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細菌の増殖と培養

掲載日情報:2025/12/24 現在Webページ番号:71086

本記事では、各細菌株の性質に応じた培養(増殖、維持)方法についてご紹介します。

細菌の増殖、保存、応用に関する一般的な技術情報のまとめは、「細菌の培養方法をご紹介します(ATCC® Bacteriology Culture Guide)」をご覧下さい。
本製品は研究用です。研究用以外には使用できません。
商用利用については、ATCC® Webサイトをご確認下さい。

細菌の増殖イメージ1

細菌の培養条件

<温度>
細菌はさまざまな環境で生存し増殖できますが、種によって最適温度が大きく異なります。一般的に、ほとんどの病原細菌や常在細菌は、ヒトの体温(37℃)と同程度の温度で活発に増殖します。対照的に、自然環境中に見られる多くの細菌は、それより低温の25~30℃の範囲で増殖します。細菌は、その細菌の増殖に最も適した温度(最適増殖温度)に基づいて分類できます。この分類には、好冷細菌(0~20℃)、中温細菌(25~40℃)、好熱細菌(45~122℃)に大別されます。ほとんどの細菌は最適増殖温度より低温な環境に対しても耐性があり、4℃で数日間生存することもできますが、このような低温下では、細菌の増殖速度と代謝速度が著しく低下します(下記NOTE1参照)。

NOTE1
培養装置(インキュベーター)の温度制御システムを定期的に較正して下さい。適切な温度管理のために、設定温度より上昇したことを知らせるアラームシステムの利用を推奨します。


<大気条件>
菌株によって、最適な増殖温度の条件が異なるだけでなく、細菌が利用する代謝系の違いによって酸素の要求性が異なります。好気性細菌(例:バシラス属;Bacillus)は、生存や増殖に酸素を必要とし、好気呼吸と呼ばれる代謝系で、酸素を末端電子レセプターとして使用します。微好気性細菌(例:ヘリコバクター・ピロリ;Helicobacter pylori)も酸素を必要としますが、自然界に存在する酸素濃度よりも低濃度で培養する必要があります。対照的に、嫌気性細菌は嫌気呼吸を行い、硝酸塩や硫酸塩などの無機レセプターを使用します。これらの無機化合物は、酸素よりも還元電位が低いため、呼吸が効率的ではありません。

嫌気性菌が酸素と無機化合物を使用する方法は、菌株によって異なることがあります。偏性嫌気性菌(例:クロストリジウム属;Clostridium)は、酸素が存在する環境下では生存も増殖もできず、死滅する場合があります。同様に、耐気性嫌気性菌(例:ラクトバチルス属;Lactobacillus)は、呼吸中に酸素を使用しませんが、偏性嫌気性菌と異なり、短時間であれば酸素への耐性があります。通性嫌気性菌(例:大腸菌;Escherichia coliおよびブドウ球菌;Staphylococcus)は、酸素の有無によらず生存可能です。通性嫌気性菌は、酸素の存在下では呼吸効率が高い酸素を利用して好気呼吸を行います。嫌気性菌を取り扱う際は、酸素への不必要な曝露を避けることが重要です。以下の方法によって嫌気条件を得ることができます。
標準の嫌気性ガスの混合比:窒素80%、二酸化炭素10%、水素10%
大気条件を指定されていない場合の混合比です。菌株によって条件が異なりますので、ご注意下さい。

継代のための嫌気条件は、以下のいずれかを使用して環境を整えることができます:

  1. 嫌気性ガスチャンバーを使用する。
  2. 嫌気性ガスを供給する嫌気培養機器を使用する。

培養時の嫌気条件は、以下のいずれかを使用して環境を整えることができます:

  1. 嫌気性チャンバー内に試験管を配置する。試験管のねじフタは緩く締める。
  2. ガス交換資材を入れた嫌気ジャーに試験管を配置する。試験管のねじフタは緩く締める。
  3. 試験管を滅菌ブチルゴム栓で密閉し、試験管内が嫌気性条件を満たすようにする。

細菌の培養方法

細菌の培養方法は種によって大きく異なります。以下に、易培養性の細菌株の一般的な増殖方法の手順と、難培養性の細菌株やバクテリオファージに対する培養手順を説明します1。推奨培地と成長条件に関する情報は、ATCC®ウェブサイトの各製品の詳細ページに記載されています。Product sheet(データシート)などはATCC®ウェブサイトから入手できます。より詳細な情報は、Springer出版の『Bergey's Manual of Systematic Bacteriology 2nd Edition』に記載されています。

細菌の培養イメージ2

<易培養性の細菌株の培養>

  1. その細菌に対して推奨されている方法に従ってバイアルを開封します。
  2. 前の章「ATCC®の細菌を使用するための準備」で説明されている指示に従い、凍結乾燥、または冷凍保存された細菌を復元させます。細菌を十分復元するために、ペレットを完全に懸濁して下さい。
  3. 細菌を含む懸濁液を無菌条件下で培地を含む試験管に移し、よく混合させます。
  4. 推奨の寒天スラントや平板寒天培地に懸濁液を数滴接種します。
  5. 推奨の温度および、大気条件(嫌気、好気など)で培養します。培養期間は菌株によって異なります。

<難培養性の細菌株やバクテリオファージの培養>

A. バクテリオファージ(Bacteriophages
ATCC®のバクテリオファージは、それぞれの種に対応する宿主細菌株を用いることを推奨しています。
凍結乾燥、または解凍した液体窒素バイアルのファージを復元する手順:

  1. ファージが充填されているバイアルを開封する前に、その製品に推奨されている宿主株を用意します。対数増殖期の宿主株を使用します。
  2. 前の章「ATCC®の細菌を使用するための準備」で説明されている指示に従い、凍結乾燥、または冷凍保存された細菌を復元させます。細菌を十分復元するために、ペレットを完全に懸濁して下さい。
  3. 推奨されている培地で作製した平板培地をインキュベーター内であらかじめ温めておきます。プレート表面に、宿主を混ぜた0.5% 43~45℃の軟寒天培地2.5 mlを塗布します。軟寒天は、ウォーターバスを利用して保温することを推奨しています。プレートに塗布した軟寒天が固まるまで静置します。
  4. 手順2で懸濁したファージを10倍段階希釈します。0.25 mlのファージ原液を2.25 mlのブロス培地入りチューブへ添加します。その後、0.5 mlのファージを4.5 mlのブロス培地入りチューブへ添加します。この段階希釈は必要数だけ繰り返します。
  5. 手順4で作製した各希釈液から1滴ずつ、手順3で用意したプレートの表面に滴下し、乾燥させます。1枚のプレートにつき、3~4段階の希釈液を滴下できます。24時間培養した後、溶菌の有無を確認します。高倍率の希釈段階で個々のプラークがカウントしやすくなります。
  6. 多くのファージは、軟寒天培地を使用せずに力価を測定することもできます。軟寒天培地を使用しない場合、各プレートの表面に宿主を約1.0 mlずつ滴下します。プレートを傾けて回し、プレート全体が覆われるように塗り広げた後、余分な溶液を取り除きます。表面を乾燥させ、各希釈段階のファージ液を手順5の操作と同じように行います(下記NOTE2参照)。

NOTE2
プレートにファージを滴下することで、溶菌の有無を視覚化しやすくなります。プレートに注ぐ前に、ファージを軟寒天に直接加えると、不明瞭なあるいは小さなプラークを見つけることが難しくなる可能性があります。また、宿主細菌に耐性株が存在すると、プラークの形成が難しくなることがあります。


ファージの培養方法:

  1. ファージは、上記のように宿主を含む軟寒天で覆ったプレートを準備し、表面に濃縮したファージ約0.5 mlを添加して培養します。別の方法として、宿主を含む軟寒天にファージをあらかじめ加え、プレートに塗布することもできます。大容量で培養する場合、大型のT-フラスコを用意し、推奨の寒天の表層に宿主を含む軟寒天を約12.0 mlを注ぎます。その後、固まった寒天の表面へ覆うようにファージを添加します。あるいは、前述のようにファージをあらかじめ宿主を含む軟寒天に直接添加してから、T-フラスコへ注ぐことも可能です。
  2. 24時間培養後、または溶菌が観察されたら、軟寒天を削って回収します。回収した寒天を約1,000 rpmで25分間遠心分離し、細胞のデブリと寒天を沈殿させた後、上清を保存します。
  3. この上清を0.22 μm孔径のフィルターへ通し、ろ過したファージ液を4~8℃で保存します。このファージろ液は冷蔵庫で長期保存が可能です。凍結保存剤を使用せずに凍結することもできますが、液体窒素を用いた保存が長期保存の最適な方法です。大部分のファージは凍結乾燥が可能です。ATCC®では、ろ過したファージろ液と同量の2倍濃縮スキムミルクを混合してから凍結保存します(下記NOTE3参照)。

NOTE3
多くのファージは液体(ブロス)培養(Broth propagation method)できます。しかし、各細菌株のProduct sheetに指定がない限り、ATCC®ではAdams M.H. Bacteriophages. Interscience Publishers, Inc., New York, 1959.に記載されたthe Adams agar overlay法を採用しています2


B. バクテロイデス属(嫌気性細菌)(Bacteroidaceae
バクテロイデス属に分類される多くの細菌は、嫌気条件で増殖します。ATCC®は、新規に調製、または、以前に調製して嫌気条件下で保存したした還元培地を使用することを推奨しています。

培地は還元剤を加えて調製し、嫌気チャンバーなどの嫌気環境で保存できます。あらかじめ還元培地を用意する場合は、5~10 mlの混合液に対して0.1 mlの還元剤を加え、最低30分間静置します。還元剤として、次のいずれかを利用できます:1.5% Na2S*9H2O、3% cysteineまたは5% coenzyme M。

Pre-reduced Anaerobically Sterilized(PRAS)培地は、市販品も利用できます。嫌気条件下で、培地を沸騰させて酸素を除去し、還元剤を加え、オートクレーブ滅菌した後に分注されています。

  1. 嫌気条件かつ、無菌条件下で、推奨される液体培地0.5 mlを添加し、バイアル内容物を再懸濁します。
  2. 手順1で再懸濁させた細菌を液体培地5 mlに移します。この時、同じ種類の培地で作製した寒天スラントや、血液寒天培地に細胞懸濁液を0.1 mlずつ接種することができます。
  3. 培地とスラントを37℃、嫌気条件下で培養します
  4. 血液寒天培地を嫌気条件下で培養し、コロニーを形成させます。好気性細菌の混入を確認するため、好気条件下でも培養します。
  5. 適切な培養期間(菌株に依存する)の後、液体培地中の濁り具合や寒天表面のコロニーを観察し、細菌の増殖を確認します。好気条件下で培養したプレートでは、細菌の増殖が見られません。
または

前章「細菌の培養条件」で紹介されている方法で嫌気環境を整えることができます。


C. ブデロビブリオ(Bdellovibrio spp.
ブデロビブリオは、特定のグラム陰性細菌を宿主とする捕食細菌です。そのため、ブデロビブリオを起眠させる前に、宿主となる細菌株を培養する必要があります。以下に基本的な培養手順を説明します。

  1. 事前に、推奨される培養条件に従って適切な宿主株を培養します。
  2. ブデロビブリオ凍結乾燥ペレットを推奨培地0.5 mlで再懸濁し、その懸濁液を滅菌済み試験管に移します。
  3. 増殖期の宿主株を約0.5 ml添加します。
  4. 0.6%半流動寒天を2.5 mlずつ入れた試験管の寒天を溶かし、45℃に設定したウォーターバスで保温します。
  5. 寒天を溶かした試験官に、ブデロビブリオと宿主を含む懸濁液を0.2~0.3 mlずつ添加します。あらかじめ温めておいた推奨の平板寒天培地の表面に注ぎます。
  6. プレートを30℃で2~3日間、好気条件で培養します。プラーク、または透明化が認められるまで毎日観察します。
  7. プレート表面を剥がし取って試験管に分取します。低速で遠心分離し、寒天と宿主の細胞デブリを沈降させます。ブデロビブリオは上清から得られます。ウェットマウントで顕微鏡観察し、小刻みに素早く動く個体の有無を確認します。

D. ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi
ボレリア・ブルグドルフェリは死滅しやすく、環境条件に敏感な細菌のため、適切な培地と培養条件を設定するが必要があります。この細菌の培養には、ウサギ血清を添加したBarbour-Stoenner-Kelly(BSK)培地を用いることが必須です。細菌の増殖を促進させるために、常に新しい培地を使用し、1か月以上経過した培地を使用しないで下さい。

  1. クライオバイアルの全内容物を解凍します。解凍した内容物全量を、5~6 mlの新鮮な推奨培地を入れた試験管に移し、よく混合します。
  2. 手順1で再懸濁した細胞懸濁液の1/10を、新鮮な培地が入った2~3本の試験管にそれぞれ分注します。
  3. 微好気条件下で細菌を32~37℃で培養します。
  4. 通常は48時間後に増殖しますが、一部の株は増殖に数日かかる場合があります。 増殖中に酸が産生されると、培地は淡いオレンジ色、または黄色がかったオレンジ色に変化しますが、濁りは認められません。暗視野顕微鏡で観察し、小刻みに動く長い螺旋菌の存在を確認します。
試験管

E. レプトスピラ(Leptospira spp.
レプトスピラは、培養が難しいとされている好気性細菌です。ATCC®では、寒天を添加したLeptospira Medium(ATCC®培地組成 1470)を使用することを推奨しています(下記NOTE4参照)。

  1. バイアルを解凍します。無菌下で、推奨培地(10~12 ml)を含む試験管に細胞懸濁液を接種します。接種する際は、半流動培地の表面の直下にピペットを挿入します。必要に応じて、この試験管から0.5 mlを分注し、さらに別の試験管へ接種します。コンタミを調べるために、好気性血液寒天培地を使ってストリークプレート法を行います。
  2. 試験管のスクリューキャップを軽く締めた状態で、血液寒天プレートと共に、好気性条件下で細菌を30℃で培養します。
  3. 菌株によっては、培養開始から増殖が見られるまでに6~20日程度かかることがあります。培養時間が経過するにつれて、細菌が増殖し、培地表面のすぐ下にバンド状の層が観察されます。培養がさらに進むと、バンドは太くなります。細菌が増殖すると、屈曲運動する螺旋菌を暗視野顕微鏡で観察することができます。好気性血液寒天培地では細菌の増殖は見られません。

NOTE4
ATCC®は各製品の培地の配合情報のみを提供しています。現在、微生物培地のほとんどはATCC®では販売していません。


F. カンピロバクター(Campylobacter spp.
カンピロバクターは、一般的に培養や維持が難しい細菌です。C. concisusC. mucosalisC. showaeなどの多くのカンピロバクターは、ギ酸塩とフマル酸塩が添加されたBrucella albimiブロス、またはトリプトソイ寒天培地を必要とします。

  1. バイアルの内容物を推奨培地0.5 mlで再懸濁します。これを無菌条件下で推奨培地(5.0 ml)に添加します。
  2. 平板寒天培地、寒天スラント、または液体培地試験管を用意し、それぞれに懸濁液0.1 mlを接種します。細菌がガス交換を行えるように、試験管の蓋を緩めておきます。
  3. 微好気性条件下で細菌を37℃で培養します。微好気性条件下を設定する際は、嫌気ジャーとカンピロバクターに適した活性触媒を備えた微好気性ガス発生器、または、3~5%の酸素と10%の二酸化炭素の大気混合物を供給できる適切なシステムを用います。
  4. 培養初期は、目視できる程度の増殖が確認できるまで3~7日の時間を要する場合があります。その後の継代培養では、通常2~3日程度で増殖します。

G. ヘリコバクター(Helicobacter
ヘリコバクターは、ヒトを含むさまざまな動物から単離されています。微好気性の培養条件を必要とし、5%のヒツジ脱フィブリン血液を添加したトリプトソイ寒天培地で培養できます。以下では、ヘリコバクターの起眠のための二相系培養を説明します。この方法は、他の増殖方法と比較して最も早く増殖し、最良な培養法です。

  1. 推奨される液体培地をバイアルに0.5 ml加え再懸濁します。
  2. ペレットが再懸濁されるまで、ピペットの先を使ってよく混ぜます。
  3. 懸濁液0.4 mlを新しい寒天スラントに添加します。残りの0.1 mlは新しい寒天プレートに添加します。
  4. 寒天平板培地と寒天スラントを、活性触媒と微好気性ガス発生器Gas Pakを備えた嫌気性ジャーに入れる、または、微好気性条件(酸素3~5%と二酸化炭素10%)に設定できるインキュベーターに入れます。
  5. 37℃で72時間培養します。
  6. 72時間の培養後、寒天平板培地とスラントの表面に小さなコロニーが確認できます。二相法のスラントの液体部分には、活発に増殖した細菌が見られます。

H. レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila
レジオネラ・ニューモフィラは培養条件が厳しく、推奨される成長培地のcharcoal-yeast extract(CYE)緩衝培地の質に非常に敏感です。ATCC®は、培地の温度が低いときにpHを確認することを推奨しています。また、培地を光にさらすと過酸化物が蓄積し、細菌の増殖を妨げる可能性があるため、遮光して暗所で保存することを推奨します。

  1. 使用するまで細菌株が充填されたバイアルを4℃で保存します。
  2. 推奨されるブロス0.5 mlを添加してペレットを再懸濁します。
  3. ペレットが懸濁したら、バイアルの内容物を5~6 mlの液体培地が入った試験管に移します。このブロスは、別の試験官や寒天スラント、平板寒天培地へ分注して、コンタミや生存率の確認に使用することができます。
  4. 37℃、二酸化炭素5%が含まれる大気条件下で培養します。培養開始から48時間後に細菌の増殖が観察されます。

I. モリクテス綱(Mollicutes)
モリクテス綱は、細胞壁がない特徴をもつ細菌です。細胞壁を持たない代わりに、ほとんどの種類では細胞膜の硬さを高めるために、細胞膜にステロールを含んでいます。マイコプラズマ(Mycoplasma)、スピロプラズマ(Spiroplasma)、ウレアプラズマ(Ureaplasma)がモリクテス綱に含まれる細菌の一例です。これらの種は、栄養豊富な成長培地を必要とし、過剰増殖に敏感です。

  1. 推奨液体培地2.0 mlを滅菌済み試験管へ添加します。また、4.5 mlの液体培地を含む試験管を数本用意します。
  2. 推奨方法に従って凍結乾燥バイアルを開封します。2.0 mlのブロスを含む試験管から0.5 mlを凍結乾燥ペレットに加えて再懸濁し、懸濁液を試験管に戻します。
  3. 1本目の試験管から0.5 mlを分取し、4.5 mlのブロスを含む2本目の試験管に添加し、さらにこの2番目の試験管から0.5 mlを分取して3番目の試験管に、といった手順で段階希釈を行います。この希釈系列は、力価測定の目的だけでなく、培養状態を様々な増殖段階に保つためにも重要です。多くのモリクテス綱の菌株は、培地がアルカリ性になると死滅する傾向があります。
  4. 推奨の培養条件と温度で培養します。培養期間は菌株によって異なります。好気性条件を必要とする菌株については、ATCC®は嫌気ジャー、または他の適切な装置やシステムを使用することを推奨しています。

J. 緑色硫黄細菌および紅色硫黄細菌(Green and Purple Sulfur Bacteria)
緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌は、光合成が可能な嫌気性または微好気性の細菌です。藻類とは異なり、還元剤としてH2Oを使用せず、代わりに硫化水素を使用します。

  1. 新鮮な推奨培地で上部まで満たした125 mlのスクリューキャップ付き試験管へ細菌を添加します。
  2. 培地を室温で、2,000~3,000ルクスの白熱灯下に置き、硫黄(培地の濁り)が消失するまで培養します。
  3. 滅菌済み中性硫化水素溶液1.0~2.0 mlを推奨培地へ添加します。

細菌の力価測定

細菌数の測定は、細菌増殖率の確立、モニタリングや、既知の細菌数で新規に培養を始めるためにも必要です。培養細菌の力価は、1 mlあたりのコロニー形成単位(CFU/ml)の数を計測するか、または600 nmの波長での光学密度(OD600)を測定することによって求められます。ある時点における細菌懸濁液中のCFU/mlを算出するには、増殖が活発な培養液を用いて、適切な液体培地で段階希釈を行います(下記NOTE5参照)。希釈倍率は、細菌の増殖速度や細胞周期によって異なります。各希釈液を適切な寒天培地に塗布し、その菌株にとって最適な条件下で培養します。適切な期間培養した後、各プレート上のコロニーをカウントします。最良の結果を得るためには、コロニー数が25~250の範囲にあるプレートのみを使用します。CFU/mlを求めるには、1つの希釈系列のコロニー数の平均値を計算し、プレートの最終希釈倍率で割り算を行います。例えば、最終希釈倍率が10-7のプレートから、40、37、43の3つのコロニー数が得られた場合、細菌の力価(CFU/ml)は4.0×108CFU/mlになります。

NOTE5
細菌の力価を測定している間、元の培地中の細菌濃度が一定に保たれるように、増殖を4℃で一時停止することができます。なお、細菌の種類によって4℃では生存が難しい場合や、一時停止せずにゆるやかに増殖し続ける場合もあるのでご注意下さい。


分光光度計は、試料の光学密度や吸光度を測定することにより、細菌懸濁液の力価を測定できます。培養した細菌の濃度は、透明なキュベットに懸濁液を入れて600 nmの単一波長を照射して測定します。光線が試料を通過すると、一部の光が溶液に吸収され、残りの光は光度計によって定量化されます。一般に、溶液の濃度が高くなるほど、より多くの光が吸収され、OD測定値は高くなります。分光光度計のOD600の読み取り値が培地のODではなく、細菌懸濁液のODであることを確認するために、培地のみのキュベットを測定装置のブランクとして用います。

細菌の増殖速度と培養条件は種によって大きく異なるため、細菌力価を定量することが困難な場合があります。特定の菌株の培養方法の詳細については、ATCC®ウェブサイトの各製品の詳細ページをご確認下さい。その他の情報では、『Bergey's Manual of Systematic Bacteriology 2nd Edition』(下記NOTE6参照)にも記載されています。

NOTE6
ボレリアやレプトスピラなどのいくつかの細菌は、通常、寒天培地で培養されません。これらの細菌株に対して、ATCC®では力価を確定するために光学顕微鏡を使用しています。

参考文献

  1. Reddy, C.A., et al., Methods for General and Molecular Microbiology 3rd Edition, (2007).
  2. Adams, M.H., Bacteriophages, (1959).

用語集

  • 嫌気性細菌:生存に酸素を必要としない細菌。呼吸では無機化合物を最終電子受容体として利用する。
  • 好気性細菌:生存に酸素を必要とする細菌。呼吸では酸素を終末電子受容体として利用する。
  • 好熱細菌:45~122℃の高温環境で生育する極限環境微生物。
  • 好冷細菌:0~20℃の低温環境下で生育可能な極限環境微生物。
  • 耐気性嫌気性菌:酸素を利用できないが、酸素の存在による影響も受けない細菌。
  • 脱フィブリン血液:凝固の過程において、フィブリンが除去された全血。
  • 中温細菌:25~40℃の中温域で最もよく生育する微生物。
  • 通性嫌気性菌:酸素の有無にかかわらず生存できる細菌。酸素の存在下では、酸素がすべての終末電子受容体の中で最も高い還元電位を持つため、酸素を利用する。
  • 難培養性:栄養要求が複雑で、栄養強化培地での増殖を必要とする。
  • 微好気性細菌:呼吸に酸素を必要とするが、大気中よりも低濃度の酸素で生育する。
  • 偏性嫌気性菌:酸素存在下では生存できず、死滅する場合もある。

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