3D組織染色をより深く、より早く(Illumos社)

掲載日情報:2025/07/01 現在Webページ番号:65997

Frontiers

Vol. 104 3 D組織染色をより深く、より早く

Illumos社のOmniStainキットは、特殊な装置を必要とせずに、最大数cmの組織深部まで抗体を均一に浸透させて三次元(3D)組織染色を行える試薬キットです。
同社の創業者でCEOを務める、香港中文大学の医師Dr. Hei Ming LAI(黎曦明 博士)にお話を伺いました。

Dr. Hei Ming LAI

従来の 3D 組織染色の課題と歴史

三次元組織学は、組織の染色、透明化、そして顕微鏡を駆使することで大きく発展してきました。しかし、ここには下図のように「抗体を組織深部まで均一に浸透させることが非常に困難」という大きな課題があります。
これは従来の2D染色技術を単純に拡大しただけでは乗り越えられない壁であり、結果として様々な革新的アプローチが生まれるきっかけとなりました。

三次元(3D)組織染色とその課題

例えばiDISCO法(2014年)では、抗体が組織内の抗原への結合で消費され、組織深部への浸透が制限されてしまうのが観察されました。これに対し、抗体の量を増やすことで解決できる可能性が示唆されました。2015年にはSWITCH法が登場し、SDSを用いて抗体を一時的にマスクし、抗体を組織全体に均一に分布させてから抗体を抗原に結合させる手法が提案されました。uDISCO法(2016年)では血管を通じて直接抗体を灌流させる方法が開発され、FASTClear法(2017年)では抗体を徐々に加えていくことで、抗原への結合速度を制御して染色ムラを防ぎました。2019年のeFLASH/CURVE法では、電気化学デバイスによって抗体のモビリティを調整しました。さらに、2020年には、CUBIC-HV法が静電的相互作用を利用して抗体の浸透性を高め、ELAST法は組織を弾性ゲルに変化させて抗体の移動距離を短縮しました。2022年のSPEARs/ThICK-staining法では、抗体と抗原の結合を化学的に安定化させつつ、高温で制御する方法が使われました。
そして2024年、私たちはINSIHGT法という新たな手法を開発しました。

臨床現場でも使用できる新しい手法開発への試み

私は研究医として、三次元組織学を臨床現場で応用するには、ホルマリン固定されたヒト組織に対して実用性のある3D免疫染色法の確立が不可欠だと感じていました。その実現には、組織深部まで均一に染色でき、処理が迅速で、誰でも簡便に取り扱えることに加え、既存の標準的な染色プロトコルとも互換性がある手法が求められます。さらに、特殊な機器を必要とせず、組織の形態を損なわないことも重要な条件です。
しかし、こうした条件をすべて満たす手法は限られており、実際に使えるものはごくわずかでした。

私たちはまず既存の方法を試してみたもののうまくいかず、抗体を変性させてからリフォールドさせるなど、試行錯誤を重ねました。その後、統計力学の基本に立ち返ったことで、化学物質がタンパク質の相互作用にどのように影響するのかが理解できるようになりました。そして理論的な考察をもとに、超強酸の共役塩基として働く化合物や、水の比熱を下げるような化合物が、必要な特性を持っているかもしれないという仮説にたどり着きました。
そうした中で同定できたのが、[B12H12]2-とシクロデキストリンでした。


短時間で均一な組織深部ラベリングが可能なINSIHGT法

短時間で均一な組織深部ラベリングが可能なINSIHGT法

INSIHGT法ではまず、組織をNa2[B12H12]を含む溶液で処理することで、組織内の抗原への抗体結合が抑制された状態を作り出します。
次にそこへ抗体を加えて組織深部まで浸透させた後に、シクロデキストリン処理によりNa2[B12H12]をトラップし、抗体と抗原の結合能を復元します。
この新しいアプローチは、分子オミクスレベルに至るまで組織に全く損傷を与えません。


INSIHGT 法による組織深部ラベリングを製品化 OmniStain キット

解剖から6~7日以内に3D画像が得られる

成体マウスの全脳または同等の大きさの組織(約1 cm3)の場合では、染色操作に要する日数はわずか4日です。
※そのほか脱脂に 1 日、洗浄および組織透明化に1日を必要とします。

300以上の市販抗体 での適合を確認

検証済み抗体リストはメーカーのウェブページで公開しており、日々更新しています。2025年2月現在、300 種類の抗体での適合性を確認しています。

様々な有機溶媒系の組織透明化試薬に適合

BABB法など有機溶媒系の組織透明化試薬との併用を推奨しています。
※CUBICなどその他の透明化試薬との併用は検証中です。詳細をご希望の方はお問い合わせ下さい。

マウス脳の染色像

今後の展望

私は以前から、厳格に真実を追求し、データの妥協を許さない日本の研究者に深く感銘を受けてきました。そうした姿勢や探究心、さらにCUBIC-HV法のようなエレガントかつシンプルな手法から、私たちは大きな影響を受けました。これらは、INSIHGT法の開発理念である「真実を追求しつつ、科学の美しさを尊重する(Empowering scientists to pursue truth while appreciating the beauty in science)」の礎となっています。
今後は、30 年前のFFPE組織も損傷なく使用できる3D組織染色用の賦活化液の開発や INSIHGT法のさらなる改良を進め、日本の研究者の皆様にもお届けしていきます。

 Illumos社メンバー

Dr. Hei Ming LAI(前列中央)とIllumos社メンバー

お問い合わせ先

(テクニカルサポート 試薬担当)

reagent@funakoshi.co.jp

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