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レクチンと糖鎖が特異的に結合することの重要性

掲載日情報:2024/01/18 現在Webページ番号:71241

Vector Laboratories社のサイエンスブログ(SpeakEasy Science Blog)からレクチンに関するブログをご紹介します。

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by Hikmet Emre Kaya, Ph.D.


The Importance of Lectin and Glycan Binding Specificity

研究は常に進化しています。新しいアプリケーション、ツール、実験方法が開発されると、研究者の問題への取り組み方、解決策の導き方も変化します。新しい考え方や視点は、その分野で新しい洞察を得る可能性があります。その一つが糖鎖生物学です。糖鎖生物学における、グリコシル化の役割が解明されましたが、まだまだ注目されている分野です。糖鎖生物学は腫瘍生物学から創薬に至るまで、幅広い応用が可能であり、体内の生物学的プロセスに関連する糖鎖の重要性を深く理解することができます。これらの糖鎖を利用してより深い洞察を得るための「鍵」はレクチンです。このレクチンタンパク質は、糖鎖を認識し結合する能力を通じて、生物学における広範な役割を果たしています。レクチンを新しい分野や確立された技術に導入することで、「扉」を開く新たな発見が期待できます。このブログでは、レクチンとは何か、どのように糖鎖と結合するのか、なぜこの過程が重要なのか、どのようにこの過程を理解すればよいのか、について説明しています。また、研究のヒントになるレクチン特性の情報もご提供します。

レクチンと糖鎖

レクチンは糖鎖構造(糖鎖)と結合するタンパク質であり、多くの動植物組織や生物に存在しています。少なくとも、1つの非触媒性ドメインが存在することにより、分子特性を変えることなく、特定の糖鎖を可逆的に認識し結合することができます1。その結果、レクチンはウイルス学、がん、神経科学、免疫学など、さまざまな分野で生物学的研究のための貴重なツールとなっています。最も単純な単細胞生物からヒトに至るまであらゆる種類の細胞は、表面タンパク質、脂質、RNAに付着した糖鎖(オリゴ糖と多糖)の層で密に覆われています。これらの構造は、細胞間相互作用、細胞膜を介した分子伝達、細胞シグナル伝達、細胞運命決定を促進します。グリコシル化のような翻訳後の修飾は、細胞機能において重要な役割を果たしています。グリコシル化の産物である糖鎖は、増殖から免疫応答に至るまで、重要な細胞機能を担っています。レクチンは、細胞タイプの同定など生物学的な意味を持つ特定の糖鎖発現パターンを発見するために利用できます。植物レクチンの利点は、入手しやすいこと、抽出が簡単であること、安定していること、そしてもちろん糖鎖特異的であることです。

レクチンはどのようにして糖鎖と結合するのか?

レクチンは糖鎖認識ドメイン(CRD)と呼ばれる活性部位で糖鎖と結合します。レクチン-糖鎖相互作用は必ずしも糖鎖構造全体を含むわけではなく、モチーフ、すなわち通常1~4糖からなる特定の糖鎖配列を認識する傾向があります。レクチン結合は非共有結合であり、不可逆的な結合形成を伴いません。レクチン結合に関与する主な相互作用は、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性力が関係しています2。水素結合は、アクセプターとして糖の酸性側鎖の水酸基(OH)とCRD残基(主にアスパラギンとグルタミン)のアミド基(NH)が関与しています。糖の-OHとチロシン、セリン、スレオニンの-OH基との間に生じる水素結合も形成されます。水素結合パターンは、レクチンの特異性を決定するのに有用です。例えば、GNL/GNAはマンノースの2’-OH間に特異的な水素結合を形成することができ、マンノース特異的レクチンとして決定されています。一方、ConAやエンドウ豆レクチンなどの他のレクチンは、このような特異的な相互作用を形成することができないため、強固で特異的な結合を促進することができません3。強固でないレクチン-糖鎖相互作用は、水を介した水素結合によるものです。レクチンのCRDは水分子が結合している場合があり、この水分子は糖鎖とレクチンとの間に水素結合ブリッジを形成し、直接的に水素結合を強化、支持しています。シアル酸(NeuNAc)のような荷電基を持つ糖鎖は、シアル酸結合性レクチンと水素結合を形成します。ここで、シアル酸の負に荷電したカルボキシレート基(COO-)は、主鎖アミド基、極性側鎖、あるいはレクチンのCRDの水分子と相互作用することができます。活性部位のリジンと結合する場合はイオン結合が用いられます。レクチン結合の研究でもう1つの重要な発見は、多くのレクチン、特にマメ科のレクチンは結合に金属イオン、Ca2+やMn2+のような二価の陽イオンを必要とすることです。さまざまな研究において、レクチン-糖鎖結合の実験で用いた培地から陽イオンを除去すると、レクチンの特異的な結合が消失することが報告されています4。金属イオンは直接、糖鎖と相互作用するわけではありませんが、レクチンのフォールディングを変化させ、CRDを糖鎖エピトープに近づけることで安定化し、結合を促進すると考えられています5。糖鎖は極性の高い分子であるにもかかわらず、レクチンと非極性の相互作用をすることができ、糖鎖結合の原動力となります。レクチンの芳香族側鎖、例えばフェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどと糖鎖のエピマー中心との間で相互作用が起こりえます。より具体的に言うと、エピマーとは糖鎖の異性体のことで、その配座は炭素の1つだけが異なります。エピマーの最も有名な例は、D-グルコースとD-ガラクトースです。レクチンの芳香族側鎖は、GlcNAc、GalNAc、NeuNAc上のアセトアミド部分のメチル基と非極性相互作用を示すこともあります。レクチンの糖鎖結合は、CRDのアミノ酸を除いて、大きな構造変化を起こしません。糖鎖モチーフの微妙な違いがCRDのアミノ酸の位置の大きな変化につながり、相互作用の種類に影響を与えます。このような結合側面が、糖の認識につながる中心的なメカニズムです。

なぜ結合特異性が重要なのか?

特異的なレクチン結合パターンは、糖鎖や糖鎖結合体の精製や単離に利用されてきました。また、レクチンは生体試料中の糖鎖を同定・定量し、疾患組織における糖鎖分布量や変化を解明することに用いられています。さらに、免疫組織化学や免疫蛍光法では、レクチンの細胞での活動をモニターすることができ、またレクチンの応用は、早期診断や標的治療への応用が期待されています。植物レクチンは利用価値の高い可能性を秘めているにも関わらず、その潜在能力はまだ十分に発揮されていません。理由の1つは、このような高い結合特異性を達成するための機構を完全に解明し、理解することができなかったからです。レクチン阻害アッセイや結晶化法はオリゴ糖や二糖の認識には役立ちますが、限られた糖鎖構造の特徴付けにしかなりません。レクチンがどのようにして複雑で生物学的に関連性の高い糖鎖エピトープに結合するのかをよりよく理解することで、レクチンの生物医学的応用の幅を広げることができます。アルバータ大学の糖鎖科学におけるCanada Excellence Research Chair(CERC)のララ・マハル博士によると、レクチンの糖鎖結合特異性と機構を理解することは、多くの理由から重要であると言っています。”レクチンを使って生物学を理解するためには、何が結合しているのかを理解することが前提となります。例えば、SNAがa-2,6シアル化に特異的に結合することを知ることで、膵臓がんの発生におけるこの変化を同定することができ、このエピトープを作り出す酵素(ST6GAL1)に結びつけることができます。特異性に関する深い知識がなければ、結合情報はその価値を失います。結合特異性がどのように働くかを理解すれば、将来的にはさらに特異的なレクチンを設計し、現在の結合剤ではカバーできない新しいエピトープに結合するようにチューニングできるかもしれません。 ”さらに科学研究にもたらす価値について、レクチンに対する結合特異性の理解が深まれば、糖鎖構造の表面的なアノテーションを超えることができるようになるでしょう。例えば、異なる末端結合(シアリル化、フコシル化など)を持つ糖鎖群が共通の基本モチーフ(例えばII型LacNAc)を共有する場合、この基本構造を失うとすべての結合に変化が生じる可能性があります。”と言っています。

糖鎖結合特異性を理解するには

糖鎖アレイ技術は、レクチンの特異性を研究する先駆的な方法の一つです。この方法は糖鎖を精製し、スライドガラス上に固定化します。次に、色素標識したレクチンをこの表面上でインキュベートし、レクチンが認識する糖鎖の部位に局在させます。インキュベーション後、蛍光シグナル強度を測定することにより、各糖鎖に結合したレクチンの量を定量化し、特定のレクチンが結合できる糖鎖を決定することができます。糖鎖アレイは、異なる糖鎖モチーフに対するレクチンの優先的結合の研究に役立ちます。GlycoSearchのような高度な糖鎖データ管理ソフトウェアを使えば、レクチンが複数のモチーフを認識するケースを例示することができます6。そして、このようなソフトウェアツールは、複数の糖鎖に対するレクチンの結合親和性を比較し、レクチンの優先順位に従ってモチーフをランク付けすることもできます。生物学的に関連性の高い糖鎖モチーフをできるだけ多く網羅する必要がありますが、機械学習ツールを糖鎖アレイ解析と組み合わせることで、知識の範囲を広げることができます。機械学習モデルは糖鎖配列を入力とし、レクチン結合モチーフを出力として学習させることが可能です。このようなアルゴリズムにより、レクチン結合の特異性や耐性・阻害条件を予測することができるようになります。

レクチンの特性

マハル博士らは、57のユニークな植物レクチンの結合パターンについて包括的な情報を提供しています7。マハル博士らの研究から、レクチンが認識する糖鎖配列だけでなく、糖鎖構造の化学的変化によって結合特異性がどのように影響されるのか理解できます。このことは、同じレクチンでも糖鎖の形が異なると結合親和性が異なる理由を説明するのに役立ちます。

マンノース結合型レクチン

高マンノース型のエピトープは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する中和抗体反応の重要な標的部位です8。Glc3-Man9GlcNAc2構造は、オリゴ糖転移酵素によってトリミングされ、Man7-Man9エピトープを形成します。修飾されたマンノース構造は、主にN-結合型糖鎖上で検出されますが、非標準的なO-結合型糖鎖上でも検出されることがあります。高マンノース型のエピトープに結合する特異的なレクチンは以下の通りです。

Galanthus Nivalis Lectin(GNA、GNL)

  • α-1,3 結合マンノースのエピトープに優先的に結合する。
  • 他のマンノース結合レクチンとは異なり、α-グリコシド結合からなるグルコースとは結合しない。
  • ヒト血清中のα2-マクログロブリンと結合する。
  • ウイルスの糖タンパク質と結合する。

Narcissus Pseudonarcissus Lectin(NPA、NPL)

  • α1,6結合マンノースに優先的に結合する。
  • グルコースとは結合しない。
  • ガラクトマンナン、マンノース骨格とガラクトース側基を含む多糖に結合する。

複合型N-結合型糖鎖に結合するレクチン

複合型N-結合型糖鎖、特にバイアンテナリーN-結合型糖鎖を主に認識するレクチンは以下の通りです。

Phaseolus Vulgaris-L(PHA-L)

  • β1,6分岐のN-糖鎖に特異的に結合する。
  • トリおよびテトラアンテナリー構造に結合する。
  • 特異性はα2-6結合シアリル化によって低下するが、α2-3結合シアリル化、コア型フコシル化、バイセクト糖鎖では低下しない。

Core O-結合型糖鎖に結合するレクチン

O-結合型糖鎖のエピトープは、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)のセリンまたはスレオニン残基がグリコシル化した結果として形成されます。これらのエピトープはTn抗原とも呼ばれており、上皮細胞で見られるムチンのコアタンパク質や糖タンパク質に多く含まれています。また乳がん、膵臓がん、前立腺がん、肺上皮のがん細胞で高発現していると報告されています9O-結合型糖鎖のエピトープに対して高い特異性を持つレクチンは以下の通りです。

Artocarpus Integrifolia(AIA、Jacalin)

  • 主にCore1構造およびCore3構造のO-結合型糖鎖と呼ばれる3置換GalNAcαエピトープと結合する。
  • GalNAc、GlcNAc、Galを含むオリゴ糖のα-またはβ-結合によって許容される。
  • 6位の置換によって阻害される。

フコース結合型レクチン

フコシル化は、複合型N-結合型およびハイブリッド型N-結合型糖鎖のアスパラギンに結合した、GlcNAc上でα-1,6結合を介した末端に修飾されます。特に、α-1,3結合およびα-1,4結合のフコシル化はがんの転移と関連しています10

Aleuria Aurantia Lectin(AAL)

  • 2型LacNAc上のFucα-1,2末端構造に優先的に結合する。
  • N-アセチルグルコサミンにフコース(α-1,6)が結合したもの、あるいはN-アセチルラクトサミンにフコース(α-1,3)が結合したものに優先的に結合する。

シアル酸および、硫酸結合型レクチン

シアル酸はα-2,3、α-2,6、α-2,8などのさまざまなグリコシド結合を介して、N-およびO-糖鎖を結合させます。また、硫酸は一般的にグリコサミノグリカンを結合させます。

Maackia Amurensis-II(MAL-II)

  • O-糖鎖上のシアル酸を認識する。
  • O-糖鎖のGalβ1-3GalNAcおよび、α-2,3シアリル化型を優先的に結合する。
  • GalNAcの6位置換を許容して結合する 。
  • 3‘O-硫酸化のGalエピトープが主な結合モチーフ。このモチーフ上のジスルフェーションとフコシル化は結合を阻害する。

末端GalとLacNAc結合型レクチン

末端GalとLacNAc残基は糖鎖機能において重要な役割を担っています。シアリル化やフコシル化などの糖鎖末端修飾はこれらの残基上で起こり、末端残基の誤った構造変化は疾患の重要なバイオマーカーになります。

Ertythrina Cristagalli Agglutinin(ECL、ECA)

  • 末端タイプⅡ型LacNAcを特異的に認識する。
  • シアル酸置換の結合を阻害する。
  • ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の分離に有用。

Wisteria Floribunda Agglutinin(WFA)

  • LacdiNAcを持ち、末端GalNAc構造を認識する。
  • 主な結合モチーフはβ-GalNAcで、β-GalNAc末端のスフィンゴ糖脂質構造を含む。
  • 1~2糖の末端α-GalNAcを認識する。
  • 近位残基の置換を許容する。

末端GlcNAcおよびキチン結合型レクチン

Wheat Germ Agglutinin(WGA)

  • GlcNAcを含むさまざまな糖鎖に、特異的に結合するレクチンとして広く研究されている。
  • 主な結合モチーフは末端GlcNAcβである。
  • 長鎖ポリLacNAcや多糖N-結合型糖鎖を優先的に結合する。
  • 他の結合残基にはGlcNAcα-、GalNAcα-、GalNAcβ-、MurNAcβ-が含まれる。

レクチンガイドのご案内

レクチンの歴史、レクチンアッセイの方法、原理などについては、以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)もあわせてご参照下さい。


VEC社 Lectin Application and Resource Guide

参考文献

  1. Lam, S.K and Ng, T.B., Appl. Microbiol. Biotechnol., 89(1), 45~55(2011). [PMID:20890754]
  2. Weis, W.I and Drickamer, K., et al., Annu. Rev. Biochem., 65, 441~473(1996). [PMID:8811186]
  3. Hester, G., et al., Nat. Struct. Biol., 2(6), 472~479(1995). [PMID:7664110]
  4. Kaushik, S., et al., Biophys. J., 96(1), 21~34(2009). [PMID:18849415]
  5. Mishra, A., et al., Food Chem. Toxicol., 134, 110827(2019). [PMID:31542433]
  6. Kletter, D., et al., Curr. Protoc. Chem. Biol., 5(2), 157~169(2013). [PMID:23839995]
  7. Bojar, D., et al., ACS Chem. Biol., 17(11), 2993~3012(2022). [PMID:35084820]
  8. Lavine, C.L., et al., J Virol., 86(4), 2153~2164(2012). [PMID:22156525]
  9. Kufe, D.W., et al., Nat. Rev. Cancer, 9(12), 874~885(2009). [PMID:19935676]
  10. Agrawal, P., et al., Cancer Cell, 31(6), 804~819(2017). [PMID:28609658]

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