技術情報：抗体のエフェクター機能

抗体は単に抗原と結合するだけではなく、多くの機能を有しています。そのほとんどは免疫系の防御反応に関与します。

抗体は様々なメカニズムで機能を果たしますが、そのほとんどは他の免疫系機構と連携して行われます。抗体は単に分子間の相互作用を遮断するだけでなく、C1複合体上のC1qとクラスター化した抗体との相互作用により、古典的な補体経路を活性化することができます（＝補体依存性細胞障害作用, Complement-dependent Cellular Cytotoxicity, CDC）。また、抗体はFcレセプターと結合することにより、液性（体液性）免疫応答と細胞性免疫応答をつなぐ重要な役割を果たします。

図：抗体の作用機序
抗体には以下のような作用があります。i）リガンドとレセプターの相互作用を阻害する、ii）古典的補体経路（CDC）を活性化して細胞溶解を引き起こす、iii）エフェクター細胞上のFcレセプターと相互作用して抗体依存性細胞傷害（Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity, ADCC）を引き起こす、iv）食細胞が病原体を取り込むためのシグナルを発する、などがあります。

Fcレセプター（FcR）は、抗体を介した液性免疫応答をエフェクター細胞に伝達する、重要な免疫制御を行うレセプターです。FcγR（IgG）、FcεRI（IgE）、FcαRI（IgA）、FcμR（IgM）、FcδR（IgD）など、すべてのクラスの免疫グロブリンでFcレセプターの存在が確認されています。
白血球に見られるヒトIgGのレセプターには、CD64（FcγRⅠ）、CD32（FcγRⅡa、FcγRⅡb、FcγRⅡc）、CD16（FcγRⅢa、FcγRⅢb）の3つのクラスがあります。 FcγRⅠは高親和性レセプター（KD値～ nM）として分類され、FcγRⅡおよびFcγRⅢは低～中程度の親和性（KD値～ μM）のレセプターです¹。

抗体依存性細胞傷害（ADCC）では、エフェクター細胞（ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球）の表面に存在するFcvRが、標的細胞に結合しているIgGのFc領域に結合します。結合によりシグナル伝達経路が活性化され、溶解酵素、パーフォリン（Perforin）、グランザイム（Granzyme）、腫瘍壊死因子（TNF）などのさまざまな物質がエフェクター細胞から分泌され、標的細胞を破壊します。ADCCのエフェクター機能はIgGサブクラスによって異なります。これは、抗体のアロタイプおよびFcvRのタイプにも依存しますが、ヒトではIgG1とIgG3で高く、IgG2とIgG4では低くなっています。抗体のサブクラスによる機能の違いは、以下の表を参照して下さい。

以下のモデルに示されているように、FcγRは抗体のヒンジとCH2領域を挟んで非対称にIgGに結合します。結合部位の解明は、タンパク質工学的手法によるIgGエフェクター機能の調節を可能にしました。→ 「抗体のFcドメインのタンパク質工学的改変」を参照して下さい。

図：ヒトIgG1-FcγRⅢ複合体
FcγレセプターⅢが、ヒトIgG1のヒンジおよびCH2領域に非対称に結合することを示した分子モデル。
左側はリボンモデル、右側は空間充填モデル。
抗体の重鎖は青、軽鎖は緑、糖鎖はオレンジ、FcγRⅢは赤で示されている。
（PDBアクセッション番号1IGYおよび1E4Kから作成された）。