心血管疾患（CVD）研究の最前線（BPS Bioscience社） コレステロールとPCSK9経路

コレステロールは、正常な細胞機能にとって重要な分子であり、ステロイドホルモンと胆汁酸の前駆体でもあります。一般的に、スタチンによるLDL-C（Low-dencity lipoprotein cholesterol）の低下によって、心血管疾患（CVD、Cardiac valvular disease）の発生を大幅に低下させることが示されています。しかし、スタチン療法だけでは、多数の患者、特に家族性高コレステロール血症患者のLDL-Cを低下させるのに十分ではありません。

LDLレセプター（LDLR）は、血液からLDL-Cを除去することにより血漿中のLDL-Cレベルの調節に重要な役割を果たしています。LDLRは、LDLに結合し、それらの複合体はエンドサイトーシスによって細胞に入ります。エンドソームの酸性pHに曝されると、LDLが放出され、LDLRは膜に再生されます。

PCSK9（Proprotein Convertase Subtilisin / Kexin type 9、プロタンパク質転換酵素サブチリシン／ケキシン9型）は肝臓で発現、合成されて血漿に分泌されます。また、LDLRの細胞外領域（ApoB100結合部位とは別の場所）に結合し、LDLRが内部に移行すると再びエンドソームに輸送されます。しかし、PCSK9はLDLR内の立体配座変化を引き起こし、リソソームに分解により細胞表面でLDLRを再利用されるのを防ぎます。したがって、PCSK9は、血液中からLDL-Cの除去に利用できるLDLR量を減らして血漿LDL-Cのレベルを高めます。

PCSK9の阻害物質は、肝臓での除去を介してLDL-Cを低下させる新しい治療分野として浮上しています。2015年、米国食品医薬品局（FDA）は、スタチン療法を最大限に許容する「LDLをさらに低下する必要がある」患者や、スタチン不耐性の患者に対する効果的な代替療法として、PCSK9阻害剤を承認しました¹。抗PCSK9モノクローナル抗体は、すでに最大用量のスタチン療法を受けている患者に対しても、血漿LDL-Cレベルを約60％低下させたことが示されています²。PCSK9の阻害は、CVDが発症した患者の将来の心臓発作や脳卒中を予防にも極めて有望です。

多くの製薬会社は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはsiRNA（Anmylam）によるPCSK9形成の防止、または低分子阻害物質（Shifa Biomedical社）、アドネクチン（BMS社-Adnexux）、または模倣ペプチド（Merck社, Seronexus）を介したLDLRへの成熟PCSK9の結合の防止といった、他のPCSK9阻害戦略に注力しています³。一方、研究者らは、様々な併用療法の研究や、リポタンパク質（a）の血漿中濃度を下げるなどのPCSK9の他の機能の研究を行っています⁴。