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人工知能「LIGHTHOUSE」を用いたタンパク質-化合物間結合スクリーニング

掲載日情報:2022/07/18 現在Webページ番号:71401

Frontiers

Vol.93  人工知能「LIGHTHOUSE」を用いたタンパク質-化合物間結合スクリーニング

(株)Q イノベーションは、2020 年6 月に設立された九州大学発のバイオ創薬支援を行うスタートアップ企業です。取締役兼最高技術責任者(CTO)の中山敬一主幹教授(九州大学)らが開発した人工知能「LIGHTHOUSE」により、特定のタンパク質と化合物の結合を予測するサービスを提供しています。

現在の創薬科学の問題点

がんや感染症などの深刻な疾患を撲滅するための多大な努力にもかかわらず、創薬科学の進歩はまだまだ不十分です。その要因のひとつとして、特定のタンパク質に対して作用する生理活性物質の同定が困難であることが挙げられます。天然化合物は約1060 種類存在すると考えられていますが1、現在主に行われているハイスループットスクリーニング(HTS)は、~106 種類の化合物しかスクリーニングすることができません。そのため、過去数十年の間に、HTS に必要なコスト、時間、労力を削減できる、分子ドッキングシミュレーションが広く採用されるようになりました。このアプローチは、結晶構造が解明された一部のタンパク質で成功を収めています。しかし、創薬ターゲットとなりうるタンパク質のポケットを特定することは依然として困難であり、また全てのタンパク質で三次元構造情報が入手可能なわけではありません。加えて分子ドッキングシミュレーションの計算は負荷が大きいことや、処理速度が遅いことなどから、この手法の応用は限られていました。


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人工知能LIGHTHOUSE の特長

近年の人工知能(AI)の進歩は、製薬業界においてもその可能性を示しています2。AIを用いた創薬手法は数多く提案されていますが、実際のトランスレーショナルメディスンでの成功はまだまだ限定的です。このような背景から、私たちは、AIを用いた新しい創薬プラットフォームであるLIGHTHOUSE(Lead Identification with a GrapH-ensemble network for arbitrary Targets by Harnessing Only Underlying primary SEquence)を開発しました(=膨大な化合物の海から特定の化合物だけを照らし出す「灯台」の意を込めています)。この技術は、アミノ酸配列と化学式(SMILES 式)という一次元情報のみを利用し、三次元構造情報なしで任意の目的のタンパク質と相互作用する化学物質を予測することができます。LIGHTHOUSEは、タンパク質と化合物の結合信頼性スコア(STITCHデータベース)と結合力スコア(BindingDBデータベース)の2つの教師データによってトレーニングされており、そのため出力はConfidence score とInteraction scoreという2つの独立した指標の二次元マップとして表現されます。LIGHTHOUSEは、現在利用可能な創薬用AIの中で最も優れたアーキテクチャの1つです3
これらの特長によって、LIGHTHOUSEでは従来の分子ドッキングシミュレーションの数千倍の速度で計算を行うことが可能です。その上、LIGHTHOUSEと分子ドッキングシミュレーションの正確性はほぼ同等です3。さらにLIGHTHOUSEには両方向性があり、逆引き探索(特定の化合物に結合するタンパク質の探索)をすることも可能です。

LIGHTHOUSEの概要


私たちはLIGHTHOUSE を悪性疾患、感染症、代謝性疾患の研究に適用し、取得された化合物が実際に生物学的な効果を発揮することを確認しました。例えば、がん治療の鍵となる代謝酵素であるホスホリボシルピロリン酸アミドトランスフェラーゼ(PPAT)4に対する阻害剤はまだ開発されておらず、タンパク質の立体構造も解明されていません。つまり分子ドッキングシミュレーションが不可能ということです。そこで、私たちはLIGHTHOUSEを利用して、アミノ酸配列情報のみから、約10億個の化合物とPPAT の結合性を予測しました3。その結果から、ひとつの化合物が実際にPPATを阻害することを発見しました(下図)。


解析事例

また、LIGHTHOUSE は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に有効な薬剤の発見にも成功しています3。このようにLIGHTHOUSE は、膨大な化学物質の中から、特定のタンパク質に対する候補化合物を、コストや時間、手間をかけず、しかも幅広い生物医学的応用の可能性を持って発見することから、創薬研究を促進すると考えています。


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研究者の皆様へ

私たちは、三次元構造情報に関係なく、あらゆる標的タンパク質に対して有望なリード化合物を発見する手段として、LIGHTHOUSEを開発しました。逆に、特定の化合物に結合するタンパク質を網羅的に探索することで、お手持ちの化合物の作用機序を調べる目的に利用できます。 LIGHTHOUSE は、従来の分子ドッキングシミュレーションよりも圧倒的に速く、コストも安い上に、最新の三次元ドッキングシミュレーション手法や他のAI 手法と同等かそれ以上の正確性を有しています。ぜひ研究者の皆様の創薬研究に利活用下さい。


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参考文献

  1. Dobson, C. M., "Chemical space and biology.″ Nature, 432(7019), 824~828(2004). PMID:15602547
  2. Paul, D., et al., "Artificial intelligence in drug discovery and development.″ Drug Discov. Today, 26(1), 80~93(2021). PMID:33099022
  3. Shimizu, H., et al., "LIGHTHOUSE illuminates therapeutics for a variety of diseases including COVID-19.″ iScience, 25(11), 105314(2022). PMID:36246574
  4. Kodama, M., et al., "A shift in glutamine nitrogen metabolism contributes to the malignant progression of cancer.″ Nat. Commun., 11(1), 1320(2020). PMID:32184390

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