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糖鎖の世界へのいざない

掲載日情報:2024/07/02 現在Webページ番号:71718

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by Shuhui Chen, Ph.D.


VECtorlaboratories

単細胞生物から哺乳類に至るまで、すべての生物は、核酸(DNAとRNA)、タンパク質、脂質、そして糖鎖として知られる多糖類の4つの構成要素によって、その機能と生体を維持しています。これらの高分子の中で糖鎖は、その目もくらむような構造の多様性とさまざまな機能から、おそらく最も謎めいた存在ではないでしょうか。実際、糖鎖について学べば学ぶほど、私たちは糖鎖生物学の表面しか見ていないことに気づかされます。さらに付け加えるなら、糖鎖を単独で考えることは不可能です。糖鎖は、グリコシド結合した単糖が他の高分子に結合したものであり、糖鎖の基礎を理解することは、重要な生物学的プロセスにおける糖鎖の役割を解明する道を開くことになります。

糖鎖構造の多様性はどこから来るのか?

糖鎖構造の多様性の背後にある要因を理解するためには、その構成要素である単糖に立ち返る必要があります。具体的には、2つの単糖がどのようにグリコシド結合するのかが重要です。タンパク質や核酸の形成は、アミノ酸やヌクレオチドとは異なり、2つの単糖が複数の場所で結合することができるので、複数の異性体構造が形成されます。また、1つの単糖が複数の場所でグリコシド結合を形成することができるため、他の高分子では見られない構造現象、すなわち枝分かれが生じます。多糖のサイズが大きくなるにつれて、可能な構造数は指数関数的に増加します。

糖鎖の構造分類

糖鎖はタンパク質や脂質と結合し、タンパク質のフォールディング、認識、細胞移動などの特定の構造や機能を付与します。糖鎖は驚くほど多様ですが、結合のタイプと結合部位によって分類が可能です。

糖タンパク質

糖鎖とタンパク質が結合するグリコシル化は、真核生物のタンパク質における最も一般的な、翻訳後修飾の一つです。単糖間のグリコシド結合の多様な性質とは異なり、糖鎖は特定のアミノ酸配列からなる結合部位でのみペプチドと結合できるため、グリコシル化はより制限されたものになります。これらの糖鎖は結合部位のアミノ酸残基側鎖の原子によって分類することができます。

N-結合型糖鎖

N-結合型糖鎖はアスパラギン側鎖の窒素に結合しており、AsnはAsn-X-SerまたはAsn-X-Thrの一部です。N型糖鎖の前駆体構造は、次の単糖のうち1つを含むことができます:N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、およびマンノース。N型糖鎖の前駆体コア構造である前駆体オリゴ糖は小胞体で形成され、2個のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基から始まり、続いて9個のマンノースと3個のグルコース残基が付加されます。このコア糖鎖構造は小胞体の内側に移動し、そこでポリペプチドと結合し、グルコース残基が取り除かれます。 糖転移酵素とグリコシダーゼはそれぞれ糖残基の付加や除去ができます。その結果、3つの主要なN型糖鎖のタイプが生じます:
  • 高マンノース型は、2個のN-アセチルグルコサミンが数個のマンノース残基からなる枝に結合しています。
  • 複合型はマンノース以外の単糖を含む枝を持ちます。
  • ハイブリッド型は、高マンノースと複合型糖鎖の両方を持ちます。
Symbol Nomenclature for Glycans (SNFG)表記

図1.3 種類の主なN型糖鎖
Symbol Nomenclature for Glycans(SNFG)表記による哺乳類の単糖単位

O-結合型糖鎖

O-結合型糖鎖は、セリン残基またはスレオニン残基の側鎖の酸素原子に対する糖分子の付加です。O-結合型糖鎖は、ペプチドに結合した糖残基によってさらに分類することができます。多くのO-結合型糖タンパク質(主に細胞膜の糖タンパク質)では、最初に結合する糖はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)です。グリコシル化には、特定の残基配列の選好性はありませんが、異なる部位を選好する複数のGalNAc転移酵素が存在するため、O-グリコシル化部位はプロリン残基に近いです。O-結合型糖鎖には、主に以下の4つのCore構造があります。
  • Core 1:ガラクトースの付加
  • Core 2:Core 1構造のGalNAcへGlcNAcの付加
  • Core 3:最初のGalNAcへGlcNAcの付加(Core 1形成前)
  • Core 4:Core 3に第2のGlcNAcが付加
O-結合型糖鎖のCore構造

図2. O-結合型糖鎖のCore構造
Symbol Nomenclature for Glycans(SFNG)表記で単糖を可視化した図


ガラクトース、GlcNAc、シアル酸、フコースなどの糖残基は、グリコシルトランスフェラーゼによってCore構造に付加することができます。 O-結合型糖鎖にはO-GalNAc 、O-GlcNAc、O-マンノース、O-ガラクトース、O-グルコースがあり、O-GalNAcが有名です。O-GlcNAcは細胞質および核タンパク質上に存在します。 細胞内タンパク質のO-グリコシル化は細胞外糖タンパク質よりも多様性に欠けます。一説によれば、細胞外のグリコシル化は、さまざまな病原体や糖鎖結合タンパク質との結合を容易にするために、より多様性に進化したと言われています。

グリコサミノグリカン(GAGs)

グリコサミノグリカンは、ガラクトース残基またはウロン酸(カルボニル基およびカルボン酸基を含む、例えばグルクロン酸またはイズロン酸)がアミノ糖(1つの水酸基がアミン-NH2に置換されている、例えばGlcNAcまたはGalNAc)に結合した、二糖の繰り返し単位を持つ細長い直鎖状の多糖です。
  • ヘパリン:GlcNAc+ヘキスロン酸
  • コンドロイチン硫酸:GalNAc+ヘキスロン酸
  • ケラタン硫酸:ガラクトース+GlcNAc
  • ヒアルロン酸:グルクロン酸+GlcNAc
O-結合型糖鎖のCore構造

図3. グリコサミノグリカンとヒアルロン酸の例
Symbol Nomenclature for Glycans (SNFG)表記による哺乳動物の単糖単位


GAGの合成は細胞質で始まり、そこで5つのウリジン二リン酸(UDP)由来の活性糖が形成されます。ヒアルロン酸を除いて、全てのGAG前駆体は、ゴルジ体で官能基の硫酸化を受けます。対照的に、ヒアルロン酸の前駆糖は細胞膜に直接移行します。

糖脂質

タンパク質以外にも、糖鎖は脂質と共有結合して、細胞膜の構成、細胞間相互作用、免疫応答に重要な糖脂質を形成しています。糖脂質は炭化水素の構造によって分類され、グリセロールを持つグリセロ糖脂質とスフィンゴを持つスフィンゴ糖脂質からなります。

糖鎖の生物学的役割

同じ糖鎖構造でも、異なる生物や同じ生物でも異なる場所で、さまざまな役割を果たすことがあります。そのため、糖鎖や糖鎖のサブクラスに特定の機能を持たせることは、ほとんど不可能です。そこで、糖鎖機能の分類を簡略化したものを次項より紹介します。

構造および調節機能

糖鎖は細胞区画、膜、細胞外マトリックスに偏在し、それらが結合するタンパク質や脂質の構造や機能を変化させます。したがって、糖鎖は高分子の一次構造を形成する上で重要な役割を果たし、細胞や細胞の構成に寄与しています。糖鎖に修飾された高分子は、保護や輸送、摩擦を防ぐための関節の潤滑のような部位特異的な機能まで、構造的および調節的な機能において最も重要です1。おそらく最もよく知られている例はムチンペプチドで、上皮細胞表面に保護層を形成し、病原体やフリーラジカルから組織を守っており2、細胞表面のグリコシル化の異常は、炎症性疾患やがんと関連しています。保護機能のもう一つの例は、セルロース3とキチン4によってもたらされるもので、グルコースとGlcNAcからなる糖鎖ポリマーであり、植物や菌類に強度と安定性を保持する細胞壁の不可欠な成分です。糖鎖による構造修飾は、高分子の物理的性質を変化させ、利点をもたらすこともあります。血漿には高濃度の糖タンパク質が含まれており、親水性の糖鎖がタンパク質の溶解性を高めています5。さらに、グリコシル化はタンパク質の電荷密度を変化させ、プロテアーゼによる分解を防ぎます6

固有機能

多くの生物はお互いに異なる形態の共生関係を築く傾向があり、これらが細胞表面の糖鎖が相互作用を制御する主要なポイントの一つであることが明らかになってきました。糖鎖末端残基は病原体と宿主の相互作用に特に重要です。例えば、大腸菌7やヘリコバクター8などの寄生細菌は、細胞表面のシアロ糖鎖を認識することによって宿主細胞に接着し、熱帯熱マラリア(P. falciparum)は赤血球表面の特異的なシアル酸残基と結合することによって赤血球に侵入します9。COVID-19による最近のパンデミックを含め、ウイルス感染にも外来性認識が適用されます。スパイクタンパク質がN-およびO-グリコシル化されることでACE2レセプターとの結合親和性が強化され、同時に宿主の免疫系を回避しやすくなることが解明されています10。幸いなことに、外部からの認識は双方向であり、宿主免疫系は糖鎖認識を通じて病原体と闘い、糖鎖結合タンパク質が病原体の表面糖鎖を認識し、病原体を捕捉・破壊することができます。

相互作用

細胞間コミュニケーションと細胞輸送は糖鎖認識に大きく影響されます。エンドサイトーシスやファゴサイトーシスのような細胞の取り込みは、マクロファージ末端の糖鎖を認識する細胞表面レセプターによって媒介されることが多いです。これにより、細胞は細胞外から分子を取り込み、輸送し、廃棄することができます。オルガネラにおける重要なプロセスもまた糖鎖レセプターによって媒介されています。小胞体内のレセプターは、糖鎖エピトープに基づいて、入ってくるタンパク質に対して特定のフォールディングパターンを実行します。同じ理論で、誤ったフォールディングを持つタンパク質は、異常な糖鎖構造を認識することにより検出され、廃棄されます。細胞間相互作用もまた、表面タンパク質による糖鎖認識に依存しており、個々の生物の生存や生態系全体の調和にとって極めて重要です。よく知られた例としては、フィブリノーゲンのグリコシル化による血液凝固11や卵と精子の相互作用12などがあります。植物界では、根粒菌間の糖鎖を介した細胞間シグナル伝達が、窒素固定を目的とした植物との共生関係の確立に大きく関与しており、食物連鎖に大きな影響を与えています13

病原体による宿主糖鎖の模倣

自然免疫反応を回避する病原体は、宿主細胞表面に見られる糖鎖構造で細胞表面を模倣します14。このことは、病原体が抗原エピトープの糖鎖をカモフラージュできることを意味しています。これは、宿主の糖鎖を利用したり、病原体が収斂進化を遂げ、標的宿主の生合成経路を模倣できるようになるなど、さまざまなメカニズムによって達成されています。

参考文献

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  2. Hanisch, F.G., et al., Biol. Chem., 382(2), 143~149(2001). [PMID:11308013]
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  9. Orlandi, P.A., et al., J. Cell Biol., 116(4), 901~909(1992). [PMID:1310320]
  10. Mehdipour, A.R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 118(19), e2100425118(2021). [PMID:33903171]
  11. Adamczyk, B., et al., J. Proteome Res., 12(1), 444~454(2012). [PMID:23151259]
  12. Koistinen, H., et al., Biol. Reprod., 69(5), 1545~1551(2003). [PMID:12826581]
  13. Gough, C. and Cullimore J.,Mol. Plant Microbe Interact., 24(8), 867~878(2011). [PMID:21469937]
  14. Moran, A.P., Microbial Glycobiology, 847~870(2010). [DOI:10.1016/B978-0-12-374546-0.00043-2]

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