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文京学院大学 大学院 保健医療科学研究科 関貴行准教授

【研究室でインタビュー】
文京学院大学 大学院 保健医療科学研究科 関貴行准教授

掲載日情報:2020/11/16 現在Webページ番号:69913

研究テーマ、ご自身のエピソードについて語っていただきました!

胃腺癌の悪性所見に貢献する分子の免疫組織化学的探索

まずはご研究についてお伺いします

まずは先生の研究テーマについて教えて下さい

研究テーマは、広く表現すると「癌の細胞学的形質発現と生物学的動態の関係」です。博士号の学位研究として「胃癌」の研究に取り組んだことがきっかけで、今も継続しています。癌は同じ臓器の癌であっても若い人に発生しやすいタイプがあったり、悪性度の高いタイプがあったりと、生物現象として捉えた時にその性格は実に多様です。その根拠となっているのが、癌細胞それぞれが有する性質(形質)であるわけです。癌細胞は元々正常であった細胞に遺伝子変異が生じて発生しますから、程度の差はあれ元の正常細胞の形質を保っています。正常な形質が損われているほど、悪性度の高い病変が多いという傾向が報告されていますが、時には元の正常細胞とは全く異なる形質を示す癌細胞が生じる事もあり、癌細胞の形質発現には未知な部分が多く残されています。この形質発現が偶発的で無意味なものであるのか、または転移などの重要なイベントと関連があるのかを証明しようと試みています。
私の研究の主たる方法は、病理組織検体から染色標本を作製し、その観察から疾患や病態に特徴的な所見を得るというもので、いわゆる病理組織学的な検討ということです。現代における医学・生物学的研究において組織標本を作製する事は非常に基本的な研究手段で、時には古典的と捉えられる場合もあると思います。ですが私は、実験的に証明された細胞動態や分子メカニズムについて、患者さんから得られた組織病変において実際に細胞や分子が作用している「現場」を突き止める事に強い意義を感じています。実験手法や分析機器の進歩によって疾患の発生や悪性度に関与する分子や遺伝子(変異)が、過去に比べて非常に速いペースで数多く発見されるようになりましたが、一部の重要ながん療法についてはその適応判断に病理組織検査・診断が必要になっています(コンパニオン診断)。最終的に医療を患者さんに提供する段階においては、病理組織検体を用いて証明された結果は何よりも信頼できるものであると思っています。

免疫組織化学染色スライド

昔から病理学に興味をお持ちだったのですか?

元々病理学をやりたいということで大学院に進学しました。病理組織標本上で「社会を構成している細胞・組織を観察する」ということに、非常に興味があったんです。

「社会」というのは、「病態」とかそういった意味ですか?

私は、「細胞ひとつひとつって、人間ひとりひとりと同じようなもの」という感覚で見ているのです。つまり、正常な臓器や組織・器官も、細胞それぞれの個性があって、それが多様であって、いろんなメンバーが集合することでその臓器の機能が決定しますよね。組織というものが、細胞という構成メンバーのそれぞれのバランスとか役割によって成り立っている。病気・病変においても、同じことが言えるのかなって思うんです。そういった、「細胞が織りなす社会」を、目で、ありのまま見られることが興味深かったんです。

研究していて嬉しかったことを教えて下さい

胃癌の研究をするようになったのが博士課程からだったのですが、2年目で学会発表するために一般演題の登録をしたんです。ちょうど自分のテーマに合ったシンポジウムが開かれるということで、学会側からシンポジストに指名してもらって、シンポジウムの枠で発表させてもらえました。後にも先にもその1 回だけですけれど、それは非常に光栄なことだったなって思っています。会場におられた先生方は、若造が突然登壇してかなり不審に思われたでしょうが(笑)。

それは貴重なご経験でしたね!どちらの学会だったのですか?

消化器癌発生学会ですね。癌細胞が正常細胞と同じようなものを持っている/持っていないを性質分けすることにより、実際の胃癌などにおいて「こういった形質を持っているものが悪い」といったことが分かってくる。これにより潜在的な悪性度に基づいた症例の亜分類ができるだろうという発表をしました。

消化器癌発生学会

第16 回日本消化器癌発生学会総会にて
左: 河内洋先生(がん研究会有明病院臨床病理センター病理部長)
右上: 小林真季氏(東京医科歯科大学 人体病理学分野)
右下:関貴行先生

先生ご自身のことについてお伺いします

どんな学生でしたか?

学部生の頃は正直に言って不真面目で劣等生でした(笑)。中学、高校とバスケットボール部だったのですが、大学でも入部して、特に教養部のキャンパス(千葉県市川市)に居た頃は、暇があれば体育館に行って自主練したり、部活の仲間と集まったり、部活中心の生活でした。勉強不足で再試験もたくさん受けましたし、当時教えていただいていた先生方からしたら、私はどうしようもない学生だったと思います。大学院に進学してからは目標となる先輩方が多くおられた事もあって、自分で使える可能な限りすべての時間を研究に費やすようになりました。特に自身の研究に関連する文献をしつこく漁って、習慣的に知識を吸収することを徹底していました。

周りの先輩方はどのような方だったのですか?

修士課程までは、ほかの研究室との接点が無く、毎日ひとりで実験する日々を送っていました。そのときは本当にマイペースで、頑張ったり、頑張らなかったり…だったんです。博士課程になってから、検査技術学専攻を出られた先輩に色々お世話になり、その方の影響を受けました。その先輩は、それこそ土日もなく、朝から夜10 時くらいまで研究されている方でした。学生として限られた時間のなかで、そこに全力で取り組まれていました。先輩から特別、何か言われたり生活指導を受けたりといったことはありません。先輩の姿を見て、「自分はこのままだらだら3 年間を終えるわけにはいかないな」と思って、先輩のような生活を頑張ってやってみようと思ったんです。平日は実験をして、ひと段落したら、そのあとは何時までは絶対に論文を読んで、何時になるまで帰らない…とか。土日も基本的に大学に行って、仕事をするっていう生活でした。とにかくできる限りのことをしました。「博士号」という学位を取ったとき、その器のなかに何がどれだけ詰まっているかは、それまでの頑張った量で決まるだろう…と思ったんです。中身が伴わなければ、博士号という形だけじゃ、きっと何にもなり得ないだろうなって。それで頑張れたんです。
先輩やその周りの病理のドクターの先生方も、すごく研究も一生懸命やって、診断も一生懸命やって。で、お酒も飲んで(笑)。よく学び、よく遊ぶっていうことを、一緒にやってくれる方が周りに非常に多かったので、それに巻き込まれながら本当に「楽しく」大学院生活を送ることができました。

研究生活のなかで印象に残るエピソードを教えて下さい

博士課程の時に指導いただいた教授が人生の恩師であり、その先生とのエピソードが印象に残っています。先生に出会えたことで自分自身の内面を大きく成長させることができました。
先生は長年、病院の病理診断科で病理診断をされていて、病理組織標本上で得た所見・観察された現象について、すごく深く考える方でした。
胃癌の病変を何千例と観察する中で疑問に思ったことが研究テーマとなって、それを私が実験して証明するお手伝いをした形です。
ほんとうに厳しい方で、「曖昧なことは嫌い」「根拠のないことは嫌い」。よかれと思って報告したり使ったりした言葉について、「それどういう意味?曖昧なことを言うんじゃない」って色んなところで怒られました。
物事の考え方、特に病態における因果関係の考察については厳しくご指導いただきました。ある時、先生が体調を崩されて入院されたことがあったのですが、私は学会発表間近で、発表内容を病室に持ち込ませていただきチェックをしていただいたことがあったんです。私と、学部生と、病理の先輩の3 人で、パワーポイントで作製したスライドを紙に打ち出して、病室に持って行きました。最初のスライド1 枚目2 枚目あたりから、先生に「なんだこの言い方は!」と私の迂闊な考察表現について指摘され、病室でこっぴどく怒られました。3 人で病室を出てきて、エレベーターに乗って降りるまで全員無言でしたね。なんなら、もう半分泣いてましたけど(笑)。 「こうだったらいいな」「きっとこんな特殊な現象って、こういうことと繋がっているんじゃないかな」って先走った気持ちが、言葉として表現されていると、それって「分かっている人」からすると“いびつ”なんですよね。非常に“異常”であって。そこを指摘していただいたので、本当に勉強になりました。自分自身も、学生が使う言葉だったり、学生に使う言葉だったりは、そういうことが無いようにしたいと思って、かなり気を付けるようになりました。

先生同士のご交流について教えて下さい

私はこれまで、他の施設の方と大きな共同研究を行った事はありませんが、大学院生時代にお世話になった先生方や技師の方、また学会でお互いの発表を通して交流が生まれた技師の方などと情報交換を継続しています。例えば、免疫組織化学染色用の新しい一次抗体を購入する際、信頼できる技師さんにお勧めがないか相談するようにしています。私は仲良くなった方の職場を見学させていただくのが好きで、可能な範囲で研究室などにお邪魔させていただいています。大学で教育中心の仕事をしているとどうしても時代遅れになりがちなので、活躍されている方々の様子を伺いながら色々教えていただいたり、研究意欲を駆り立てるような刺激をもらったりしています!

学生・若手研究者へ伝えたいメッセージをどうぞ!

現在の日本は若い方が研究する環境として、研究先進国の水準からすると十分でない部分が多いのかもしれません。大学院修了後に就けるポストが無かったり、雇用条件が不安定であったり、研究を主とした仕事として考える事に強い不安を感じる人も多いと思います。しかし医学・医療の発展は研究なくしては成り立ちません。研究を主たる仕事にしない、できない場合であっても、常に未知に関心を持ち、それを探求する研究マインドが無ければ、どのような仕事であっても大きな成果を上げることはできないと思います。私自身も恩師から教わりましたが、「常に考え続ける事」を止めずにいてほしいと思います。

免疫組織化学染色スライドと関先生

本日はお忙しい中 ありがとうございました!

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