知りたい!乳酸菌の慢性炎症抑制を介した糖・脂質代謝改善効果
株式会社明治 研究本部 乳酸菌研究所 利光 孝之 専任課長
掲載日情報:2023/03/15 現在Webページ番号:71109
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糖尿病やメタボリックシンドローム患者の増加は、国民の健康水準の悪化や医療費・介護負担の増大を招くことから、全世界で大きな問題となっている。そのため、これらの代謝性疾患を予防・改善するために、日常的に摂取する食品を活用することは重要な社会課題である。
経口摂取した乳酸菌は腸管内の免疫細胞に作用し、免疫関連疾患を改善することが報告されている。このような免疫調節活性は、代謝性疾患に対しても効果が期待される。本稿では、代謝性疾患の予防・改善を目的として選抜した新規の乳酸菌について、ヒト対象研究での有効性エビデンスおよび作用機序解明に向けた基盤的研究の成果を紹介する。
代謝性疾患の発症基盤とその予防・改善のためのアプローチ
代謝性疾患の根本的な原因は、加齢や肥満、不摂生な生活習慣によって生じる腸および内臓脂肪組織における慢性炎症であると考えられている1。慢性炎症により炎症性サイトカインが体内で多量に産生されると、脂肪組織や骨格筋および肝臓において、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが阻害され、インスリン抵抗性が生じる。その結果、糖や脂質の消費が低下し、余剰なインスリンの作用で脂肪の合成が促進されることにより、高血糖や脂質代謝異常、体脂肪蓄積に繋がる。体脂肪蓄積に伴う肥満の亢進は、慢性炎症およびインスリン抵抗性を加速させる悪循環を形成し、さらに高血糖を悪化させ、高脂血症を誘発することで脳梗塞や心血管疾患などを引き起こす。慢性炎症は様々な代謝性疾患の発症に繋がるメタボリックドミノ*の起点になると考えられている。
抗炎症性サイトカインであるInterleukin-10(IL-10)は、樹状細胞やマクロファージ、T細胞などの免疫細胞によって分泌され、内臓脂肪組織の慢性炎症を誘導する炎症性サイトカインの産生を阻害する。また、IL-10の阻害によって炎症が亢進し、糖・脂質代謝が悪化することも報告されている2。よって、IL-10の産生を誘導することで、腸および内臓脂肪組織における慢性炎症の悪循環を遮断し、インスリン感受性の高い正常な状態を維持できると考えられる。
* メタボリックドミノ:メタボリックシンドロームの進行に伴い、動脈硬化、腎臓病、脳卒中、心不全などの疾患がドミノ倒しに起こる状況。
MI-2乳酸菌の選抜と培養条件の最適化
我々は免疫細胞に対する高いIL-10産生誘導能を有するLactobacillus plantarum OLL2712(MI-2乳酸菌)を選抜した3。同乳酸菌は健康な日本人成人の腸管から分離された株であり、生菌体に比べて加熱処理菌体で顕著に高いIL-10誘導活性を示すことも確認されている。乳酸菌の免疫調節活性は、同じ株でも培養条件により大きく変化するため、産業応用に向けて高濃度培養した条件で機能性を確認することが重要である。乳酸菌の免疫調節活性を培養条件の最適化によって高めることで、より高い機能性を有する乳酸菌素材を提供できる。そこで、MI-2乳酸菌の培養条件(培養期、培地成分、中和pHおよび培養温度)とIL-10誘導活性および糖・脂質代謝改善機能の関係性を検討した。
その結果、定常期に比べて対数増殖期の加熱処理菌体はIL-10誘導活性が顕著に高く、内臓脂肪組織の炎症抑制作用や糖・脂質代謝の改善作用も高いことが示された。また、培養時の培地へのオレイン酸エステルの添加により、対数増殖期におけるIL-10誘導活性が更に高まることも示された4。従って、培養条件の工夫によりMI-2乳酸菌の機能性が高まること、高いIL-10誘導活性を示す条件で培養した加熱処理菌体は高い糖・脂質代謝改善機能を持つことが示唆された。
臨床研究での有効性エビデンスと推定作用機序
血糖値が高めの成人を対象に、MI-2乳酸菌を配合または非配合のヨーグルトを12週間摂取させる、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を実施した。その結果、MI-2乳酸菌群ではプラセボ群と比較して、過去1~2か月間の血糖コントロールの指標であるHbA1cが有意に低減した(図1)。また、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)、慢性炎症に関する指標(血中IL-6および高感度CRP)はプラセボ群では摂取前後で有意に悪化したが、MI-2乳酸菌群では変動しなかった5。

図1.血糖値が高めの成人におけるMI-2乳酸菌のHbA1c低減効果
Means±SE(プラセボ群n=64、MI-2乳酸菌群n=62)
**P<0.01 vs 0週、#P<0.05 vs プラセボ群
また、BMIが高めの成人を対象に、上述の試験と同様の試験デザイン、試験食品および摂取期間で試験を実施した。その結果、MI-2乳酸菌群では、プラセボ群と比較して腹部総脂肪面積、空腹時血糖値および血中IL-6が有意に低減した6。
以上の結果から、MI-2乳酸菌はインスリン抵抗性や慢性炎症を抑制することで血糖コントロールを正常化し、体脂肪の蓄積も抑制すると考えられる。MI-2乳酸菌の作用機序は、腸管免疫系のIL-10産生を誘導することで腸および内臓脂肪組織の慢性炎症を抑制することと推定される。その結果としてインスリン抵抗性を改善し、糖代謝および脂質代謝の悪化を防ぐと考えられる(図2)。

図2.MI-2乳酸菌の糖・脂質代謝改善効果の推定作用機序
おわりに
本研究では、乳酸菌の長期摂取により腸および内臓脂肪組織の慢性炎症を抑制することで、糖・脂質代謝を改善できることが示された。また、乳酸菌の機能開発においては培養条件の最適化が極めて重要であることも明らかになった。今後は、メタボリックドミノの下流に位置する様々な代謝性疾患の予防・改善に乳酸菌を活用できる可能性を検証し、腸管免疫系を介した作用機序の詳細を解明していきたい。

株式会社明治 研究本部 乳酸菌研究所の皆様
(右から2人目が利光専任課長)
参考文献
- Shoelson, S. E., et al., Gastroenterol., 132(6), 2169~2180 (2007). [PMID:17498510]
- Cintra, D. E., et al., J. Hepatol., 48(4), 628~637 (2008). [PMID:18267346]
- Toshimitsu, T., et al., J. Dairy Sci., 99(2), 933~946 (2016). [PMID:26686731]
- Toshimitsu, T., et al., et al., Appl. Environ. Microbiol., 83(7), e03001-16 (2017). [PMID:28087537]
- Toshimitsu, T., et al., Nutrients, 12(2), 374 (2020). [PMID:32023901]
- Toshimitsu, T., et al., Curr. Dev. Nutr., 5(2), nzab006 (2021). [PMID:33718754]
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