ドーパミンの挙動を可視化するプローブ DAtracer(Alkyne-tagged Dopamine)
掲載日情報:2022/07/25 現在Webページ番号:68312
フナコシ /
フナコシ株式会社
[メーカー略称:FNA]
DAtracerはドーパミンの挙動を可視化する試薬です。ドーパミンにごく小さなアルキンタグを付加したもので、ドーパミン本来の物理化学的特性・生理機能を維持しています。DAtracerを組織・細胞試料に取り込ませた後、クリックケミストリーによって標識することで容易に検出することができます。ドーパミンの挙動解析などに応用が可能です。
※ 本製品は慶應義塾大学 医学部薬理学教室 塗谷睦生准教授の研究成果をもとに、フナコシ株式会社が製品化し、販売しています。
※ 本製品は研究用です。研究用以外には使用できません。

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各種細胞内局在マーカーとの共染色の例
細胞内局在マーカーとして、ER-Tracker GreenまたはRed(小胞体、いずれもThermo Fisher Scientific社)、Alexa 594-Transferrin(エンドサイトーシス小胞)、Calcein Red(細胞質)を用い、初代培養線条体ニューロンにおけるDAtracerとの共局在解析を行った。DAtracerとマーカーを同時に細胞内へ取り込ませた後、DAtracerを標識するためにクリック反応を行った。DAtracerの標識には、マーカーの蛍光スペクトルに重複しないように、Alexa Fluor 555 azideまたはAlexa Fluor 488 azideを用いた。その結果、DAtracerが主に細胞質および細胞体の小胞体に局在する様子が観察された。
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ドーパミンとその挙動の解析について
ドーパミンは、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、運動調節・報酬・意欲・学習などに関わっています。ニューロンにおいて合成されたドーパミンは、シナプス小胞の中へ充填された後に活動電位の発生に伴って細胞外へ放出されます。細胞外へ放出されたドーパミンはごく近傍のシナプス後細胞のみに情報を伝達する(シナプス伝達)のではなく、むしろ比較的長距離を拡散し、多数の標的へ影響を及ぼすと考えられています(ボリューム伝達)。そのため、ドーパミンの動態をその標的と関連付けて解明することは、ドーパミン作動性神経系の機能を理解するために不可欠です。ドーパミンの時空間的な挙動は、細胞外空間中での拡散に加えて、レセプター、トランスポーター、各種酵素による代謝によって複雑な制御を受けていると考えられていますが、解析ツールが限られていることもあり依然として明らかになっていません。
ドーパミンの挙動を追跡する既存の手法としては放射性同位体による標識が用いられてきましたが、感度が低い、他のプローブと多重染色ができない、安全に取り扱うために特別な注意が必要であるなどの問題がありました。また、ドーパミンは非常に小さな分子であり、蛍光標識を行うと本来の機能が失われてしまうという問題もありました。その他にも、モノアミン型シナプス小胞を標識する蛍光物質も用いられてはいますが、ドーパミンとは物理化学的、生理学的に異なる挙動を示すためドーパミンプローブとしての用途は限られていました。このように、既存のツールには多くの問題点があり、これらを解決するドーパミンプローブが待ち望まれていました。
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DAtracerとは
DAtracerは慶應義塾大学 医学部薬理学教室 塗谷睦生准教授によって開発されたドーパミンプローブです。サイズの非常に小さいアルキンタグをドーパミンに付加することで、既存プローブの問題点を克服し、高感度、高解像度でのドーパミンの挙動追跡が可能となります。
構造
DAtracerは、ドーパミンにアルキンタグ(炭素間三重結合)が付加された構造を持ちます(図1)。

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図1:ドーパミンとDAtracerの構造
原理
DAtracerは、銅触媒の存在下においてアジド基と特異的かつ効率的に反応し、トリアゾール環を生成します(図2)。

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図2:DAtracerとアジド標識タグの反応メカニズム
この反応はヒュスゲン環化付加反応と呼ばれるクリックケミストリーの代表的な反応メカニズムであり、以下の点から生体分子の標識用途で用いるのに非常に優れていると考えられています。
- 細胞・組織試料中においても効率良く進行する。
- アルキンとアジドは通常は生体内に存在せず、互いにのみ特異的に反応し、他の生体分子とは反応しない。
- 目的に応じて任意のアルキンとアジドの組み合わせを用いることが可能である。
- 反応により生成するトリアゾール環は細胞・組織試料中において安定である。
この性質を利用してアジド基を付加した蛍光色素などでDAtracerを標識することで、その挙動の高感度かつ特異的な検出が容易に行えます(図2)。
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特長
- アルキンタグのサイズが非常に小さいため、DAtracerはドーパミン本来の物理化学的特性・生理機能を維持しています。
- クリック反応の原理上、標識に用いるアジド化合物はDAtracerにのみ反応し、高い検出特異性が得られます。
- DAtracerに標識する物質はアジド基さえ付加されていれば自由に使用可能です。例えば、マルチカラーイメージングを行う際に、共染色する他のマーカーと蛍光波長が重複しないように色素を選択するといった使い方が自由に行えます。
※ ☞ クリック反応に用いるお勧めの製品についてはこちらをご覧下さい。
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操作方法概略
※ 下記は培養細胞での使用の一例です。実験に合わせて最適なDAtracer濃度、各ステップの処理時間などをご検討いただくことを推奨しています。
- DAtracerを分子生物学グレードのH2OまたはPBSに溶解し、ストック溶液を調製する。
※ 有機溶媒には溶解しませんので、ご注意下さい。ストック溶液は適宜分注し、‐80℃での保管を推奨します。また、凍結融解の繰り返しは避け、速やかに使用するようにして下さい。 - 培地中の培養細胞にDAtracerを最終濃度10~100 μMとなるように添加し、37℃にて30分間インキュベートする。
※ 低温下ではDAtracerの細胞内への取り込みが抑制されます。
※ DAtracerはドーパミンと同程度の速度で酸化されますので、実験に応じて適切なインキュベート時間を検討することを推奨します。 - 培地を除去し、PBSで2回洗浄した後、4% paraformaldehyde in PBSを用いて15分間室温にて固定する。
※ クリック反応を触媒する一価銅イオンは生物にとって毒性があるため、本プロトコルはライブイメージングには適しません。固定した試料での検出を推奨します。 - 固定した細胞をpermeabilization / blocking solution (10% normal goat serum and 0.5% Triton X-100 in PBS)を用いて20分間室温にて透過処理およびブロッキングする。
- PBSで2回洗浄する。
- アジド基を有する標識物質を添加し、一価銅イオンの存在下で30分間室温にてクリック反応を行う。
- PBSで2回洗浄し、観察を行う。
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参考データ
CHO細胞におけるドーパミンレセプター活性化能の評価
CHO細胞にドーパミンレセプターであるD1RまたはD2Rを形質導入し、これらのレセプターの下流に位置するcAMPシグナルの変動を,発光アッセイを用いて測定した。その結果、DAtracerはドーパミンと同様に、ドーパミンレセプター依存的にcAMPシグナルへ影響を及ぼすことがわかり、DAtracerがドーパミン同様の生理活性を維持していることが示された。
線条体ニューロンにおけるドーパミンレセプター活性化能の評価
ラットの初代培養線条体ニューロンにcAMP感受性GFPを形質導入し、そのシグナルに対するドーパミンまたはDAtracer投与の影響を観察したところ、DAtracerはドーパミンと同様に、蛍光シグナルを増加させた。このことから、ドーパミン作動性神経系の主要な投射部位である線条体ニューロンにおいてもDAtracerがドーパミン同様の生理活性を維持していることが示された。
内在性ドーパミンとの局在比較
マウス中脳スライスに取り込ませたDAtracerをAlexa Fluor 488 azideで標識した後、内在性ドーパミンをSTAINperfect Kit(ImmuSmol社)によって免疫染色した。DAtracerの局在と内在性ドーパミンの局在を比較した結果、高頻度で共局在する様子が観察され、DAtracerがドーパミンプローブとして有用であることが示された(右端の図はDAtracerとドーパミンの画像のピクセルごとの輝度相関とPearsonの相関係数を表す)。

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原著論文
- Nuriya, M., et al., "Alkyne-Tagged Dopamines as Versatile Analogue Probes for Dopaminergic System Analysis", Anal. Chem., 93 (27), 9345 (2021). [PMID:34210142]
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価格
[在庫・価格 :2025年04月25日 11時15分現在]
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DAtracer <Alkyne-tagged Dopamine>
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- 商品コード:FDV-0044
- メーカー:FNA
- 包装:0.2mg
- 価格:¥44,000
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- 法規制等:
説明文 | ドーパミンにごく小さなアルキンタグを付加したプローブ。ドーパミン本来の物理化学的特性・生理機能を維持している。クリックケミストリーによって標識することで,容易に検出できる。ドーパミンの挙動解析に応用が可能。化学式:C11H14ClNO2,M.W.:227.69,溶解性:水,PBSに可溶 |
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法規制等 | |||
保存条件 | -20℃ | 法規備考 | |
掲載カタログ |
ニュース2022年10月1日号 p.10 ニュース2024年7月15日号 p.31
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製品記事 | |||
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