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株式会社資生堂 みらい開発研究所 柴垣 奈佳子 様

知りたい!皮膚常在菌叢研究と応用
株式会社資生堂 みらい開発研究所 柴垣 奈佳子 様

掲載日情報:2022/08/05 現在Webページ番号:69943

知りたい!皮膚常在菌叢研究と応用 株式会社資生堂 みらい開発研究所 柴垣 奈佳子 主任研究員

 私たちは、ヒトの皮膚に棲む常在菌叢(マイクロバイオーム)の研究をしています。皮膚は人体最大の器官であり、身体の外側と内側を隔てるバリアとして重要です。皮膚には、各種微生物(ウイルス、細菌、真菌、ダニなど)が常在しており1、その中でも、皮膚の細菌叢に着目して研究を進めています。


 私たちは日常的にスキンケア製品を使うなど、皮膚を健康な状態に維持するために気を配っています。しかし、その皮膚に棲む常在菌の役割について、また皮膚に塗布する製品成分の皮膚常在菌への影響については、ごく一部の研究で調べられているだけにとどまっていました。2000年代に入って次世代シークエンサーの汎用性が高まると、様々な環境や人体の各部位の菌叢解析が行われるようになり、マイクロバイオームの研究報告数が急増しました。その中には皮膚マイクロバイオームについての研究も含まれます。疾患のある皮膚だけではなく、健常な皮膚のマイクロバイオームについて新たな知見が蓄積される1につれ、皮膚マイクロバイオームへの効果をうたったスキンケア製品の販売数も世界中で増えてきました。効果成分とされているのは皮膚常在菌の栄養源となるオリゴ糖などのプレバイオティクスや、皮膚の免疫賦活などの効果を期待される死菌体の準(パラ)プロバイオティクス、乳酸菌などの発酵上清(ポストバイオティクス)です。これらの成分の皮膚常在菌叢への影響についてはまだ十分に調べられているとは言えず、健康で美しい肌の追究を使命とする化粧品業界などで意欲的に研究が行われています。

 皮膚のマイクロバイオームは、皮膚がどのような生理状態・形状の部位であるかによって構成の特徴が異なります。乾燥している腕などの部位では多様性が比較的高いのに対し、脇の下など湿っている部位ではブドウ球菌やコリネ菌などが多く、顔など皮脂の多い部位ではアクネ菌が高い割合を占めています。また、年齢2など宿主であるヒトの内因によっても異なることが分かっています。
 私たちは、顔の皮膚、特に“敏感肌”の皮膚マイクロバイオームに着目して研究を進めてきました。敏感肌というのは実は正確に定義されていませんが、主訴の一つである化学物質による刺激を感じやすいという性質は、皮膚常在菌の関与が示唆されている皮膚のバリア機能の違いも一因となり得ることから、敏感肌とそうでない肌での皮膚マイクロバイオームの比較を行いました。その結果、顔の皮膚マイクロバイオームにおいて最も高い割合で存在するアクネ菌(Propionibacterium acnes、現在はCutibacterium acnes)に対して、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の割合が敏感肌では有意に低いということが分かりました。
 これが敏感肌の原因なのか結果なのかは結論付けられませんが、「皮膚の免疫系やバリアの正常な働きに貢献していることが示唆されている表皮ブドウ球菌の割合が敏感肌では少ない」という発見は、新しい敏感肌に対応するスキンケア開発の糸口となる可能性があると考えています。

表皮ブドウ球菌のアクネ菌に対する比率

 皮膚の菌量は、腸内マイクロバイオームと比較すると圧倒的に少なく、このことが皮膚マイクロバイオーム研究において大きな問題になります。わずかなコンタミネーションが結果を大きく変えてしまうため、試料採取からDNA抽出、配列解析まですべての段階で細心の注意と高い技術が必要です。そこで私たちはDNA抽出から解析までを米国のZymo Research社に依頼し、わずかな皮膚試料からでも安定した結果を提供していただいています。例えば、同じ人の皮膚マイクロバイオームは安定であることがアメリカ国立衛生研究所(NIH)をはじめとする多くのグループから報告3されていますが、Zymo Reseach社で解析された結果からもそれは明らかです。下図に示したのは6人の被験者の方の(A)額と(B)頬から採取した角層試料のマイクロバイオーム解析(16S rRNA解析)結果です。角層試料は各被験者から4週間の間隔をあけて2回採取し、個別にDNA抽出を行いました。それぞれの解析結果は2本ずつ隣り合わせで並んだペアの棒グラフで示しています。棒グラフのペアを見比べると、同じ人の同じ部位(同じスキンケア製品を使用)であれば4週間経ってもほぼ同じマイクロバイオーム構成であることがよく分かります。

角層試料のマイクロバイオーム解析結果

 個人の中では比較的安定していても、個人間での違いが大きい皮膚マイクロバイオームは、現在のトレンドであるパーソナライズドスキンケアを考える重要な要素でもあり、今後ますます研究を深めていく必要がある領域だと考えています。
個人の肌に合わせたスキンケア。

ZYR-Microbiomics-Service

参考文献

  1. Byrd, A. L., et al., Nat. Rev. Microbiol., 16(3)、 143~155 (2018).[PMID:29332945
  2. Shibagaki, N., et al., Sci. Rep., 7(1), 10567 (2017).[PMID:28874721
  3. Oh, J., et al., Cell, 165(4)、 854~866 (2016).[PMID:27153496

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「知りたい!皮膚常在菌叢研究と応用」はフナコシニュース2022年8月合併号p.3に掲載しています。

フナコシニュース2022年8月合併号
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