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糖鎖分析におけるレクチンの応用
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糖鎖分析におけるレクチンの応用
糖鎖分析におけるレクチンの応用
掲載日情報:2023/11/28 現在Webページ番号:71010
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Vector Laboratories社のサイエンスブログ(SpeakEasy Science Blog)からレクチンに関するブログをご紹介します。
※ Vector Laboratories社のレクチンに関する他のブログについては、サイエンスブログ「レクチン」からご覧下さい。
※ Vector Laboratories社のレクチン製品は標識・非標識レクチンをご覧下さい。
by Hikmet Emre Kaya, Ph.D.
グリコシル化などの翻訳後修飾は、多数の細胞機能において重要な役割を果たしています。グリコシル化の産物である糖鎖は、増殖から免疫応答に至るまで、重要な細胞機能を担っており、これらの機能は、糖鎖を高い特異性で認識するタンパク質ファミリーであるレクチンによって媒介されます。また、レクチンの糖鎖特異的な性質は生体内の複雑な糖鎖のプロファイリング、特性解析、捕捉に役立つ重要なツールでもあります。タンパク質の検出と同定には抗体を用いますが、糖鎖分析では、植物レクチンを用いるべきいくつかの利点があります。植物レクチンを用いることにより、糖鎖の発現パターンだけでなく、既知の糖鎖発現パターンに基づいて細胞の種類を同定することができます。また、広く入手可能であること、抽出が容易であること、安定であること、そしてもちろん糖鎖特異的であることが利点として挙げられます。
単糖類:糖の構成要素
JacalinおよびHematoxylinを用いた小腸の免疫組織化学染色像
糖鎖の構成要素である単糖を抜きにして糖鎖生物学を語ることはできません。レクチンの最も優れている点は、一般的に抗原検出のために抗体を使用するような、幅広いタンパク質同定ツールに組み込むことができる点ですが、糖鎖分析を始めたばかりであれば、レクチンを従来のアッセイに応用することに戸惑いを感じるかもしれません。ここでは糖鎖分析にレクチンを簡単に活用できる一般的なアプリケーション、免疫組織化学(IHC)、免疫蛍光法(IF)、フローサイトメトリー(FCM)について、順に説明します。
免疫組織化学におけるレクチン
免疫組織化学(IHC)は、細胞表面の糖タンパク質を特徴付け、糖鎖発現に基づいて細胞の種類を同定・分類し、挙動を予測するための最も有用なアプリケーションの1つです。細胞内の位置や動き、相対的な細胞内および細胞外の存在量、空間的な方向性など、表面糖鎖に関する洞察に満ちた情報を明らかにすることができます。また、差分染色により、糖鎖発現パターンに関する組織形態を明瞭に観察することができます。さらに、酵素ベースのアプローチのため、組織染色はより耐久性があり、数年間持続することもあります。
IHCにおけるレクチンの多くの特性は、腫瘍分化1や病原性感染症2などの病理学的プロセスにおける糖鎖変化の同定とモニタリングを可能にしました。レクチンを用いたIHCのワークフローは、通常の組織前処理と固定ステップから始まりますが、目的の抗原を検出するためには一次抗体を使用する代わりに、試料をビオチン化レクチンまたは未標識レクチンとインキュベートします。この時、抗体を用いたIHCと同様に、凝集や高いバックグラウンドを避けるため、使用するレクチンの量を最適化することが不可欠です。一次結合の後、糖鎖に結合したレクチンに特異的な二次試薬(ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ、標識抗体など)を結合させます。二次試薬は通常、発色生成物(Chromogen)を生成する反応を触媒する酵素と結合しているため、抗体を用いた通常のIHCと同様に、明視野顕微鏡でレクチンの発現を可視化することができます。より良いコントラストを作り出し、一次染色を際立たせるために、対比染色を行うことも可能です。
免疫蛍光法におけるレクチン
免疫蛍光法(IF)は、がん細胞コンパートメントにおける異常な糖鎖構造の分布や存在量などを明らかにできるという点で、IHCと類似性を持ちます3。しかし、IFでは発色剤を用いて発色させる代わりに、レクチンを蛍光色素に結合させます。蛍光分子(主に色素)は、短波長の光を吸収し、励起されると長波長の光を再放出する特徴があり、得られたレクチン結合体は蛍光顕微鏡で可視化することができます。IFには、単に空間的な情報を明らかにするだけではなく、蛍光標識が空間的に重なっていても、異なるターゲットを区別できるマルチプレックスという利点もあります。IHCでも多重化は可能ですが、IFの方が共発現/共局在化を観察しやすくなります。
レクチンを用いる場合は、一次抗体の代わりに、標的糖鎖に特異的に結合するレクチンと細胞をインキュベートします。IFでは、蛍光色素をどのように結合させるかによって2つの方法があります。1つは直接法で、糖鎖特異的レクチンそのものに蛍光色素が標識されています。もう1つは間接法で、レクチンを特異的に認識して結合する二次試薬に蛍光色素が標識されています(例えば、ストレプトアビジン蛍光色素)。間接法では、ビオチンとストレプトアビジンの非共有結合性相互作用によってシグナルが増幅されるため、ビオチン化レクチンの使用が好ましいです。さらに、ストレプトアビジン/ビオチンブロッキング技術を適用することで、内因性ビオチンによる潜在的なバックグラウンドの問題を排除することができます。
直接法と間接法のどちらにも長所と短所があります。直接法はステップ数が少なく、短時間で行えますが、レクチンの蛍光分子結合部位の数が限られているため、感度が低くなります。また、レクチンへの蛍光分子の結合は、NHSエステルなどのアミン反応性架橋剤で標的にできる内部リジン残基やN末端アミノ基の数が限られているために制限されます。一方、多段階の間接法は蛍光を増幅することができます。ビオチン化二次抗体と蛍光ストレプトアビジンを用いた二段階法は、さらに蛍光を増幅することができます(ビオチン化抗ストレプトアビジンと蛍光ストレプトアビジンの層を追加することで、より多くの蛍光色素を取り込み、S/N比を大幅に向上できる)。しかし、感度が向上する反面で直接法よりも操作時間がかかり、バックグラウンド染色のリスクも高くなります。
※ レクチンは標的外のタンパク質の反応部位に弱く結合することがあり、バックグラウンド染色の原因となります。これは、IHCとIFの両方に共通する重要な注意点です。従って、インキュベーション中にブロッキングバッファーを使用し、非特異的なレクチン結合を減らすことが重要です。抗体ベースのアッセイでは、正常血清やゼラチンなど様々なバッファーから適切なものを使用することができます。しかし、これらのバッファーには糖鎖が含まれている可能性があり、レクチンの特異的結合を競合的に阻害する可能性があります4。Carbo-Free Blocking solutionは、その名の通り糖鎖を含まないため、レクチンアッセイに適しています。
フローサイトメトリーにおけるレクチン
フローサイトメトリー(FCM)は、細胞を懸濁させた溶液にレーザービームを照射することにより、細胞の糖鎖構造を測定・分析することができます。FCMでは、空間的な情報は得られないものの、細胞集団の迅速な観察と分析が可能です。FCMは、蛍光標識レクチンを使用する点ではIFと類似していますが、得られる結果のタイプが異なります。IFが糖鎖構造の細胞内分布を示すのに対し、FCMは同じ糖鎖構造を定量化します。FCMでは、抗体の代わりに蛍光色素を結合させたレクチンが特定の糖鎖構造に結合し、異なる糖鎖構造を区別するのに役立つ特徴的な波長の光を放出します。例えば、FCMは、健常細胞と腫瘍関連細胞との糖鎖構造の違いを明らかにすることができるため、がんの糖鎖生物学にとって不可欠なツールとなっています5。
また、IFとは異なり、FCMははるかに大きいスケールの試料を扱うことができるため、短時間で数十万個の細胞をスキャンすることが可能です。そのため、FCMは、不均一な細胞集団が存在する状況で非常に有用です。蛍光シグナルの強度に従って細胞をグループ化することにより、糖鎖発現レベルで細胞を選別することができます。このような細胞選別は、特に希少な細胞集団を同定・分離したい場合に、さらなる解析を現実的なものにします。その一例が幹細胞工学の分野であり、研究者はレクチンを用いたFCMによって幹細胞系譜をグループ分けし、ヒト神経前駆細胞を単離することができます6。
レクチンガイドのご案内
レクチンの歴史、レクチンアッセイの方法、原理、様々なアプリケーションに対応したワークフローなどについては、以下のレクチンガイド(Lectin Application and Resource Guide)もあわせてご参照下さい。
参考文献
- Carter, T.M. and Brooks, S.A., Methods Mol. Med., 120, 201~216(2006). [PMID:16491603]
- Fiorentino, M.A., et al., Open Vet. J., 8(1), 57~63(2018). [PMID:29721433]
- Badr, H.A., et al., Data Brief, 5, 481~488(2015). [PMID:26629491]
- Akimoto, Y. and Kawakami, H., Methods Mol. Med., 1200, 153~163(2014). [PMID:25117233]
- Beatson, R., et al., Nat. Immunol., 17(11), 1273~1281(2016). [PMID:27595232]
- Dodla, M.C., et al., PLoS One, 6(8), e23266(2011). [PMID:21850265]
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