PROTAC（標的タンパク質分解誘導化合物）研究で汎用されているリンカー PROTACリンカー（BroadPharm社）

ヘテロ二官能性低分子のPROTAC（Proteolysis Targeting Chimera）は、標的タンパク質分解誘導化合物の1つであり、以下の3つの異なる要素で構成されています（図1）。

PROTACは、細胞内での廃棄物処理システムであるユビキチン-プロテアソームシステム（UPS、Ubiquitin-Proteasome System）を利用します。このメカニズムは、従来の阻害物質と比較してより低用量で効果的に機能するため、毒性の軽減や薬効時間の持続に有効です。

分子の物理化学的特性と生物活性において、リンカーが重要な役割を担うことが明らかにされています。すなわち、リンカーの長さにより、2つのリガンドの相互作用の強さが決まり、それに応じてPROTAC分子の最大活性が決定されます。Cyrus氏らは特定のPROTACにおける2つのリガンド間の最適距離はケースバイケースで決定する必要があるとする一方で、例えばエストロゲンレセプター（ERα）を標的とするPROTACにおいて最適なリンカー長は、16原子であることを突き止めました¹。

PROTACリンカーの設計において高頻度に使用されている一般的な化学構造がいくつかあります。これらの構造は、Maple氏らが400以上のタンパク質分解誘導物質の構造を集めて編集したデータベースによって注目されました²。PROTACリンカー構造に組み込まれる最も一般的な構造は、PEG、アルキル鎖、およびさまざまな長さの他のグリコール鎖です（表1）。

■ 参考文献

☞ VHLリクルートリガンドは、PROTACテクノロジーで最も広く使用されているE3リガンドの1つです。

☞ (S,R,S)-AHPC-PEGは、☞ von Hippel-Lindau（VHL）E3リガーゼリガンドと☞ PEGリンカーを組み込んだPROTACリンカー分子です（図2）。(S,R,S)-AHPC-PEGリンカーはPOIリガンドと結合させるために、カルボキシル、アミン、アジド、アルキン、Tos、TCO、DBCOなどのさまざまな官能基の製品を取りそろえています。PEGスペーサーは、水溶液中での試薬の溶解度を高めます。BroadPharm社では、PEGスペーサーの長さおよび官能基が異なる製品を幅広く取りそろえているため、これを用いた、並列合成によりリンカーの長さ、組成、およびE3リガーゼリガンドのバリエーション豊かなPROTACライブラリーを作製することができます。

Pomalidomideベースのセレブロン（CRBN、Cereblon）リガンドは、E3リガンドとして広く使用されています。☞ Pomalidomide-PEG5-Azideは、5ユニットのPEGリンカーと末端アジド基を有するCRBNリガンドです（図3）。このアジド基を有するPROTACリンカーを用いることで、アルキン、DBCO、BCN分子とのクリックケミストリーが可能になります。