加します。

<スピロヘーター(Spirochetes)>
スピロヘーターの凍結乾燥は非常に困難です。10%のグリセロールで凍結し、液体窒素の気相中での保存が推奨されています14

細菌を保存する作業時に注意すべきこと

細菌株の凍結保存や凍結乾燥を行う際は、細心の注意を払う必要があります。コンタミネーション、作業や保存時のガラスアンプルの破損、ガラス製アンプル開封時の凍結乾燥細菌の飛散、液体窒素の取扱いなどの問題が考えられます。コンタミネーションや細菌の飛散防止のため、無菌操作法に従って取り扱って下さい。そのため、すべての器具やバイアルは汚染除去し、調製作業は安全キャビネット内で行うことが推奨されています。また、防護服の着用は作業中のコンタミネーションを防ぐと共に、液体窒素との接触による怪我の防止にも役立ちます。

参考文献

  1. Reddy, C.A., et al., Methods for General and Molecular Microbiology 3rd Edition, (2007).
  2. Mazur, P., "The role of intracellular freezing in the death of cells cooled at supraoptimal rates.", Cryobiology, 14(3), 251-272(1977). [PMID:330113]
  3. Mazur, P., "Cryobiology: the freezing of biological systems.", Science, 168(3934), 939-949(1970). [PMID:5462399]
  4. Fahy, G.M., "The relevance of cryoprotectant "toxicity" to cryobiology.", Cryobiology, 23(1), 1-13(1986). [PMID:3956226]
  5. Meryman, H.T., "Cryoprotective agents.", Cryobiology, 8(2), 173-183(1971). [PMID:5578883]
  6. Rowe, T.W.G. and Snowman, J.W., Edwards Freeze-Drying Handbook, (1976).
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  11. Clark, W.A., et al., "Attempts to freeze some bacteriophages to ultralow temperatures.", Appl. Microbiol., 10(5), 463-465(1962). [PMID:14021543]
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  13. Mills, C.K. and Gherna, R.L., "Cryopreservation studies of Campylobacter.", Cryobiology, 25(2)148-152(1988). [PMID:3371059]
  14. Alexander, A.D., et al., "Preservation of Leptospiras by Liquid-Nitrogen Refrigeration.", Int. J. Syst. Evol. Microbiol, 22(3), 165-169(1972). [DOI:10.1099/00207713-22-3-165]

用語集

  • 乾燥剤:密閉容器内で、その周辺領域に乾燥状態を誘導または維持する吸湿性物質。
  • 凍結乾燥:微生物培養物から水分を除去するプロセス。これにより製品は安定性を保ち、保存が容易になる。凍結乾燥後は通常、4℃の低酸素・低湿度で保存する。
  • 凍結保存:細胞、組織、胚、種子などを超低温で保存すること。通常は-100℃以下の温度で保存する。

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