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糖鎖:バイオマーカー探索の新たなフロンティアを切り拓く
糖鎖:バイオマーカー探索の新たなフロンティアを切り拓く
掲載日情報:2024/07/18 現在Webページ番号:71341
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Vector Laboratories社のサイエンスブログ(SpeakEasy Science Blog)からレクチンに関するブログをご紹介します。
※ Vector Laboratories社のレクチンに関する他のブログについては、サイエンスブログ「レクチン」からご覧下さい。
by Shuhui Chen, Ph.D.

疾患生物学に対する従来のアプローチでは、原因、症状、治療法をひとまとめにして考慮するのが一般的でした。現在の治療法は、好ましくないタンパク質間相互作用や酵素の過剰な活性など、疾患の特徴をターゲットにするように設計されます。
ターゲット情報は、病状の測定可能な指標である一連のバイオマーカーから抽出されます。しかし、多くの疾患では、患者プロファイルが多様すぎて、このようなことはできません。特に、がんや神経変性疾患では、従来の低分子薬物治療の効果がない患者数を過小評価することは許されません。
現在の低分子薬による治療効果の低下は、バイオマーカーの多様なポートフォリオの強化を示しています。詳細な診断、治療効果の予測、免疫療法などの個別化アプローチの実施のために、より明確なバイオマーカーの発見を目指してさらに深く掘り下げる必要があります。特に、翻訳後修飾(PTM)は、タンパク質の機能空間を多様化する役割を担っているため、優先的に研究を進める必要があります。
糖鎖修飾は、最も一般的かつ複雑なPTMの1つです。高分子のグリコシル化は、細胞内局在から潜在的な結合パートナーに至るまで、多くの側面においてその運命を決定します。グリコシル化はさまざまな組み合わせで起こりうるため、多様な糖鎖プロファイルが生じ、健康および疾患状態では大きく異なる可能性があります。つまり、糖鎖プロファイルの違いを解析することで、より正確に疾患状態を特定することができます。
糖鎖分類とバイオマーカーとしての可能性
糖鎖は結合している生体分子によって糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質の3つのクラスに分類されます。
卵巣がんのCA125抗原、膵臓がんのCA19-9、乳がんのCA15-3など、米国FDAが承認したタンパク質ベースのがんバイオマーカーの多くは糖タンパク質です1~3。これらの抗原の糖鎖付加傾向を研究することは、がんの診断価値を向上させます。
グリコシル化されたプロテオグリカンは、転移性がんのバイオマーカーとして特に有用です。循環腫瘍細胞(CTC)のような液性試料は「リキッドバイオプシー」と総称され、その転移特性はプロテオグリカンによってもたらされます4。さらに、グリコサミノグリカン鎖の硫酸化は、血管新生、上皮間葉転換、血管壁横断移動などの転移現象を引き起こします5。
スフィンゴ糖脂質、特にガングリオシドは、脳内の糖鎖質量の80%を占めることから、脳病変のバイオマーカーとして注目されてます6。ガングリオシドは、てんかん、脳卒中、多発性硬化(MS)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、アルツハイマー病(AD)など、多くの神経変性疾患と強く関連しています7。
疾患における糖鎖バイオマーカー
がん
糖鎖の研究が進むにつれ、グリコシル化パターンとがんに関係があることが明らかになっています。糖転移酵素 (Glycosyltransferase)の発現が変化すると、表層糖鎖パターンが変化し、細胞を悪性形質に変える情報伝達カスケードが引き起こされます。このような細胞には、切断型O-グリカン、分岐型N-グリカン、シアリルルイス抗原、コアフコシル化など、がんに関連する糖鎖モチーフを多く含んでいます8。
さらに、がん細胞は、腫瘍の微小環境の状態に応じて、グリコシル化パターンを変化させます。最も明らかな例は、がんが制御不能な増殖を伴う初期段階から、低酸素状態により転移が発生する進行段階へと進むにつれて糖鎖が変化し、がん細胞は転移に備え、免疫反応や酸素供給不足から身を守るために、独特の糖鎖プロファイルを獲得することで適応します。
言い換えれば、糖鎖はバイオマーカー研究にとって、正常な細胞とがん細胞を区別するだけでなく、病気の予後やサブタイプを判断するための貴重な資源です。がんバイオマーカーポートフォリオの強化により、がんの種類とステージの正確でタイムリーな診断が可能になります。
その中でも前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)の特異性が低いため、特に診断が困難ですが、PSAに結合した糖鎖を特定して測定することにより、検出ツールの精度を向上させることができます。例えば、日本の弘前大学大学院医学研究科の研究者のグループは、前立腺内の良性細胞と悪性細胞の種類を区別するための免疫測定システムを設計しました。 彼らは、片方に特異的に結合する植物レクチンMaackia amurensisを用いて、α2,3結合シアリルN-グリカンを持つPSAを検出して、良性に関連するα2,6結合のシアリルN-グリカンを持つPSAと区別できることを報告しました9。
単一の糖鎖バイオマーカーでは、がん表現型に関与する複数の反応の複雑さを網羅するには不十分です。現在の研究では、複数の糖タンパク質を同時に識別および定量化するために、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)による糖タンパク質パネルが重要視されています。LC-MS/MS法の進歩により、研究者は相対存在量の極めて低いがん関連糖ペプチドやタンパク質を検出できるようになりました10。
神経変性疾患
科学者が神経プロテオームをより詳細に研究できるようになったことで、中枢神経系(CNS)におけるグリコシル化の役割が解明されつつあります。また、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病とグリコーゲンに強い関連性が明らかになっています。
研究によって、P糖タンパク質がアルツハイマー病とハンチントン病のバイオマーカーおよびターゲットになる可能性があることが示唆されており、P糖タンパク質の過剰発現は、アミロイドβペプチドと変異ハンチンチン(HTT)タンパク質の蓄積と強い相関が観察されました11、12。
多発性硬化症(MS)の研究では、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)と、疾患進行における役割に焦点が当てられています。たとえば、Khareらは、MS関連抗体がMOGに結合することで自己免疫性脳炎症が誘発されることを示しました12。さらに、MOGはT細胞による炎症性サイトカイン産生を刺激することが示されました14。
パーキンソン病では複数の糖タンパク質が関与しています。ドーパミン機能障害と神経変性は、シナプス小胞糖タンパク質2、膜貫通糖タンパク質GPNMB、およびミエリン関連糖タンパク質に関連しています15~17。
つまり、CNSにおける上記の糖タンパク質やその他多くの糖タンパク質を同定し定量することで、神経変性システムの発症に関する貴重な洞察を得る可能性があります。例えば、微小管関連タンパク質(MAP6)のGal-(β-1,3)-GalNAcモチーフを検出するためにビオチン化Agaricus bisporuレクチンを用いたモデルマウスの研究では、対照群と比較してパーキンソン病モデル群では、MAP6のグリコシル化が亢進していることが明らかになりました。これは、MAP6のグリコシル化がPDの強力なバイオマーカーとなる可能性を裏付けています18。
老化
20世紀以降、平均寿命は飛躍的に伸びています。そのため、人間の身体は年齢とともに必然的に衰弱することに加えて、アルコールや加工食品の摂取といった有害な習慣の長期的な影響が時間の経過とともに現れるため、加齢による疾患が注目されるようになりました。
加齢はがんや神経変性疾患の危険因子ですが、加齢に伴う疾患や暦年齢にも、糖化のメカニズムが関与している可能性があります。
N-結合型糖鎖プロファイルは、暦年齢に関連深いことが示されました。血清タンパク質の分析により、アガラクトシル化および非シアリル化N-グリカンの全般的な増加と、コアフコシル化二分岐N-グリカンの減少が明らかになりました19。さらに、糖鎖の変化は、50歳以前は細心の注意を払わないと容易には気付かない程度ですが、50歳以降は急速な変化が示されました20。これらの結果は、ガラクトシル化とシアリル化が加齢に伴う生理学的変化の有効な指標であることを証明しています。
さらに、2つのフコシル化二分岐オリゴ糖の比率(N2GAF:NA2F)を測定する加齢関連バイオマーカー(GlycoAgeTest)を開発し、加齢に伴う健康状態の低下を予測および助言することに成功しました。 またこのバイオマーカーにより、40歳を過ぎるとこの比率が徐々に増加し、認知症への影響が示唆されました21。
2型糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患、慢性炎症でも、グリコシル化の差異が実証されています22。したがって、加齢に関連した病態に対する予防策を講じるのに役立つため、糖鎖の変化をタイムリーに検出することが重要です。
糖鎖バイオマーカーを検出するための分析技術
糖鎖を効率的なバイオマーカーとして確立するためには、いくつかの補完的な方法を用いる必要があります。これらの方法は、レクチンや抗体などの糖鎖結合タンパク質の特異性を利用して、さまざまな糖鎖の診断的価値を推測します。
フローサイトメトリーや質量分析法は、糖鎖結合タンパク質を用いて生体液中の糖鎖含量を分析するのに用いることができます23、24。一方、ゲノムワイドな糖鎖プロファイリングには、グリカンアレイなどのハイスループットな手法が必要です。これにより、いくつかの糖鎖とその結合パートナーを同定し、蛍光ベースの検出を用いて結合を定量化できます25。
定量的手法は、細胞内グリカンの分布と細胞表現型への影響を可視化する免疫組織化学染色や免疫蛍光染色補完することができます。最後に、キャピラリー電気泳動は、同じ単糖配列を持ちながら異なる構造を持つような糖鎖の異性体の分離を可能にして、特異性を高めます26。
終わりに
疾患と糖鎖プロファイルの変化には強い相関関係があることは明らかです。さらに重要なのは、詳細な糖鎖プロファイリングにより、多くの疾患、特にがんにおける患者のプロファイルが多様であることが明らかになることです。現在の研究では、これまで知られていなかった複雑な糖鎖配列の検出、良性と悪性の区別、異常なグリコシル化の下流への影響の解明など、糖鎖研究が直面する幾つかの難題に対応する必要があります。
それでも、糖鎖結合物質(Glycan binder)に関する知識の広がりと分析技術の組み合わせにより、研究者たちは新たな知見を生み出し続けています。この分野におけるすべての節目となる発見は、がんの早期発見とサブタイプの詳細なプロファイリングに貢献し、すべての患者にとって最適な治療オプションを予測するために不可欠です。
レクチンに関する知識を広げたい方のために、Vector Laboratories社では、コロナウイルス研究を含むレクチンの応用から糖の特異性まで、貴重な情報が満載された下記の「レクチンガイド」をご提供しています。
レクチンガイドのご案内
レクチンの歴史、レクチンアッセイの方法、原理などについては、以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)も併せてご参照下さい。
文献
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