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ATCC®初代細胞の培養方法についてご紹介します ATCC® Primary Cell Culture Guide

掲載日情報:2022/06/14 現在Webページ番号:70276

ATCC®ではヒトの各種組織由来の初代培養細胞を取り扱っています。専用の基礎培地(Basal Medium)、増殖因子などの培地添加物(Growth Kit)、その他細胞培養用試薬と併せて使用していただくことにより、生育能に優れた最高品質の初代培養細胞が得られます。生体内環境に近い初代培養細胞を用いることにより、信頼性の高い研究が行えます。





初代細胞の培養について

初代細胞の単離

末梢血細胞の単離・精製は、分画遠心法や磁気ビーズを用いた正の選択(ポジティブ・セレクション)によって簡単に行えます。一方、初代組織から純粋な細胞集団の単離は難しく、細胞集団から単一の細胞のみの懸濁液として選択的に抽出する方法に関する知識が不可欠です。下記の表は、初代細胞の培養系を確立するための基本的なステップを示したものです1

組織の準備 解剖 細胞の分散 インキュベーションと増殖 初代細胞の単離・精製
初代組織を処理し、脂質やネクローシス細胞を除去する ・機械的または酵素による分散
・酵素の種類:トリプシン、コラーゲンⅡ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、Dnase
・分散させた細胞を培養する
・培養開始から24時間後に培地を交換し、デブリや非接着細胞を除去する
下記の方法で精製する
・選択培地
・細胞の接着度合いを利用した細胞の選択的除去
・磁性ビーズ

参考文献
1. Freshney, R. I. Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 6th Ed. John Wiley & Sons, Hoboken, New Jersey, 2010.

増殖に必要なもの

初代細胞(末梢血由来を除く)は足場依存的な接着細胞で、in vitroにおいて適切に増殖するためには接着できる表面が必要です。たいてい、初代細胞はコーティングされていない平らなプラスチック容器で培養されますが、表面積を大幅に向上させるマイクロキャリアを使用することもあります。培養には、基礎培地に適切な増殖因子やサイトカインを添加した完全培地が必要です。初代培養を確立している間、宿主組織からのコンタミネーションを防ぐため、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンBなどの抗生物質を培地に添加することもあります。しかし、アンフォテリシンBなど一部の試薬は時間経過に伴い毒性を示すため、長時間の抗生物質の使用は控えるべきでしょう。

維持培養(Maintenance)

維持段階は、細胞が培養ディッシュの表面に接着した時点から始まります。接着は、培養開始から24時間後に起こります。凍結保存していた初代細胞の培養を始める場合、DMSOは初代細胞にとって有害であり、解凍後の生存率を低下させることがあるため、細胞が接着したらすぐに培地交換して下さい。細胞が任意のコンフルエンス(細胞占有率)に達し活発に増殖していれば継代のタイミングです。100%コンフルエントに達すると、分化が進み、継代後は増殖率が低下する可能性があるため、その前に継代を行って下さい。

コンフルエンス(Cellular confluence)

細胞のコンフルエンスとは、培養容器内に付着した細胞が培養表面を覆っている割合を指します。例えば、100%コンフルエントとは細胞で培養ディッシュ表面が約100%覆われている状態、50%は培養ディッシュ表面の約半分が覆われている状態を意味します。細胞の種類によって継代培養に最適なコンフルエンスが異なるため、初代細胞ではそれを見極めることが重要です。

細胞のコンフルエンス

細胞の継代(Subculture)

足場依存的な細胞は単層で増殖します。指数関数的な増殖を維持するためには、一定の頻度で細胞を継代培養する必要があります。ATCC® 細胞の推奨播種密度や培地交換スケジュールのような継代手順は、製品添付のproduct information sheetをご確認下さい。単層培養の継代操作では、低濃度のトリプシン/EDTAのようなタンパク質分解酵素を用いて接着タンパク質を消化する必要があります。細胞を剥離して単細胞の懸濁液を調製後、細胞数を計数します。適切な細胞密度に希釈してから新しい培養容器へ播種し、再度接着させ増殖させます。

細胞数の計測方法(Cell Counting)

細胞数や生存率は、一般的に血球計算盤とトリパンブルーやエリスロシンBなどを用いた色素排除法によって決定します。血球計算盤は厚めのスライドガラスで、両側に2つのカウンティング・チャンバー(測定領域)が備わっているものが一般的です。各カウンティング・チャンバーには、3×3 mmのグリッドが付いた9つの計算用の区画があります。チャンバーとカバースリップの間は、高さ0.1 mmの正確な空間が形成されており、9つの計数用の区画内は0.0001 mlの容量が保持されます。区画内にある細胞の数を顕微鏡下で数え、単位量当たりの細胞数を算定します。また、細胞数の算定には自動セルカウンターを使用することもできます。

細胞の凍結保存(Cryopreservation)

初代細胞へのダメージを最小限に抑えるよう、凍結と解凍は注意して行って下さい。ヒト細胞の凍結保存は、DMSOやグリセロールなどの抗凍結剤の利用が効果的です。多くの初代細胞は、80%完全増殖培地に10%FBSと10%DMSOを加えた混合液を用いて凍結保存することが可能です。凍結は、細胞内の氷晶の形成を最小限に抑えるため、-1℃/min の速度でゆっくりと温度を低下させていきます。凍結したら液体窒素気相中、または-130℃以下で保存します。

細胞の解凍(Recovery)

凍結保存された細胞の解凍は、37℃のウォーターバス中でバイアルを短時間(約1~2分間)振とうして速やかに行います。解凍した細胞は、凍結保存からの回復過程でダメージを受けやすいため、遠心分離は行わないようにして下さい。解凍した細胞をそのまま培養容器に播種し、24時間静置して接着させてから、培地交換して残存するDMSOを除去します。

初代細胞の単離や培養における課題

初代細胞の培養者が直面する最も大きなハードルとして、ドナーの組織供給問題、細胞の単離/精製の難しさ、品質保証や一貫性、コンタミネーションリスクによる細胞入手の難しさがあります。データの比較可能性も初代細胞を扱う上で深刻な問題であり、使用する試薬や研究者・研究室ごとに初代細胞の単離・培養方法などにばらつきが生じることなどが理由として挙げられます。下表は、初代細胞と細胞株の特性を比較したものです。


特長 初代細胞 細胞株
生存期間と細胞増殖 有限。細胞の倍加は少数に限られる 適切な処理をした場合は無限
一貫性 ドナーや実験手順の間で変動する 変動は少ない
遺伝的完全性 細胞が倍加する際もin vivoの組織遺伝子構造を維持する 細胞分裂時に遺伝的浮動(genetic drift)が起こる
生物学的関連性 in vivoにおける細胞の生理学的特徴をより厳密に模倣する 時間経過や細胞分裂に伴い関連性は変動する
使いやすさ(凍結解凍と使用) 最適化した培養条件や慎重な取り扱いが必要 培養条件は確立されており、確実なプロトコルが存在する
使用に必要な時間と労力 時間がかかり、細胞数は少ない 短時間で豊富な細胞が得られる


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操作方法概略

※下記は一例です。各細胞の 詳細なプロトコルは、製品添付のデータシート(Product information sheet)を必ずご確認下さい。
また、メーカーWebのATCC Primary Cell Culture Guideもご覧下さい。

完全増殖培地の準備

  1. 冷凍保存していた増殖キットを取り出し、キャップが固く閉っていることを確認します。
  2. 増殖キットのコンポーネントは、基礎培地へ添加する直前に溶解します。コンポーネントにL-グルタミンが含まれる場合、37℃のウォーターバスで温め、沈殿物があればよく振って完全に溶解してから基礎培地に加えて下さい。
  3. 冷蔵保存していた基礎培地(Basal Medium)を用意する。
  4. 70%エタノールをスプレーし、すべての増殖キットコンポーネントバイアルと基礎培地ボトルの外面を消毒します。
  5. 層流フードやバイオセーフティキャビネット内などで無菌作業を行います。キット付属のProduct information sheetに記載されている量の各増殖キットコンポーネントを滅菌済みピペットで基礎培地ボトルに添加し、完全増殖培地を作製します。
  6. 完全増殖培地のボトルキャップを固く閉め、均一な溶液になるよう優しく撹拌して下さい。泡が生じるのを防ぐため、強く振らないで下さい。ボトルにラベルを添付し、作成した日付を記入して下さい。
  7. 完全増殖培地は暗冷所(2~8℃)で保存できます(凍結はしないで下さい)。この条件で保存した場合、完全増殖培地は30日間(間葉系幹細胞用の培地は2週間)安定です。

細胞の解凍(起眠)

  1. Product information sheetの最後のページに記載されているロット情報を参照し、該当ロットの生細胞の総数を確認して下さい。
  2. 推奨の初期播種密度(2,500~5,000 cells/cm2など)になるよう、生細胞の総数から播種可能な培養器底面の面積を算出して下さい。
  3. 培養器を用意し、5 ml / 25 cm2の完全増殖培地を添加します。細胞を播種する30分前に、その培養器を37℃、5% CO2条件の加湿インキュベーター内に置き、あらかじめ培地の温度とpHの平衡化を行って下さい。
  4. 平衡化している間に、冷凍保管していた細胞バイアルを37℃ウォーターバスで静かに揺らしながら約1~2分で迅速に解凍して下さい。コンタミネーションを避けるため、Oリングとキャップは水にぬらさないようにして下さい。
  5. バイアル内の溶液が溶けたら速やかにウォーターバスから取り出し、バイアルを70%エタノール溶液に漬けるか、スプレーで噴霧して消毒します。以降のすべての作業は、厳密な無菌状態下で行って下さい。
  6. 適切な量の完全増殖培地を滅菌済みコニカルチューブへ添加します。
    添加量=(1 ml × 播種する培養器の数) - 1 ml
    滅菌ピペットを使ってバイアルから細胞をコニカルチューブへ移し、穏やかにピペッティングして細胞を懸濁して下さい。遠心は行わないで下さい。
  7. 1 mlの細胞懸濁液を、3. で平衡化していた培養器に添加して下さい。数回ピペッティングし、蓋をして均一に細胞が広がるように培養器をやさしく揺らして下さい。
  8. 細胞を播種した培養器を37℃ 5% CO2インキュベーターで24時間培養します。

維持培養(培地交換)

  1. 完全増殖培地を37℃ウォーターバスで10~30分ほど温めます(容量によって時間は異なります)。使用する培地の量が少ない場合(50 ml以下)は、必要量だけ滅菌コニカルチューブに小分けしたものを温めて下さい。完全増殖培地を繰り返し温めることは避けて下さい。
  2. 播種してから24時間培養した細胞をインキュベーターから取り出し、顕微鏡で細胞のコンフルエンス状況を確認し、占有率(%)で判断して下さい。
  3. 培養器底面の細胞(単層)を傷つけないよう、注意しながら培地を除去します。
  4. 温めた新鮮な完全増殖培地(5 ml / 25 cm2)を添加し、培養器をインキュベーターに戻します。
  5. 24~48時間後、顕微鏡下で細胞のコンフルエンス状況を確認して下さい。まだ継代できない場合は、ステップ3と4を繰り返します。約80%コンフルエントに達し、活発な増殖状態(多くの有糸分裂像が見られる)であれば、継代を行って下さい。
    100%コンフルエントに達した細胞は、継代後の生存率が低下したり、分化してしまう可能性があります。

細胞の継代

  1. 80%コンフルエントに達したら、細胞を継代します。
  2. Trypsin-EDTA(ATCC® No. PCS-999-003)とTrypsin Neutralizing Solution(ATCC® No. PCS-999-004)を室温まで温ます。完全増殖培地は37℃のウォーターバスで温めて下さい。
  3. 培養器底面の細胞(単層)を傷つけないよう、培養器から丁寧に培地を除去します。
  4. 細胞の単層を3~5 mlのD-PBS(ATCC® No. 30-2200)で洗浄し、残存した血清を除去して下さい。
  5. あらかじめ温めたtrypsin-EDTAを、1~2 ml / 25 cm2を培養器に添加します。
  6. 培養器をやさしく揺すり、trypsin-EDTA溶液が細胞の表面全体に行き渡るようにします。その後、単層から溶液を除去します。
  7. 顕微鏡で細胞を観察し、細胞が分散し丸くなった状態であることを確認します(3~5分程度)。培養器壁面の数か所を軽く叩いて、培養器底面から細胞をはがします。
  8. 多くの細胞がはがれたら、添加したtrypsin-EDTAと等量のTrypsin Neutralizing Solutionを添加します。優しくピペッティングまたは撹拌してtrypsin-EDTA溶液を完全に中和します。
  9. 細胞懸濁液を滅菌済み遠心チューブに移します。
  10. 3~5 mlのD-PBSを培養器に添加して、残存している細胞を回収します。
  11. 10.の回収溶液を9.のチューブに添加します。
  12. ステップ10と11を繰り返して、すべての細胞を回収して下さい。
  13. 細胞を150×g で3~5分遠心します。
  14. 細胞ペレットを残して中和溶液を除去し、あらかじめ温めた新鮮な完全増殖培地2~8 mlで再懸濁します。
  15. 細胞数を計測し、新しい培養器に推奨密度(2,500~5,000 cells/cm2など)で播種して下さい。
  16. 37℃、5% CO2インキュベーターで24~48時間培養します。掲載後の細胞は、上記「細胞の維持」に従って操作して下さい。

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