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鳥取大学研究推進機構 准教授 檜垣 克美 先生

知りたい!遺伝性脳疾患に対する薬理学的シャペロン療法の開発
鳥取大学研究推進機構 准教授 檜垣 克美 先生

掲載日情報:2026/01/09 現在Webページ番号:73203

知りたい!遺伝性脳疾患に対する薬理学的シャペロン療法の開発のタイトル

遺伝性ライソゾーム病は、細胞内小器官のリソソーム内に存在する加水分解酵素などの遺伝的欠損により、未分解の脂質や糖脂質などが蓄積することで引き起こされる疾患である。これらの疾患は50種類以上が知られており、いずれも患者数の少ない希少疾患に分類される。その半数以上は小児期に進行性の重篤な脳症状を呈して発症する難病である。
筆者らは、ライソゾーム病の脳病態に有効な治療法として、薬理学的シャペロン療法を開発してきた。この療法は、シャペロン化合物を用いて、患者細胞内で変異リソソーム酵素の構造を安定化させ、酵素活性を回復させることを目的としている。また、低分子物質であるシャペロン化合物は経口投与が可能であり、他の治療法では効果が得られにくい脳などの組織に対しても有効性を示す。
本稿では、薬理学的シャペロン療法を含むライソゾーム病の治療法全般について概説した後、現状の課題と今後の展望について述べる。

リソソームとライソゾーム病

リソソームは真核生物の細胞内小器官の一つで、1952年にChristian de Duve博士によって発見された。 一重の生体膜に囲まれているリソソームの内部はV-ATPase の働きにより低いpHに保たれている。 また、内腔には、タンパク質、脂質、糖質、核酸などのさまざまな生体高分子を分解する加水分解酵素が局在し、生体高分子分解の主要な場となっている。 これらの酵素の基質は、主にエンドサイトーシスおよびオートファジーの2つの経路を介してリソソームに運ばれる。 一方で、リソソームは細胞内の分解系としての役割に加え、mTORC1複合体を介してアミノ酸などの栄養状態を感知する場としての重要な機能をもつことも明らかになっている。 さらに、リソソーム由来のエクソサイトーシスは、損傷した細胞膜の修復や細胞外マトリックスの分解にも関与する。 また、リソソームとオートファジーに関連する遺伝子の発現を制御する転写因子TFEBは、細胞が飢餓やストレス条件下にある際に活性化され、リソソームおよびオートファジーの機能を促進することで細胞の恒常性維持に寄与している。

ライソゾーム病は、リソソーム加水分解酵素、補酵素、あるいはリソソーム膜タンパク質などのリソソーム機能タンパク質の遺伝的欠損により引き起こされる疾患であり、50種類以上の異なる疾患からなる疾患群である。 これらは、いずれも患者数の少ない希少疾患であり、厚生労働省により「指定難病」に定められている。 患者細胞内では、リソソーム酵素の遺伝的欠損により特定の基質が分解されず、リソソーム内に異常蓄積する(図1A, B)。 さらに、障害を受ける細胞・組織によって、中枢神経症状、肝脾腫、骨・関節症状などの多様な臨床症状を呈する。 特に、ライソゾーム病の約半数以上は、新生児期から小児期に進行性で重篤な中枢神経症状を主症状として発症する。 一方で、リソソームの細胞病態は、リソソーム内の基質蓄積のみならず、オートファジー異常、小胞体ストレス応答、ミトコンドリア機能異常、カルシウムシグナル異常、炎症反応など、さまざまな二次的な代謝異常が複雑に関与している。

疾患名としては、特定疾患に難病指定された際、英語読みしたライソゾーム病が採用され、一般的に用いられている。

ライソゾーム病細胞におけるリソソーム内の基質蓄積

(A)ライソゾーム病細胞は、リソソーム内に未分解の基質(脂質、糖脂質など)の蓄積を示す。
(B)リソソーム内に蓄積した基質は、電子顕微鏡下では特徴的な封入体構造(Membranous cytoplasmic body)を示す。

ライソゾーム病に対する治療法

現在行われているライソゾーム病の治療法としては、まず酵素補充療法があげられる。 この治療法は、先天的に欠損している酵素を体外から定期的に投与する方法である。 投与された酵素は、細胞膜上に存在するマンノース6リン酸受容体を介したエンドサイトーシス経路で細胞内に取り込まれ、リソソーム内に輸送されることで治療効果を発揮する。 この酵素補充療法は1990年代にライソゾーム病の一種であるゴーシェ病に対して初めて導入され、その後、ファブリー病、ポンペ病やムコ多糖症にも応用された。 これらの疾患に対して一定の効果が認められるものの、非常に高い薬価、中和抗体の出現、筋組織などへの酵素の取り込みが不十分であることなど、いくつかの課題も明らかになっている。 さらに、高分子である酵素は血液脳関門を通過できないため、中枢神経系への効果は期待できない。 この問題に対し、近年では酵素の脳室内への直接投与法や、血液脳関門通過型の酵素の開発が進められ、ムコ多糖症Ⅱ型患者に対する治療が開始されている1。 そのほかの治療法として、造血幹細胞移植療法、基質合成抑制療法、薬理学的シャペロン療法がいくつかのライソゾーム病に応用されている。 また、リソソーム酵素が細胞外に分泌され、隣接する細胞に取り込まれる現象(cross correctionと呼ばれる)を利用した遺伝子治療法の開発も進められている。

薬理学的シャペロン療法の開発

薬理学的シャペロン療法は、鈴木義之博士によって日本で初めて考案・開発された治療法である2。 通常、リソソーム酵素は小胞体で合成された後、正しい折りたたみ構造を形成し、ゴルジ体で修飾をうけたのちにリソソームに輸送され、加水分解酵素活性を発揮する。 一方、ライソゾーム病患者の細胞内で見られる変異酵素の多くは、合成後に折りたたみ構造の異常により小胞体関連分解系(ERAD)により分解される。 薬理学的シャペロン療法では、標的酵素に親和性をもつ化合物(シャペロン化合物)を用いることで、変異酵素の構造異常を補正し、リソソームへの輸送を促進することで治療効果を得る(図2)。 さらに、リソソーム内の酸性条件下では、シャペロン化合物が酵素から解離するため、加水分解反応を促進することができる。 また、シャペロン化合物は低分子物質であることから経口投与が可能であり、全身に広く分布することから、他の治療法で効果が得られにくい脳などの組織に対し有効性を発揮する。

ライソゾーム病に対する薬理学的シャペロン療法の原理

低分子シャペロン化合物は、標的とする変異酵素に特異的に結合することで折りたたみ構造異常を補正し、リソソームへの輸送を促進する。さらに、リソソーム内の酸性条件下で、シャペロン化合物は酵素から解離する。


初期の開発はファブリー病を対象として行われた。 1999年、鈴木義之博士らは、ファブリー病に対するシャペロン化合物として1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)を同定し(図3A)、モデルマウスに対する有効性を報告した2。 DGJはその後、米国Amicus社により開発・製品化が行われ、2018年に日本でも薬事承認を取得し、製品名ガラフォルド®として市販されている。
次に筆者らは、脳病態を主症状とするライソゾーム病であるGM1-ガングリオシドーシスに対するシャペロン化合物の開発を進め、2つの候補化合物(NOEVおよび6S-NBIDGJ)を見いだした(図3B)。 これらの化合物はいずれも分子量300以下の低分子化合物で、基質ガラクトースと類似した構造を持ち、標的酵素の活性中心部に結合する(図3C)3。 これらの化合物を低濃度で作用させると、患者由来の細胞において変異型特異的な酵素活性上昇効果を認めた(図3D)。 さらに、モデルマウスに対する薬効試験において、経口投与後に脳を含めた各臓器で酵素活性の上昇が確認され4、長期投与による神経症状の改善も認められた5。 一方で、基質と類似した構造をもつシャペロン化合物は、高濃度で使用すると阻害活性を示す可能性があることから、適切な投与濃度の設定が重要である。

シャペロン化合物と酵素活性上昇効果

(A)ファブリー病に対するシャペロン薬の化学構造
(B)GM1-ガングリオシドーシスに対するシャペロン薬候補化合物の化学構造
(C)シャペロン化合物と標的酵素の結合様態
(D)シャペロン化合物の変異酵素活性に対する上昇効果。シャペロン化合物は特定の変異型に対し、有意な酵素活性上昇効果(正常活性の10%値(点線)以上)を示した。

今後の展望

ファブリー病の薬理学的シャペロン薬であるガラフォルド®は、現在、有効性が確かめられた特定の変異型を有する患者に対して応用が進められている。 また、鳥取大学の大野耕策 名誉教授らは、日本人神経型ゴーシェ病患者に対しAmbroxolの投与試験を実施し、神経症状に対する効果を報告している6。 現在、様々なライソゾーム病に対するシャペロン薬候補化合物の開発が進んでいるが、一方で、これまで開発されたシャペロン化合物の多くは標的酵素に対する阻害剤であり、阻害活性の課題が残されている。 また、化合物の効果は特定の変異型に特異的であり、すべての変異型に有効というわけではない。これら課題に対しては、活性中心以外の部位(アロステリック部位)に結合する化合物や7、リソソーム内で構造変化することで酵素活性を妨げない新しいタイプの化合物の開発が進められている8。 さらに最近では、遅発型ポンペ病患者に対して、酵素補充療法と薬理学的シャペロン療法を併用する治療法が薬事承認を受けた。 この併用療法は、シャペロン化合物が正常酵素に結合してその構造を安定化させることによって効果を発揮するものであり、今後、酵素補充療法や遺伝子治療と薬理学的シャペロン療法の併用による新しい治療戦略の開発が期待されている。 さらに、薬理学的シャペロン療法は、原理的にタンパク質折りたたみ構造異常を伴うさまざまな疾患への応用が可能であり、現在有効な治療法が存在しない疾患に対する新たな治療薬の開発手段としても期待されている。

ライソゾーム病に対する治療標的と治療法

現在、ライソゾーム病患者に対し行われている治療法と治療標的。異なる治療標的の治療法を併用することで、相乗的な治療効果が得られる可能性がある。


参考文献

  1. Okuyama T. et al., Mol Ther., 27, 456~464(2019).
  2. Fan J.Q. et al., Nat Med., 5, 112~115(1999).
  3. Suzuki H. et al., J Biol Chem., 289, 14560~14568(2014).
  4. Matsuda J. et al., Proc Natl Acad Sci USA., 100, 15912~15917(2003).
  5. Suzuki Y. et al., Mol Genet Metab., 106, 92~98(2012).
  6. Narita A. et al., Ann Clin Transl Neurol., 3, 200~215(2016).
  7. Dal Maso T. et al., Nat Commun., 16, 4890(2025).
  8. Mena-Barragan T. et al., Angew Chem Int Ed Engl., 54, 11696~11700(2015).

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