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レクチンが糖鎖生物学に貢献する5つの理由

掲載日情報:2024/02/06 現在Webページ番号:71228

Vector Laboratories社のサイエンスブログ(SpeakEasy Science Blog)からレクチンに関するブログをご紹介します。

Vector Laboratories社のレクチンに関する他のブログについては、サイエンスブログ「レクチン」からご覧下さい。
Vector Laboratories社のレクチン製品は標識・非標識レクチンをご覧下さい。

by Hikmet Emre Kaya, Ph.D.


レクチン(lectins)

糖鎖と生体共役反応(Bioconjugation)は、多くの細胞内プロセスや相互作用に関係し、極めて重要な働きをします。そして、糖鎖ネットワークの変化は、がんから自己免疫疾患に至るまで、多くの疾患で中心的な役割を果たしています。しかし、こんなにも重要な役割を担っているのに、糖鎖異常を検出するバイオマーカーの数が少ないのはなぜでしょうか。さまざまな部位で、結合する単糖の組み合わせのすべてを考えると、細胞表面で形成される糖鎖構造の多様性に気づくと思います。糖鎖結合タンパク質すなわちレクチンが発見されるまでは、複雑な糖鎖構造の解析は困難でした。バイオマーカーの検出ツールの進化に伴い、レクチンの新たな利用方法が生まれつつあり、その扉を開けることはユニークな生物学的機能の恩恵を享受することにつながります。本ブログでは、糖鎖研究ツールとしてのレクチンの有用性を5つの理由をもとに解説します。
レクチンの語源は、「選択する」という意味の ラテン語の「legere」であり、明確な糖鎖構造を認識して結合する能力を指しています。

理由1:レクチンは組織染色、細胞染色に使用できる

グリコシル化の異常に関する生物学的関連情報を得るためには、細胞の糖鎖分布と形態への影響を可視化する必要があります。幸いなことに、レクチンは免疫組織化学染色(IHC)や免疫蛍光染色(IF)のような分子イメージングに使用可能で、どちらも簡単に実施でき、迅速な結果が得られます。IHCは、レクチンを酵素(exp:HRP)やハプテン(exp:ビオチン)に結合させ、適切な基質を用いることで光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することができます。IFは、レクチンを蛍光色素(exp:FITC)で標識させ、蛍光顕微鏡で糖鎖分布を観察することができ、単染色だけでなく多重染色もできるので複数の糖鎖を同時に検出できます。

理由2:最小限の試料で費用対効果の高い糖鎖プロファイリングができる

ハイスループットな分析法を用いない場合、複数の糖鎖配列の分析に時間がかかることが難点ですが、レクチンはマイクロチップのような非常に小さな固体表面の助けを借りて、時間を節約し、費用対効果の高い分析を実施することができます。試料の包括的な糖鎖プロファイリングを行うには、できるだけ多くの異なる糖鎖構造を検出する必要がありますが、抗糖鎖抗体は糖鎖に対する特異性が厳密で、条件検討に時間がかかります。しかし、レクチンは結合パターンが多様であり、1つのレクチンで複数の糖鎖に結合することができるので1、抗体よりも有効なツールとなると言えます。

理由3:糖鎖を解離させることなく検出できる

レクチンの利点の1つは、糖鎖を生体共役反応から解離させることなく分析できることです。ウエスタンブロッティングに基づくレクチンブロッティングは、糖タンパク質に結合したままの糖鎖構造を知ることができます。無傷の糖タンパク質や糖脂質をレクチンでプローブすることができ、複合体全体を解離させる必要がありません。このため、レクチンブロッティングはコントロール試料とテスト試料間のグリコシル化ネットワークを比較するための有望なツールになりえます。例えば、大腸がんのN-結合型糖鎖のシアリル化とフコシル化の変化を、がん患者と健常者の生体液試料を比較し、解析することができます2。遊離糖鎖を必要としない別の分析方法として、レクチンマイクロアレイがあります。レクチンマイクロアレイは、糖タンパク質や糖脂質内の疾患関連糖鎖異性体、シアル酸結合異常、および糖鎖の末端構造をすべて解析することができ、大腸がん3や胃がん4など、いくつかのがん種における予測バイオマーカーの発見に広く利用されています。

理由4:多様な糖鎖に基づいて生細胞を分類できる

特定の糖鎖構造と細胞特性の相関関係を理解するためには、生細胞を用いて細胞サイズ、増殖、分化について解析する必要があります。蛍光標識レクチンをフローサイトメトリー(FCM)に取り入れることで、ライブセルイメージングを行うことができ、異なる細胞タイプにおける糖鎖プロファイルの定量的解析を行えます。レクチンは、特定の細胞タイプが細胞集団全体に少ない場合でも、細胞亜集団の特長を明らかにするのに役立ちます。レクチンとFCMの組み合わせは、幹細胞研究において多くの突破口をもたらしました。FCMにレクチンを用いることで、レクチン結合プロファイルに基づいた、ヒト胚性幹細胞(hESC)とその分化した子孫細胞の特性解析、神経前駆細胞を特異的な細胞の種類ごとに分類することで、脳の発達における神経前駆細胞の役割を理解することが出来ました5

理由5:レクチンで糖タンパク質を効率的に分類できる

試料中にある特定の糖タンパク質異常を分析したいが、その特定の糖タンパク質の濃度が低い場合を想像してみて下さい。分析をあきらめてしまいそうになりますが、アフィニティークロマトグラフィーを使い、目的の糖タンパク質を濃縮することで解決できます。レクチンアフィニティークロマトグラフィーでは、レクチンをクロマトグラフィー表面やマトリックスに固定化することにより、レクチンの糖鎖特異性を利用することができます。固定化されたレクチンは対応する糖タンパク質と結合し、結合していない試料はカラム洗浄で洗い流されます。得られた溶出液は、質量分析およびプロテオミクスに適しており、タンパク質のグリコシル化メカニズムに関する、さらなる知見を得ることができます。また、レクチンアフィニティークロマトグラフィーを用いた研究として、膵臓がんの潜在的バイオマーカーであるコア型フコシル化ペプチドの濃縮があり、研究の一翼を担っています6

おわりに

レクチンのユニークで化学的かつ物理的特性は、細胞表面の糖鎖とその複雑な疾患への影響を研究する理想的な候補となる事でしょう。そして、一次糖鎖分析技術に組み込むことで、一貫性のある信頼性の高いデータを得ることができ、糖鎖分析を用いた研究が加速していきます。

レクチンガイドのご案内

レクチンの歴史、レクチンアッセイの方法、原理などについては、以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)もあわせてご参照下さい。


VEC社 Lectin Application and Resource Guide

参考文献

  1. Masarova, J., et al., Pol. J. Microbiol., 53, 23~27(2004). [PMID:15787193]
  2. Qiu, Y., et al., J. Proteome Res., 7(4), 1693~1703(2008). [PMID:18311904]
  3. Nakajima, K., et al., Cancer Med., 4(2), 293~302(2015). [PMID:25355679]
  4. Futsukaichi, T., et al., Surg. Today, 45(10), 1299~1306(2015). [PMID:25753302]
  5. Dodla, M.C., et al., PLOS ONE, 6(8), e23266(2011). [PMID:21850265]
  6. Tan, Z., et al., J. Proteome Res., 14(4), 1968~1978(2015). [PMID:25732060]

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(テクニカルサポート 試薬担当)

reagent@funakoshi.co.jp

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