時間栄養学 Chrono-Nutrition ~食べるタイミングを考える~
早稲田大学 理工学術院 田原 優 准教授
掲載日情報:2022/02/15 現在Webページ番号:70280
フナコシ /
フナコシ(株)
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これまでの栄養学に「いつ?」をプラス 時間栄養学とは?
突然ですが、「早寝、早起き、朝ごはん運動」をご存知でしょうか?
ヒトの体内時計は1日24時間よりも少し長く、24.1時間や24.5時間と言われています。少し長い体内時計を毎日24時間に調節してくれるのが、朝の光や食事です。では、どのような食事を食べれば体内時計の調節をより助けてくれるのでしょうか。また、夜食は太ると昔から言われるように、食のタイミングを考えることは健康維持や予防医学に繋がります。このような考え方が時間栄養学という新しい研究学問です。
これまでの栄養学は、
- 栄養的機能、必須栄養素など一次機能に関する研究
- 嗜好、美味しさ、味覚など二次機能に関する研究
- 栄養による生体調節機能、生理機能など三次機能に関する研究
がありました。時間栄養学はさらに「いつ?」という要素を考えたわけです。
2022年8月26~27日に、第9回日本時間栄養学会学術大会が九州大学にて開催されます。興味を持たれた方はぜひご参加下さい。
食・栄養が体内時計を調節するメカニズム
さて、朝ごはんに何を食べればよいかは、食・栄養が体内時計を調節するメカニズムを考えれば答えが見えてきます(下図参照)。

その前に、体内時計について少し説明を。
2017年、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのは時計遺伝子の発見とその分子メカニズムの解明でした。細胞内にある時計遺伝子は、フィードバックループを作ることで、24時間を1細胞レベルで刻みます。その分子時計はあらゆる生物種に保存され、またあらゆる臓器に存在しますが、特に脳内の視交叉上核(SCN)に中枢時計があり、肝臓などのその他の部位には末梢時計があります。
食事は肝臓の時計遺伝子発現の日内リズムを調節します。特に、食後に膵臓β細胞から分泌されるインスリンや、胃から分泌されるオキシントモジュリンは、時計遺伝子Period2(Per2)の発現上昇をもたらします。また、タンパク質や特定のアミノ酸は、IGF-1やグルカゴンを介して、肝臓のPer2発現を調節します。さらに、イヌリンなどの水溶性食物繊維は、腸内細菌により発酵され酪酸などの短鎖脂肪酸として腸管から吸収されます。この短鎖脂肪酸も肝臓の時計調節を担っています。魚油に含まれる ω3脂肪酸であるDHA / EPAは、インスリン機能を高めるインクレチン分泌を介して、末梢時計を調節します。そのため、朝ごはんは魚焼き定食やツナサンドが、体内時計調節としておすすめです。一方で、生体内では副腎皮質ホルモン(コルチゾール)や交感神経系の亢進(アドレナリン、ノルアドレナリン)も体内時計の重要な調節因子です。激しい運動やストレスは、これらの経路を使い、末梢の体内時計を調節しています。
発光イメージングで体内時計を可視化し 機能性食品成分を探索
私たちは、下図のような細胞・個体レベルの体内時計発光イメージングを用いて、体内時計を調節する食品成分の探索を行ってきました。時計遺伝子のプロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイ、または時計遺伝子の下流にルシフェラーゼ遺伝子をノックインしたPER2::LUCIFERASE knock-inマウスや、そのマウスから作出した胎児由来線維芽細胞を用い、それらを24時間以上に渡り発光計測することで、体内時計を可視化できます。この系を用いて、これまでにシークワーサー果皮に含まれるノビレチンというフラボノイドや、カフェインが体内時計調節能を持つことを明らかにしてきました。どちらの化合物も、時計遺伝子が描くコサインカーブの振幅(時計のメリハリ)を増大し、周期(1日の長さ)を伸ばし、さらに位相(時刻)を変化させる効果を示しました。
特に、夕方以降のカフェイン摂取は体内時計の遅れをもたらすことが、ヒトでもその後報告されています。(株)ジーピーシー研究所では、時計遺伝子Bmal1を指標にしたBmal1-Eluc線維芽細胞の販売、解析受託を行っています。もし、興味ある化合物がある場合は、それらを利用して体内時計への作用を試してみるといいかもしれません。

早稲田大学 柴田重信研究室の紹介
私の所属する研究室は、先進理工学部 電気・情報生命工学科の柴田重信教授の研究室です。私大の理工学部ということで、毎年6~8人ほど研究室に学生が配属され、その9割程が学部から修士に進学します。よって写真のような大所帯な研究室です。コロナ禍で大変な時期ですが、ゼミはオンラインで行い、研究室は基本的な感染対策と黙食などを徹底することで、なんとか通常に近いアクティビティを維持しています。
研究室では、マウスを約1,000ケージ飼育しており、体内時計の要である行動リズム計測も約300チャネルを同時計測できます。最近ではヒト介入試験も行っており、体組成計などもあります。例えば2021年は、朝のタンパク質摂取が高齢者の筋力維持に重要であることを、マウスモデルや高齢者を対象にした調査で明らかにしました(Aoyama, et al., Cell Rep., 2021)。
とにかく賑やかな研究室で、毎日学生と新しいデータを見ながら議論が尽きません。もし、時間栄養学や時間健康科学に興味がありましたら、いつでも私 田原までご連絡下さい。

早稲田大学 先進理工学部 柴田研究室の皆様
(最前列右から6番目が柴田先生、最後列右から3番目が田原先生)
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