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糖鎖と免疫療法
糖鎖と免疫療法
掲載日情報:2025/08/14 現在Webページ番号:72529
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by Anthony Lawrenz

糖質が炎症やがんを含む多くの疾患に関与していることが明らかになったことで、糖鎖を用いた免疫療法の研究分野は、ますます注目されています。免疫療法は主にがん治療と関連付けられる治療法で、免疫システムを用いてがんを効果的に攻撃します。
糖鎖およびグリコシル化とは?
糖鎖は、単糖が鎖状に長くつながった多糖類の一種で、生命現象において重要な役割を担っています。そして、タンパク質や脂質と結合し、タンパク質のフォールディング、細胞間接着、細胞移動などの特定の構造や機能を付与します。また、細胞の機能やタンパク質の調節に加え、非コードRNA(ncRNA)にも影響を与えることが示されています1。
グリコシル化は、粗面小胞体(ER)で行われる反応で、酵素によってタンパク質、脂質、または他の糖鎖に結合します。グリコシル化に異常が生じると、多くの疾患を発症する可能性があります2。
糖鎖およびグリコシル化について詳しく知りたい方は、ブログ記事「糖鎖の世界へのいざない」をご覧下さい。
糖鎖とがん
がんは、不規則な糖鎖修飾が引き起こす悪性腫瘍の一つで、細胞膜表面に発現するユニークな糖鎖構造を持ちます。この糖鎖構造をがん関連糖鎖抗原(Tumor-associated carbohydrate antigen、TACA)と言い、細胞の生存、転移、および特定の臓器や組織への細胞の付着選択性と関連していることが報告されています3。そして、がん細胞の不規則な糖鎖修飾による糖鎖構造変化は、不完全な糖鎖や短い糖鎖などの過剰発現、または新たな糖鎖構造の出現などが含まれます4。
糖鎖を用いた免疫療法
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体(mAbs)は糖タンパク質で構成されており、がん治療に広く利用されています。一般的な作製方法はマウスに免疫を行い、得られた細胞とミエローマ細胞を融合させ、ハイブリドーマを作製し、モノクローナル抗体を産生させます。このモノクローナル抗体の安全性、有効性、および免疫原性においては、糖鎖付加が重大な影響を与えることが示されています5。例えば、CHO細胞から産生されたモノクローナル抗体は、ヒトIgGと同様に糖鎖付加を受けますが、マウスミエローマ細胞から産生されたモノクローナル抗体は、免疫原性を持つ糖鎖残基を有するため、ヒトでは安全性および有効性が低い可能性があります6。一方、有効性を認めるモノクローナル抗体の使用例として免疫染色があり、膀胱がん患者の尿中の剥離細胞の糖鎖抗原(血液型糖鎖抗原のLewis X)に対する高い感度と特異性が示されています7。
レクチン
レクチンは、多くの植物および動物に存在する糖鎖結合タンパク質で、分子構造を変えずに特定の糖鎖を認識する能力を有しています8。糖鎖はがんの病態形成に関与する可能性があるため、糖鎖結合タンパク質であるレクチンは、抗がん療法の候補として研究されています。
ヤドリギ由来のレクチンは、がん細胞に対して有効な効果が示されていますが、用量に関する問題が指摘されており、アポトーシス促進効果が見られる一方、アポトーシス抑制の禁忌が報告されています9。これらの作用機序は、主要な研究テーマになっています。また、中国のヤドリギ由来のレクチン-1(CM-1)を用いた研究では、miR-135a/miR-135bの発現を抑制することで、大腸がん細胞のアポトーシスを誘導することが明らかとなり、またAPC遺伝子の発現を促進することでWntシグナル伝達経路の抑制につながり、大腸がん細胞の増殖を阻害することが明らかになっています10。
併用療法
多くの免疫療法は、抗がん効果を高めるため、複数の治療法を組み合わせた併用療法を採用しています。例えば、転移性固形腫瘍に対する併用療法として、抗PD-1/CTLA-4療法(ニボルマブとイピリムマブの併用)があります。この併用療法は、2種類の免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせ、T細胞上に発現している分子あるいはそのリガンドを標的としています。このような併用療法では、糖鎖付加が原因で有効性に影響を与えることが示されています11。さらに、シアル酸を構造中に含むスフィンゴ糖脂質の総称であるガングリオシドは、腫瘍細胞の転移に関与することが知られており、抗GD2モノクローナル抗体ch14.18(ジヌツキシマブ)とIL-2、GM-CSF、イソトレチノインの併用療法により、治療の有効性が認められています12。
CAR-T細胞療法
CAR-T細胞の研究は、多くの糖鎖抗原が標的になることから、糖鎖生物学で注目されています。CAR-T細胞は、がん間質細胞に豊富に存在する糖鎖を標的とすることで、固形がんに対する有効性が示唆されています13。また、腫瘍関連糖タンパク質(TAG72)、ルイスY抗原、ジシアロガングリオシド(GD2)を含む、さまざまながんで発現する糖脂質および糖タンパク質のエピトープが標的となるように、開発されています14。
ワクチン
糖鎖はインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌、および髄膜炎菌などに対するワクチンに用いられています。これらのワクチンは、キャリアタンパク質に結合した糖鎖から構成されており、T細胞非依存的な作用機序のため、多糖体ワクチンと比較して、高い有効性が示されています15。
TACAも、がんワクチンにおける有望な標的として注目されています。中でもTACAの一種であるムチン型糖鎖のTn抗原、シアリルTn抗原(STn)およびT抗原、ガングリオシドGM2/GD3、およびスフィンゴ糖脂質(Globo-H)を標的とする多くのワクチンが研究されています。糖鎖を基盤としたワクチンは有効性が示されており、現在、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、肺がんなどに対する臨床試験が進行中です。また、これらのワクチンの免疫原性に関しては、多価な形態の糖鎖ワクチンを提示する研究を含め、多くの研究テーマとなっています16。
おわりに
糖鎖は、さまざまな種類の免疫療法の発展と作用において多様な役割を果たすことが示されています。また、がんなどの疾患の進行に関与するだけでなく、既存の治療法により高くなるような治療効果を追加できる要素として重要です。今後の研究の方向性は、糖鎖化学の新たな手法を用いて、糖鎖修飾の基盤となる生物学を解明することがあげられます。さらに、O-結合型糖鎖と免疫の関連性や糖脂質の関連性といった領域は、免疫療法の開発における新たな可能性を提示しています。
レクチンガイドのご案内
レクチンの歴史,レクチンアッセイの方法,原理などについては,以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)もあわせてご参照下さい。
参考文献
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- Houvast, R.D., et al., Cancers, 12(12), 3870 (2020). [PMID:33371487]
- Raglow, Z., et al., Mol. Ther., 30(9), 2881~2890 (2022). [PMID:35821636]
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