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アステラス製薬株式会社 イノベーションラボ 生田目 一寿 主管研究員

知りたい!細胞創薬自動化プラットフォーム「Mahol-A-Ba」と次世代の実験自動化への期待
アステラス製薬株式会社 イノベーションラボ 生田目 一寿 主管研究員

掲載日情報:2025/08/29 現在Webページ番号:72705

知りたい!細胞創薬自動化プラットフォーム「Mahol-A-Ba」と次世代の実験自動化への期待 アステラス製薬株式会社 イノベーションラボ 生田目 一寿 主管研究員

創薬研究における細胞実験自動化の重要性

創薬研究における細胞の利用は、疾患関連の現象や薬の効果を試験管レベル(in vitro)で確認するための重要な手段である。近年では、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)1やオルガノイド2などを用いた細胞モデルに加え、マイクロ流体技術を応用したデバイス上で細胞を培養し、心臓や肝臓などの生体組織を人工的に形成させる「Organ-on-a-chip」3の活用により、生体を模倣した薬効評価が期待されている一方で、その実施には高度な実験技術が求められる。例えば、iPS細胞では、再現性を低下させる実験的な変動要素が多く4、従来以上に丁寧な細胞操作と熟練した実験技術が求められる。実験の再現性は研究者の技術習熟度に依存し、技術の移管も容易ではない。細胞の維持培養や分化には長期的な作業が伴い、休日や夜間にも実験を行う必要があり、多大な労力と時間を要する。薬効評価では、細胞の種類や変化の指標となるマーカーの定量に加え、経時的な形態変化を画像から数値化する必要があり、難易度が一層高まる。アステラス製薬では、低分子に限らず、抗体医薬、細胞医療、核酸医薬、遺伝子治療などの新規モダリティに挑戦している。新規モダリティは、ヒト特異性を有し多機能な特性を持つため、ヒト由来の細胞系やiPS細胞による薬効評価が不可欠である。これらの課題を解決する手段として自動化があり、アステラス製薬では細胞創薬自動化プラットフォーム「Mahol-A-Ba(まほらば)」を導入し、創薬研究の効率化を図っている。

細胞創薬自動化プラットフォーム「Mahol-A-Ba(まほらば)」とは

Mahol-A-Baは、iPS細胞の調製を担うLabDroid Maholo5と、スクリーニングおよびアッセイなどの多検体処理を担うScreening Station6,7という2つの自動化システムから構成されるアステラス製薬独自のプラットフォームである。Maholoは、双腕ロボットを中心に、研究者が手動で扱う実験器具を用いて研究者の動きを模倣する自動化システムであり、iPS細胞の培地交換や継代操作を自動的に実行し、多様で高品質な細胞の安定供給を実現する。一方、Screening Stationは、細胞の品質確認やアッセイを行うフローサイトメーターや共焦点顕微鏡、さらに自動CO2インキュベーター、プレート洗浄機、自動分注機、搬送ロボット、スケジューリングソフトウェアなど、18種類の汎用機器とソフトウェアで構成された全自動細胞実験システムである。

各システムの詳細は、いずれも論文が公開されており参照を推奨する5,6,7。本寄稿では特に、難易度の高い細胞実験プロトコールを研究者から自動化システムへ、また自動化システム間で技術移管に成功した事例について紹介する。

研究者からMaholoへの技術移管

アステラス製薬と京都大学iPS細胞研究所(Center for iPSCell Research and Application、以下CiRA)との共同研究の中で、CiRAの熟練研究者の手動実験プロトコールを数値化し、つくば研究センターのMaholoに移管して自動化した。FSHD(Facioscapulohumeral muscular dystrophy、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)患者由来の骨格筋iPS細胞を使用して、培地交換による分化プロセスと免疫染色による分化状態の定量化までを自動化し、初回の検証で成功を収めた。この取り組みは、日本国内において京都市から茨城県つくば市の遠距離の実験室間での実験プロトコールを熟練研究者から自動化システムMaholoへ技術移管した成功例である5

半自動システムからScreening Stationへの技術移管

CiRAは、Screening Stationと同一メーカーの機器として自動分注機、プレート洗浄機、共焦点顕微鏡を保有しており、これらを用いて半自動の培地交換と免疫染色、手動での細胞画像測定を実施した。その実験プロトコールを構成する各機器の実験プログラムを京都市のCiRAからつくば市のScreeningStationに移管し、CiRAでは実施していなかったラボウェア(試薬や細胞が入った容器)の搬送も完全に自動化することで、全自動によるFSHD-iPS細胞の培地交換、生細胞の経時的な細胞画像撮像と形態変化の定量化、免疫染色による分化状態の定量化までを、初回の検証で成功した。この取り組みも、京都市からつくば市の遠距離の実験室間での細胞アッセイの実験プロトコールを半自動システムから自動化システムScreeningStationへ技術移管した成功例である6

半自動システムからScreening Stationへの技術移管

Mahol-A-Baは、研究者が試薬とラボウェアを各自動化システムへ設置した後に、遠隔地のPC上から実験室PCへリモートアクセスしてプログラム作成、細胞実験、解析を一貫して実行できる。アステラス製薬のネットワークセキュリティのもと、スマートフォンやPCから実験を開始し、自動化システム上でトラブルが生じた際には、エラーメールが発報され、遠隔操作で復旧可能か、出社して対応すべきかを判断することができる。この全自動システムを遠隔操作できる機能により、休日や夜間での無人運転が可能になり、Mahol-A-Baのユーザーが拡大した。さらに、実験プロトコールやノウハウの共有のために社内ネットワークのソーシャルメディアを活用したことで、Screening Station 1号機のユーザーコミュニティが形成・拡大し、そこから新たなアイデアが生まれ、使用用途も多様化した。その結果、使用時間の許容量を超えたため、同じ研究棟にScreening Station 2号機を増設した。さらに、2024年には、米国サウスサンフランシスコにあるアステラス製薬の研究所にScreening Station 3号機を設置し、各機器のプログラム技術移管を行うことで、米国でも同様の実験が可能になった。このように、アステラス製薬ではMahol-A-Baの海外展開と技術移管を実現し、つくば研究センターを中心とした実験データおよびプロトコールのグローバルな共有を通じて創薬を加速させることを目指している。筆者は、これらの取り組みを2025年1月に米国サンディエゴで開催されたラボオートメーションの学会SLAS(Society for Laboratory Automation andScreening)2025にて講演を行い、この発表内容はScreening StationのソフトウェアベンダーであるBiosero社のホームページにも紹介されている8。以上、アステラス製薬が直面してきた細胞創薬研究における課題と、それを自動化によって克服してきた成功事例を紹介した。

自動化システムを社内外へ拡大し、データとプロトコールを共有することで創薬研究を加速する
図. 自動化システムを社内外へ拡大し、データとプロトコールを共有することで創薬研究を加速する

次世代実験自動化への期待

アステラス製薬は、共通する自動化システムをグローバルに設置し、実験プロトコールと実験データを共有することに成功した。一方で、細胞実験のプロトコールは、細胞の種類や条件により複雑に変化し、目的に応じて使用するラボウェアの種類を変更しながら、様々な薬効の評価に対応していく必要がある。このような背景から、Mahol-A-Baは日々進化・改良を重ね、新たな自動実験プロトコールを継続的に構築していく必要がある。また、Mahol-A-Baのような高度かつ複雑なシステムの取り扱いは、単にスタートボタンを押すだけで誰でも操作できるものではなく、今後も継続的なユーザー教育と人材育成が重要な課題として残されている。Mahol-A-Baをより多くのユーザーが扱えるようにするためには、以下の取り組みが求められる。

  • 自動実験プロトコールの多様な変化に柔軟に対応できるよう、実験スケジューリングを支援するソフトウェアのGUI(Graphical User Interface)を、より直感的で操作性の高いものへと改良すること。
  • トラブル発生時の対応を簡便にするため、ロボットを統合したベンダーと連携し、対策手順やサポート体制の整備を進めること。

この取り組みにより、Mahol-A-Baの利便性と信頼性をさらに高め、グローバルな研究開発の加速に貢献する。

また、最近では、Opentrons社の自動分注機が、比較的安価で購入でき、オープンソースのPython API(Application Programming Interface)を使用しており、世界中の研究室で広く普及している。LLM(LargeLanguageModel、大規模言語モデル)を活用して容易に実験プログラムを作成できる取り組みも報告されており9、このような報告も参考にしながらGUIの改良をすることで、初心者でも自動化に参入しやすくなることを期待する。そして、さらに実験自動化を活用した日本の創薬研究が世界にも劣らないレベルに到達できることを期待する。

謝辞

本研究は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究において、創薬技術開発室の布施 広光 研究員、太田 章 博士より自動化および画像解析の指導を受け、臨床応用研究部門の櫻井 英俊 博士によりiPS細胞の実験の指導を受けて技術移管を進めてきた。心より感謝申し上げる。


参考文献

  1. 戸口田 淳也, 天理医学紀要, 22(1), 1~11(2019).
  2. Willyard, C., Nature, 523(7562), 520~522(2015).
  3. An, L., et al., Micromachines, 16(2), 201(2025).
  4. Volpato, V., Webber, C., Dis. Model Mech., 13(1), dmm042317(2020).
  5. Sasamata, M., et al., SLAS Technol., 26(5), 441~453(2021).
  6. Namatame, I., et al., SLAS Technol., 28(5), 351~360(2023).
  7. Fujiyama, S., et al., SLAS Technol., 29(6), 100215(2024).
  8. Biosero.(2025). Unlocking Potential:How Biosero is Automating Science to Accelerate Innovation.
    https://biosero.com/slas2025-tutorial-unlocking-potential/
  9. Qin, X., et al., arXiv, 2309.16721(2023).

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