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ISによる変異がプラスミドに入りにくいコンピテントセル DynaCompetent® Cells IS-mutation Safe (旧製品名:LowInSeq)

掲載日情報:2022/02/01 現在Webページ番号:68230

ゲノム中のDNA型転移因子(Insertion Sequence Element, IS)の活性を低下させた大腸菌コンピテントセルです。遺伝子クローニングやプラスミド調製に利用できます。特に大腸菌に負荷のかかる大きなプラスミド等のクローニングに有用です。
本製品は株式会社バイオパレットの特許技術である“切らないゲノム編集®” Target-AID®によって開発されました。
本製品は研究用です。研究用以外には使用できません。


ISがプラスミドを傷つけている可能性があります。

IS(Insertion sequence element)は大腸菌ゲノム内に存在する「動き回る遺伝子」であり,自身が移動する際に使う酵素であるトランスポザーゼ(Transposase)を持っています。このトランスポザーゼにより,プラスミドにISが挿入されることがあります。その結果,目的インサートの破壊,正常な発現がみられない,プラスミドのコピー数の変化などの問題が生じる可能性があります。

Problem-in-Ecoli

そこでこちら...
DynaCompetent® Cells IS-mutation Safe
本製品はDH5αを元株として,大腸菌ゲノム中のISのうち,IS2,IS5,IS10,ISEc63(類似配列)のトランスポザーゼ翻訳領域中にTarget-AID®を用いて終止コドンを導入し,ISの活性を低下させた*1 大腸菌コンピテントセルです。

*1 ISの活性は低下しているものの,ISが転移しないことを保証するものではありません。

LowInSeq-Structure

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プラスミドへのIS挿入が減少

IS-insertion-frequency
これっていいね

プラスミドに対するIS挿入頻度の低下の確認
本製品および大腸菌DH5α株をアンピシリン耐性プラスミド(30 kb, pUC Ori)で形質転換後,得られたコロニーを用いて24時間の液体培養を行い,さらに6回まで継代培養を行った。
それぞれの継代培養時にプラスミドを精製し,HiSeqでシークエンシングを行い,プラスミドのうちIS*2の挿入されたものの概算比率を推定した*3, 4
DH5α株に対して本製品ではプラスミドへのISの挿入が抑制された。
*2 IS:IS1, IS2, IS3, IS4, IS5, IS10, IS30, ISEc5, IS609, ISEc63の合計数。
*3 DH5α株は7回継代培養時点で計算上100%を越えており,1つのプラスミドに2つ以上のISが挿入されたことが示唆される。
*4 別途,DH5α株に同プラスミドを挿入し,7回の継代培養後9クローンを単離し,サンガーシークエンシングを行ったところ,すべてのクローンにISEc63類似配列が挿入されており,プラスミドへのIS挿入率の高さが裏付けられた。


IS-insertion-Band-Pattern

上記のプラスミドをBamHⅠで消化し,アガロースゲル電気泳動を行った。
本プラスミドのBamHⅠサイトは2つであり,本来2本のバンドが生じるが,継代回数を重ねることによりDH5α株ではバンドパターンに変化が確認された。プラスミドへのISの挿入が示唆される。
一方,本製品で継代したプラスミドでは,バンドパターンの変化が抑制されていた。


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ISによるプラスミド上の機能領域への損傷を防いだ例

DH5αでのISによる損傷

DH5α
48.6%のコロニーでGFPの蛍光が消失または減弱

ISによる損傷を防いだ例

IS-mutation Safe
GFPの蛍光の消失または減弱なし(ISの挿入なし)*5

lac promoter制御下にGFPを有するプラスミド(上記「プラスミドへのIS挿入が減少」のグラフや泳動図とは異なるプラスミド)によって,本製品および大腸菌DH5α株を形質転換した。得られたコロニーを用いて18時間の液体培養を行い,さらに6回まで継代培養を行った。継代培養後,培養液をLBプレートに塗布し,一晩培養を行った。得られたコロニーについて,GFPの蛍光を観察した。
その結果,DH5αでは出現したコロニーのうち48.6%でGFPの蛍光が消失または減弱したが,本製品ではGFPの蛍光が消失または減弱したコロニーは確認されなかった。DH5α株においてGFPの蛍光が消失または減弱したコロニーからプラスミドを抽出し,シークエンシングを行ったところ,いずれのクローンでもlac promoter中,またはlac promoterとGFP遺伝子の間にDNA型転移因子であるIS2またはIS10Lが挿入されていた。一方,本製品および蛍光を有するDH5αのコロニー由来のプラスミドでは,lac promoterからGFPにかけての領域は無傷で保存されていた。
継代培養によって,DH5αではISの挿入でプラスミドが損傷したクローンが得られたが,本製品ではISによるプラスミドの損傷が抑制されていることが確認された。

*5 本製品では,無傷のプラスミドでもLBプレート上で観察されるGFPの蛍光輝度がDH5αよりも低かった(目視で観察可能な蛍光は有していた)。DH5αに比して本製品ではlac promoter制御下でのGFPの発現量が低値である可能性がある。ただし,プラスミドのクローニングおよび精製は問題なく行えた。


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仕様

  • 形質転換効率:>1 × 108 CFU/μg(pUC19)
  • 10×1 ml SOC medium添付

本製品は,カルタヘナ法規制に該当いたしません。


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価格

[在庫・価格 :2023年12月01日 09時51分現在]

※ 表示されている納期は弊社に在庫が無く、取り寄せた場合の納期目安となります。
詳細 商品名
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納期 文献数
DynaCompetent Cells IS-mutation Safe
2~3週間 ※ 表示されている納期は弊社に在庫がなく、取り寄せた場合の目安納期となります。 0
キャンペーン期間 2023/11/15 ~ 2024/02/29
説明文
ISによる変異がプラスミドに入りにくいクローニング用コンピテントセル。ゲノム編集によりDNA型転移因子(Insertion Sequence Element)の活性を低下させている。※本製品は,カルタヘナ法規制に該当いたしません。旧品名:DynaCompetent Cells LowInSeq。
法規制等
保存条件 -80℃ 法規備考
掲載カタログ 100周年ありがとうキャンペーン p.50
ニュース2023年6月1日号 p.31
ニュース2023年5月合併号 p.16

製品記事 ダイナコンピテントセル(DynaCompetent® Cells)選択ガイド
バイオダイナミクス研究所 製品特集
関連記事 「BDL社 製品カタログ 2023」発刊記念クイズ [~2023/12/22]

[在庫・価格 :2023年12月01日 09時51分現在]

※ 表示されている納期は弊社に在庫が無く、取り寄せた場合の納期目安となります。

DynaCompetent Cells IS-mutation Safe

文献数: 0

キャンペーン期間 2023/11/15 ~ 2024/02/29
[BDL]DynaMarker® シリーズ発売20周年記念キャンペーン[~2024/02/29]
説明文 ISによる変異がプラスミドに入りにくいクローニング用コンピテントセル。ゲノム編集によりDNA型転移因子(Insertion Sequence Element)の活性を低下させている。※本製品は,カルタヘナ法規制に該当いたしません。旧品名:DynaCompetent Cells LowInSeq。
法規制等
保存条件 -80℃ 法規備考
掲載カタログ 100周年ありがとうキャンペーン p.50
ニュース2023年6月1日号 p.31
ニュース2023年5月合併号 p.16

製品記事 ダイナコンピテントセル(DynaCompetent® Cells)選択ガイド
バイオダイナミクス研究所 製品特集
関連記事 「BDL社 製品カタログ 2023」発刊記念クイズ [~2023/12/22]


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「切らないゲノム編集® 」塩基編集の開発と応用

神戸大学大学院西田敬二教授

西田 敬二 教授

神戸大学 先端バイオ工学研究センター 副センター長
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 教授
(株)バイオパレット 取締役

塩基編集の確立

一般的なCRISPR-Casなどのゲノム編集技術は,そのヌクレアーゼ活性により標的のDNAを切断し,宿主細胞の修復過程においてランダムな欠失挿入あるいは相同組換えを誘発することで配列改変を期待するものである。これまで遺伝子操作が限定的であった高等動植物においても効率よく機能するため,生命科学における革命的なツールとして幅広い用途での利用が広がっている。一方で,大規模な欠損が起こるなど予期せぬ改変結果となったり,DNA切断による細胞毒性があったりなど,技術的な課題が見えてきている。このような「切る」ゲノム編集の課題を解決できるのがいわゆる「切らない」ゲノム編集®である塩基編集技術(Base editing)である。Casヌクレアーゼを失活させたものに脱アミノ化酵素を付加し,標的配列に特異的な塩基変換を誘発するというコンセプトで,神戸大学グループのTarget-AID® 1,およびHarvard大学のBase editor(BE)2がそれぞれ異なる由来のシチジン脱アミノ化酵素を用いて実現し,2016 年に発表している(図1)。
塩基編集技術のバリエーション
図1 塩基編集技術のバリエーション

DNA塩基の脱アミノ化は自然にも頻繁に起こる現象であり,例えばCの脱アミノ化はU を生じる(図2)。通常DNA上のUは,塩基除去修復機構(Base excision repair:BER)により取り除かれて正しく修復されるため変異とならないが,修復が追い付かない場合はUが残ったままDNA複製が進行し,Tとして認識されるため,CからTへの変異が生じる。
実際に用いられる脱アミノ化酵素は,Target-AID®ではヒトAIDオルソログであるヤツメウナギ由来のPmCDA1,BEではラット由来のDNA/RNA脱アミノ化酵素APOBECである。いずれもC:GからT:Aの変換を行うが,それぞれに特性があり変異の導入される部位や幅が異なる。
また,2017年にHarvard大学のグループが,Aの変換も可能にするAdenine Base Editor(ABE)を開発した3。Aの脱アミノ化により生じるヒポキサンチン(イノシンの塩基部分)が,生体内ポリメラーゼによってG と誤認されることにより,A:TからG:Cの変換が行われる(図2)。DNA上のAを変換する酵素は自然界においては知られていなかったため,tRNA編集に関わる大腸菌由来のRNAアデニン脱アミノ化酵素TadAを分子進化工学によってDNA型に変換することにより実現されている。Target- ACE4は,両タイプの酵素を同時に用いてCとAの変換を一度に行うため,より幅広いパターンの変異を生み出すことができる。 シトシンおよびアデニンの脱アミノ化
図2 シトシンおよびアデニンの脱アミノ化

塩基編集の応用と事業展開

動物や植物,幅広い微生物において塩基編集の適用および実用化が進んでおり,従来のCRISPRなどでは困難であった細胞においても有効に機能する例もある。変換できるパターンに制約があるものの,切断を介さずに一塩基変異を導入できることから,特に遺伝子疾患など難病の遺伝子治療法開発の期待が高く,多くの研究が進められている。Harvard大学などの知財が導出されているBEAM therapeutics社では,複数の疾患治療のパイプライン開発が進んでいる。

神戸大学の知財をもとに2017 年に創設された(株)バイオパレットは,BEAM therapeutics 社とクロスライセンス契約を締結し,相互の知財アクセスを可能としている。(株)バイオパレットは特にマイクロバイオームを介した疾患治療の可能性に注目し,Living medicine という新たなモダリティの実現を目指している。

微生物のゲノム改変において,切るゲノム編集は特に致死性が高く,多点同時編集などは塩基編集でなければ困難である5(図3)。(株)バイオダイナミクス研究所と(株)バイオパレットは,大腸菌の主要なトランスポゾン遺伝子4種類の計25コピーのコード領域に終始コドンを導入して不活性化を行ったコンピテントセル「DynaCompetent® Cells LowInSeq(フナコシ注:現在の製品名 DynaCompetent® Cells IS-mutation Safe )」を共同開発した。これはクローニングの際,特に大きなDNA断片や細胞への負荷が大きい遺伝子などを保持させようとした時に,通常の大腸菌株で見られるようなトランスポゾンが挿入される現象を大幅に低減するものである。日本では,おそらく初めてカルタヘナ法規制に該当しないゲノム編集プロダクトとして販売されたケースであり,社会導出のプロセスとしても意義深いといえる。

今後は,より幅広い分野での実用化に向けた研究開発とともに,社会受容性の醸成も重要になる。そのためには,塩基編集技術として編集自由度の拡大やオフターゲットなどのリスク低減など,さらなる改良を進めることも期待される。

DNA 切断型による多点同時編集
DNA 切断型による多点同時編集

塩基編集による多点同時編集
塩基編集による多点同時編集

図3 塩基編集ではDNA 切断による染色体分断が起こり難い



参考文献
1. Nishida, K., et al., Science, 353, aaf8729 (2016).[PMID: 27492474
2. Komor, A. C., et al., Nature, 533, 420~424 (2016).[PMID: 27096365
3.Gaudelli, N. M., et al., Nature, 551, 464~471 (2017).[PMID: 29160308
4. Sakata, R. C., et al., Nature Biotechnol., 38, 865~869 (2020).[PMID: 32483365
5. Banno, S., et al., Nature Microbiol., 3, 423~429b(2018).[PMID: 29403014

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