HOME > 試薬 > 細胞情報伝達 > その他シグナル伝達 > 胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)関連製品(BPS Booscience社)

呼吸器疾患の創薬研究にお役立て下さい! 胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)関連製品(BPS Booscience社)

掲載日情報:2024/08/15 現在Webページ番号:70913

胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP、Thymic Stromal Lymphopoietin)は、喘息(Asthma)や慢性閉塞性肺疾患(COPD、Chronic Obstructive Pulmonary Disease)などのアレルギー疾患の発症に関連するサイトカインです。ここでは、 これらの呼吸器疾患におけるTSLPの役割の概要およびTSLP研究用関連製品についてご案内します。

胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)イメージ

喘息およびCOPDについて

喘息(Asthma)と慢性閉塞性肺疾患(COPD)

喘息(Asthma)と慢性閉塞性肺疾患 (COPD) はどちらも気流閉塞と呼吸器症状を特徴とする慢性呼吸器疾患ですが、根本的なメカニズムと臨床症状は異なります。これらの疾患は、治療法はありますが多くの患者において症状の制御は依然として難しく、新たな治療法が必要となっています。TSLPは、喘息とCOPDの両方で気道の炎症とリモデリングの重要な調節因子として注目されており、有望な治療標的と考えられています。

喘息(Asthma)とは

喘息は、喘鳴、息切れ、胸の圧迫感、咳の繰り返しを特徴とする疾患で、夜間または早朝によく発生します。喘息は、主にアレルゲン、ウイルス感染、運動、汚染物質などのさまざまな要因に対する気道の炎症と過敏性によって引き起こされます。炎症は主に好酸球性であり、インターロイキン-4(Interleukin-4、IL-4)、インターロイキン-5(Interleukin-5、IL-5)およびインターロイキン-13(Interleukin-13、IL-13)などのサイトカインが放出されて免疫細胞の動員、粘液の過剰分泌、および気道平滑筋の収縮が調整されます。気道壁の肥厚、コラーゲンの沈着、平滑筋量の増加などの構造変化を特徴とする気道リモデリングは、時間の経過とともに起こる可能性があり、持続的な気流制限と症状の悪化につながります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは

COPDは、主にタバコの煙への曝露によって起こり、またバイオマス燃料への曝露や職業汚染物質などの他の環境要因も一因になることがあります。COPDは、完全には回復しない持続的で進行性の気流制限が特徴です。

COPDには、慢性的な咳と痰を特徴とする慢性気管支炎と、肺胞の破壊と気腔の拡大を特徴とする肺気腫の主に2つの表現型があります。COPDの病理学的特徴には、主に好中球とマクロファージによって引き起こされる慢性炎症があり、気道壁の肥厚、粘液の過剰分泌および肺の弾性収縮力の喪失につながります。さらに、COPDは全身性炎症や、心血管疾患、骨格筋機能障害、骨粗しょう症などの併存疾患とも関連しており、これらがCOPDの罹患率や死亡率の大きな要因になっています。

TSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)の生物学

TSLPとは

TSLPは、IL-7の相同遺伝子であるⅠ型サイトカインであり、同じ祖先遺伝子に由来すると考えられます1。TSLPは主に肺、皮膚、消化管の上皮細胞と間質細胞によって産生されます。TSLPの産生は、傷害、TLR2(Toll-Like Receptor 2)、TLR3(Toll-Like Receptor 3)、NOD2(Nucleotide-binding oligomerization domain 2)のリガンド、蠕虫、細菌およびウイルス感染、トリプシンやパパインなどのプロテアーゼ、炎症性サイトカインなど、さまざまな要因により誘発されます2。またTSLPは、炎症防御機構を増幅するアラーミン分子として効果的に機能します。


TSLPシグナル伝達経路について

TSLPは、TSLPR(Thymic Stromal Lymphopoietin Receptor)とIL-7Rα(Interleukin-7 receptor-α)で構成されるヘテロ二量体レセプターに結合し、JAK1とJAK2によって媒介されるリン酸化カスケードを開始します3。その後、STAT5AとSTAT5Bを伴って活性化され、最終的にTh2関連サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-9、IL-13の転写と産生が起こります。TSLPRは、T細胞、B細胞、ILC2(Innate Lymphoid Cells)、NKT(Natural killer T)細胞、単球/マクロファージ、好塩基球、DC(Dendritic Cells)などのさまざまな免疫細胞、および上皮細胞、平滑筋細胞、神経細胞などの非免疫細胞によって発現します。


ヘテロ二量体レセプターを介したTSLPシグナル伝達

図をクリックすると拡大します(🔍)

ヘテロ二量体レセプターを介したTSLPシグナル伝達(Ebina-Shibuya, R. and Leonard, W.J. (2022).1より改変、作図協力:BioRender.com.)


喘息およびCOPDにおけるTSLPの役割

TSLPは、アレルゲン、ウイルス、汚染物質などのさまざまな誘因に反応して上皮細胞から産生されます。TSLPは樹状細胞の活性化と分化を促進し、次にナイーブT細胞を炎症誘発性Th2細胞に分化させることで、Ⅱ型炎症のマスターレギュレーターとして機能します。IL-4、IL-5、IL-13などのTh2サイトカインは、喘息の特徴である好酸球性炎症、粘液過剰分泌、および気道過敏性を調整します。さらに、TSLPは細胞外マトリックスタンパク質の産生と線維芽細胞の活性化の促進により気道リモデリングに寄与します。したがって、TSLPシグナル伝達経路の標的化によって、喘息における炎症とリモデリングの両方を軽減できることが期待されます。

TSLPによる喘息におけるTh2炎症経路の促進

図をクリックすると拡大します(🔍)

TSLPによる喘息におけるTh2炎症経路の促進(Ebina-Shibuya, R. and Leonard, W.J. (2022).1より改変、作図協力:BioRender.com.)

COPDでは、タバコの煙への曝露や呼吸器感染症に反応してTSLPの発現が上昇します。TSLPは、好中球やマクロファージなどの自然免疫細胞を伴い活性化することにより慢性炎症に関与し、炎症誘発性メディエーターの産生につながります。さらに、TSLPは気道平滑筋の増殖とコラーゲンの沈着を引き起こし、COPDにおける気流制限と肺機能低下の一因となります。TSLP経路の標的化は、COPDにおける炎症とリモデリングに対処し、病気の進行を遅らせる可能性のある新しいアプローチとなります。

TSLPの喘息およびCOPD治療への応用

喘息およびCOPDの治療において、TSLPを標的化したいくつかの治療法が検討されています。TSLPまたはそのレセプターに対するモノクローナル抗体は、前臨床研究および初期段階の臨床試験で有効性を示し、肺機能、症状、および増悪率の改善が確認されています。TSLPシグナル伝達経路の低分子阻害物質も開発中で、長期の疾患管理のための経口療法として期待されます。TSLPなどの複数の炎症経路を標的とする併用療法との相乗効果により、重度の喘息およびCOPD表現型の症状を改善させる可能性があります。TSLPシグナル伝達経路の標的化は、呼吸器疾患治療法として有望であり、症状の緩和や肺機能の改善、疾患進行の遅延効果が期待されます。

参考文献

  1. Ebina-Shibuya, R. and Leonard, W.J., "Role of thymic stromal lymphopoietin in allergy and beyond", Nat. Rev. Immunol., 23(1), 24~37 (2022). [PMID:35650271]
  2. Takai, T., "TSLP expression: cellular sources, triggers, and regulatory mechanisms", Allergol. Int., 61(1), 3~17 (2012). [PMID:22270071]
  3. Ziegler, S. , "Thymic stromal lymphopoietin and allergic disease", J. Allergy Clin. Immunol., 130(4), 845~852 (2012). [PMID:22939755]


目次に戻る

TSLP研究用製品

BPS Bioscience社は、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)研究を支援するさまざまな製品を取りそろえています。商品コードをクリックすると各製品の価格表をご覧いただけます。

品種 品名 商品コード 製品概要
ルシフェラーゼレポータ細胞株 TSLP Responsive Luciferase Reporter Ba/F3 Cell Line

TSLP Responsive Luciferase Reporter Ba/F3 Cell Line(#82500)🔍
82500 TSLP応答性ルシフェラーゼレポーターBa/F3細胞株です。自己切断型P2Aペプチドを導入し、TSLP-RとIL-7Raを別々に発現します。TATAプロモーターの上流に位置するSTAT5応答エレメントによりホタルルシフェラーゼレポーターの発現が開始されます。
中和抗体スクリーニングキット TSLPR:TSLP [Biotinylated] Inhibitor Screening Chemiluminescence Assay Kit
TSLPR:TSLP [Biotinylated] Inhibitor Screening Chemiluminescence Assay Kit(#82507)🔍
82507 TSLPとTSLPRの結合を阻害する抗体(中和抗体)のスクリーニングとプロファイリングに有用なキットです。
組換え体タンパク質 TSLP, Avi-Tag, His-Tag Recombinant

TSLP, Avi-Tag, His-Tag Recombinant(#102168)🔍
102168 組換え体ヒトTSLPタンパク質(未標識)
  • 産生:HEK293細胞株
  • アミノ酸:aa 29~159(end)
  • タグ:C末端His-tag(6×His)+ Avi-Tag
TSLP, Avi-Tag, His-Tag, Biotin-Labeled Recombinant

TSLP, Avi-Tag, His-Tag, Biotin-Labeled Recombinant(#102169)🔍
102169 組換え体TSLPタンパク質(ビオチン標識)
  • 産生:HEK293細胞
  • アミノ酸:aa 29~159(end)
  • タグ:C末端His-tag(6×His)+ Avi-Tag
TSLPR, Fc Fusion Recombinant

TSLPR, Fc Fusion Recombinant(#102163)🔍
102163 組換え体TSLPRタンパク質(未標識)
  • 産生:HEK293細胞
  • アミノ酸:aa 25~231(end)
  • タグ:C末端Fc domain(IgG1
抗体 Anti-TSLP Neutralizing Antibody

Anti-TSLP Neutralizing Antibody(#102138)🔍
102138 体抗ヒトTSLP中和組換えモノクローナル抗体
  • クロナリティー:モノクローナル


目次に戻る

お問い合わせ先

(テクニカルサポート 試薬担当)

reagent@funakoshi.co.jp

製品情報は掲載時点のものですが、価格表内の価格については随時最新のものに更新されます。お問い合わせいただくタイミングにより製品情報・価格などは変更されている場合があります。
表示価格に、消費税等は含まれていません。一部価格が予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承下さい。