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レクチンの多様性

掲載日情報:2025/08/14 現在Webページ番号:72530

Vector Laboratories社のサイエンスブログ(SpeakEasy Science Blog)からレクチンに関するブログをご紹介します。

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Vector Laboratories社のレクチン製品は標識・非標識レクチンをご覧下さい。

by John DiVittorio


レクチン染色画像

レクチンは糖鎖に結合するタンパク質で、細胞認識、シグナル伝達経路、病原体の検出などのプロセスで重要な役割を担っています。糖鎖生物学の分野においてレクチンは、生体内の複雑な糖鎖プロファイリング、特性解析、捕捉に用いられています。
レクチンの研究は、赤血球を凝集するタンパク質であるヘマグルチニンの作用機序を調べる免疫血液学が出発点です。ヒマの種子から抽出されたヘマグルチニンは、血液型特異的に赤血球凝集が示され1、レクチンは植物だけでなく、多様な生物からも発見されています。
すべてのレクチンは糖鎖を認識し、結合する能力を備えていますが、構造、糖鎖特異性、および生物学的機能は異なります。レクチンの由来を理解することは、糖鎖生物学アッセイの開発に役立ち、さらに理解が深まります。

植物レクチン

レクチンは植物から最初に発見され、糖鎖に対するレクチンの特異性が明らかになりました。例えば、コンカナバリンA(Concanavalin A、Con A)の凝集試験ではスクロースが凝集活性を阻害し、レクチンがスクロースに対して特異性を示すことが初めて明らかにされました2
植物レクチンは、植物の成長だけでなく、生態系との相互作用にも寄与しています。例えば特定の細菌との共生関係を確立し、病原微生物や捕食者から植物を保護しています3。資源の豊富さと単離の容易さから、研究の大部分は植物レクチンを対象としており、約500種類以上が単離されています4

動物レクチン

1970年代初頭まで動物レクチンは、カブトガニ類、ウナギ、カタツムリのみで研究され、単離が行われていました。数年後、血液循環における糖タンパク質の制御メカニズムに関する研究から、最初の哺乳類レクチンが単離されました1。それ以降レクチンは、多様な動物種に局在することが示されています。
脊椎動物では、レクチンは進化の過程でよく保存され、細胞プロセスにおける重要性を示しています。ヒトでは、レクチンは体全体の組織(脂肪組織、脳、リンパ組織、内分泌組織など)に広く発現しています5。ヒトで最も発現しているレクチンは、ガレクチンと呼ばれるクラスに分類され、発生、免疫系の活動、および免疫系による微生物の認識において重要な役割を果たしています。ガレクチンは構造的に高度に保存されており、糖認識ドメインに特徴的なアミノ酸配列を持ちます6。また、ヒトにおいて、14種類同定されているシアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec、シグレック)は、細胞間相互作用や病原体に対する免疫応答に重要です。
レクチンが糖鎖に結合する能力は、標的指向性ドラッグデリバリーのための有用なツールとなります。がんのような特定の疾患では、特有の糖鎖発現が観察され、これらの糖鎖認識は、レクチンが疾患の発生部位に薬物療法を誘導する手段となる可能性を示しています。

真菌レクチン

他と同様に、真菌レクチンは分子認識を伴う細胞プロセスに関与しています。真菌レクチンは、真菌の成長と発達、および植物との共生関係に関与しています。一部の真菌のレクチンは、植物との共生関係および防御システムにおいて、毒性活性を示すことで独自の役割を果たしています6
真菌レクチンは主にキノコに存在しますが、微小真菌、酵母、および菌糸体にも少量含まれています。キノコ由来のレクチンは、増殖促進および抑制、抗腫瘍、抗ウイルス、免疫刺激作用などについて特に研究されています8
構造的に同定された真菌レクチンは少ないですが、これらの物質はバイオメディカル研究において大きな可能性を秘めています。これらの多くは、病態においてヒトの複合糖質上のエピトープに対して高い特異性を示し、そのため研究、診断、治療における有用なマーカーとなっています7

バクテリアレクチン

バクテリアレクチンは、細長いタンパク質の繊維である線毛(pilusまたはfimbria)に最も多く存在します。線毛は、糖タンパク質や糖脂質との相互作用に必要不可欠なタンパク質突起と類似しています。この構造は、宿主細胞を認識し侵入する機能において極めて重要です9
E. coliのマンノース特異的レクチンは、バクテリアを上皮細胞に付着させることで感染を開始します10。この強力な糖鎖認識は、病原性発現だけでなく、生命維持に不可欠です。また、バクテリアレクチンは、表面マーカーを認識する仕組みと類似した方法で、これらの共生関係において重要な役割を果たしています9

藻類レクチン

約800種の藻類レクチンについて分析されていますが、植物レクチンと比較すると単離および同定の報告が少なく、数千種存在する藻類の種類を考えると非常に少ない数です。分析された種のうち、約60%が凝集性を示しています11。植物レクチンと比べて、藻類レクチンは分子量が低く、単糖類に対する親和性が低く、複雑な糖タンパク質やオリゴ糖に対して高い特異性を示します12
藻類レクチンは生物学的研究において比較的使用頻度が低いものの、特に分子量が低く抗原性が弱いことから、その利用を強調する論文がいくつか存在します。例えば、赤藻から単離されたEucheuma serra agglutinin(ESA)は、がん細胞株においてプログラム細胞死つまり、アポトーシスを引き起こすことが報告されています13

レクチンの抽出プロセス

天然由来のレクチンの単離は、レクチンが高濃度で含まれる生物の部位を収集する必要があります。例えば、PHA-Lは赤インゲン豆、AALはオレンジピール菌、WFAはW. floribundaの種子と鞘から単離され、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)やアフィニティクロマトグラフィーなどを用いて精製されます。全てのレクチンの機能と有用性は、バイオメディカルおよびライフサイエンス分野において大きな可能性を秘めています。
レクチン糖生物学の応用に関する詳細については、ブログ記事「レクチンを糖生物学ワークフローで活用する方法」をご参照ください。

レクチンガイドのご案内

レクチンの歴史、レクチンアッセイの方法、原理などについては、以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)もあわせてご参照下さい。


VEC社 Lectin Application and Resource Guide

参考文献

  1. Sharon, N., and Lis, H., Glycobiology, 14(11), 53R~62R (2004). [PMID:15229195]
  2. Sumner, J. B., and Howell, S. F., J. Bacteriol., 32(2), 227~237 (1936). [PMID:16559945]
  3. De Hoff, P. L., et al., Mol. Genet. Genomics, 282(1), 1~15 (2009). [PMID:19488786]
  4. Van Damme, E. J. M., et al., Handbook of Plant Lectins: Properties and Biomedical Applications, John Wiley & Sons (1998).
  5. Raposo, C. D., et al., Biomolecules, 11(2), 188 (2021). [PMID:33572889]
  6. Cummings, R. D., et al., Essentials of Glycobiology (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (2009).
  7. Varrot, A., et al., Curr. Opin. Struct. Biol., 23(5), 678~685 (2013). [PMID:23920351]
  8. Singh, R. S., et al., Crit. Rev. Biotechnol., 30(2), 99~126 (2010). [PMID:20105049]
  9. Lewis, A. L., et al., Essentials of Glycobiology (4th ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (2022). [PMID:35536938]
  10. Sharon, N., FEBS Lett., 217(2), 145~157 (1987). [PMID:2885220]
  11. Teixeira, E. H., et al., Carbohydrates, 21(2011). [DOI:10.5772/50632]
  12. Sutami, J. I., et al., Squalen Bull. of Mar. & Fish. Postharvest & Biotech., 10(2), 89~98 (2015).
  13. Sugahara, T., et al., Cytotechnology, 36(1-3), 93~99 (2001). [PMID:19003319]

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