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固形腫瘍への選択性向上を目指した新たな設計 低酸素環境でCARの発現/安定性を制御するCAR-T細胞「HypoxiCAR」

掲載日情報:2026/06/30 現在Webページ番号:73711

CAR-T細胞療法は、患者由来のT細胞を遺伝子改変し、がん細胞を認識・攻撃できるようにする免疫療法です。血液がん領域では大きな成果を上げている一方、標的抗原が正常組織にも発現している場合があり、腫瘍以外の組織にも作用して毒性を生じる「腫瘍外作用」が課題となっています。
Bio-Techne社のブログでは、この課題に対する新しいアプローチとして、固形腫瘍に特徴的な低酸素環境を利用し、CARの発現/安定性を制御する「低酸素環境応答型CAR-T細胞(HypoxiCAR)」が紹介されています。

本製品は研究用です。研究用以外には使用できません。

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固形腫瘍に見られる「低酸素環境」に着目

固形腫瘍では、腫瘍細胞の急速な増殖、血管構造の乱れ、代謝変化などにより、腫瘍内部が酸素不足の状態、すなわち低酸素状態になりやすいことが知られています。この低酸素性は多くの正常組織とは異なる腫瘍微小環境の特徴であり、CAR-T細胞の腫瘍選択性を高めるためのスイッチとして利用できる可能性があります。

HIF-1α発現のWestern blot解析

CoCl2処理によるHIF-1α発現誘導の検出例
Caki-1細胞をCoCl2で処理し、HIF-1α発現を誘導した細胞ライセートをウエスタンブロットで解析した。

ポイント!

低酸素環境応答型CAR-T細胞(HypoxiCAR)は、「低酸素環境でCARの発現を選択的に高め、CARの安定性を制御する」ことを目指した設計です。これにより、通常酸素環境にある正常組織でのCAR-T細胞活性を抑え、固形腫瘍に対する選択的な攻撃を狙います。


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ErbBファミリーを標的としたCAR-T細胞の課題

今回紹介する研究では、ErbBファミリーレセプターを標的とするCAR-T細胞が基盤となっています。ErbBファミリーには、EGFR(ErbB1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、HER4(ErbB4)などが含まれ、多くの固形がんで発現上昇や機能異常が報告されています。基盤となる設計には、ヒトおよびマウスのErbBファミリーレセプター9種類のうち8種類を標的とするT1E28zと、体外培養時のT細胞増殖を補助するT4-CARが含まれています。なお、T4-CARはODDを持たないため通常酸素環境でも発現し、体外培養時の効率的なT細胞増殖に寄与します。
一方で、ErbBファミリーレセプターは正常組織にも発現しているため、全身投与した場合には正常組織への影響が懸念されます。本研究では、ErbBファミリーを広く認識するCAR-T細胞をマウスに静脈内投与したところ、体重減少や肝臓・肺における腫瘍外作用が認められたことが報告されています。

ヒト乳がん組織におけるErbB2/HER2の免疫組織化学染色像

ヒト乳がん組織におけるErbB2/HER2の免疫組織化学染色像
ErbB2/HER2は、がん細胞、血管内皮細胞および腫瘍間質細胞で染色が認められた。


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HypoxiCARの設計:ODDとHREによる二重制御

研究チームは、CAR-T細胞を全身投与しても正常組織での作用を抑えられるよう、低酸素応答性を持つ2つの要素をCAR構築に組み込みました。

1. ODD(oxygen-dependent degradation domain)

1つ目は、ODD(酸素依存性分解ドメイン)です。ODDは、低酸素応答に関与するHIF-1αの酸素依存的分解機構に基づくドメインで、通常酸素環境下でタンパク質の分解を促す仕組みに関与します。この酸素依存的な分解制御をCAR構築に組み込むことで、通常酸素環境ではCAR発現を抑え、低酸素環境でCARが維持されることを狙います。

2. HRE(hypoxia-responsive elements)

2つ目は、HRE(低酸素応答配列)です。HREは、低酸素環境下で遺伝子発現を高める配列であり、CARプロモーターのエンハンサー領域に組み込むことで、低酸素環境に応じたCAR発現の制御を強化します。
ODDのみを導入した設計では、通常酸素環境下でも腫瘍細胞殺傷活性が残っていたため、HREを追加することで、より厳密な低酸素依存的制御が目指されました。


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マウスモデルで腫瘍増殖を抑制

完成した低酸素環境応答型CAR-T細胞(HypoxiCAR)は、低酸素環境下でCAR発現が上昇し、CARが維持されるように設計されています。本研究では、この低酸素環境応答型CAR-T細胞が、動物実験において望ましくない作用を回避しつつ、腫瘍増殖を抑制したことが示されています。
この結果は、固形腫瘍に特徴的な低酸素環境を利用することで、CAR-T細胞の抗腫瘍効果と安全性の両立を図れる可能性を示すものです。


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固形腫瘍CAR-T療法への応用可能性

固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法では、標的抗原の選択性、腫瘍微小環境、正常組織への毒性など、解決すべき課題が多く残されています。低酸素環境応答型CAR-T細胞(HypoxiCAR)のように、腫瘍微小環境の特徴を利用してCARの発現や安定性を制御する設計は、こうした課題に対する有望なアプローチの一つと考えられます。
今後、患者での安全性と有効性が確認されれば、外科的切除が難しい固形腫瘍や転移性腫瘍に対する新しい治療戦略につながる可能性があります。


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まとめ

  • 固形腫瘍では、腫瘍内部が低酸素状態になりやすい。
  • 低酸素環境応答型CAR-T細胞(HypoxiCAR)は、低酸素環境をスイッチとして利用し、CARの発現/安定性を制御するCAR-T細胞である。
  • ODDとHREを組み合わせることで、低酸素依存的なCAR発現制御と安定化を目指している。
  • マウスモデルでは、腫瘍増殖抑制と腫瘍外作用の低減が示されている。
  • 固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の安全性向上に貢献する可能性がある。

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参考文献

  • Muz, B., et al., Hypoxia (Auckl)., 3, 83-92(2015). [PMID:27774485]
  • Kosti, P., et al., Cell Rep. Med., 2(4), 100227(2021). [PMID:33948568]
  • Kosti, P., et al., STAR Protoc., 2(3), 100723(2021). [PMID:34401788]
  • Appert-Collin, A., et al., Front. Pharmacol., 6, 283(2015). [PMID:26635612]
  • Juillerat, A., et al., Sci. Rep., 7, 39833(2017). [PMID:28106050]

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関連製品

本記事で紹介している関連製品は、Bio-TechneグループのR&D Systems、Novus Biologicalsの掲載データを参考に選定しています。詳細な仕様や使用例については、メーカーページをご確認ください。
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用途 品名 商品コード
低酸素応答マーカーの検出 Mouse Anti-HIF-1 alpha Monoclonal Antibody(H1alpha67) NB100-105
EGFRシグナルの解析 Recombinant Human EGF Protein, CF 236-EG
リン酸化EGFRの検出 Rabbit Anti-Human Phospho-EGFR(Y1173)Antibody AF1095
ErbB2/HER2の検出 Rabbit Anti-Human ErbB2/Her2 Polyclonal Antibody NBP2-29624
CAR発現細胞の検出 Recombinant Human CD19 Protein, Atto 647N Conjugate ATM9269-020

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(テクニカルサポート 試薬担当)

reagent@funakoshi.co.jp

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