多発性骨髄腫におけるBCMAの標的化研究の最前線 BCMA：BAFF/APRIL間の相互作用（BPS Biosciences社）

多発性骨髄腫（Multiple myeloma）は、非ホジキンリンパ腫（non-Hodgkin lymphoma）についで2番目に多い血液のがんで、不死化した形質細胞が骨髄に蓄積し、激痛、貧血、腎不全を引き起こします。多発性骨髄腫は、これまでは致命的ながんであると考えられていました。診断方法と革新的な治療法によって患者の転帰は改善していますが、それでもほとんどの患者が最終的に再発し治療効果が低下するため、5年平均生存率は現在も約50％しかありません¹。

再発した多発性骨髄腫には、CD38またはSLAMF7を標的とするモノクローナル抗体（それぞれ、DaratumumabとElotuzumab）を用いる2つの免疫療法がFDAの認可を受けています。しかし、Daratumumabは血液パネル検査を妨害し²、赤血球上のCD38の喪失を誘発します³。また、SLAMF7は、ナチュラルキラー（NK）細胞、T細胞、B細胞にも存在するため、Elotuzumabは高レベルのSLAMF7を発現しているリンパ球の死を誘導します⁴。

BCMAは、膜貫通型レセプターであり、形質細胞で恒常発現しますが、悪性形質細胞では一貫して高レベルで発現します。正常組織におけるBCMAの発現は非常にわずかしかありません。BCMAは、形質細胞の分化中に選択的に誘導され、ナイーブおよびメモリーB細胞にはほとんど存在しません⁵。

BCMAは、B細胞系列細胞によって発現されるサイトカインであるBAFF（B細胞活性化因子、TALL-1、CD257、BLyS）に結合することで機能し、NF-κBおよびMAPK8/JNKシグナル伝達経路を活性化します。BAFFとBCMAを介したシグナル伝達は、形質細胞を刺激して増殖させ、長期にわたる体液性免疫と生存を維持します。BAFFは、恒常性と正常なB細胞の発達を維持に必要ですが、一方で悪性B細胞の生存も促進します。

BAFFには、BCMA以外に2つのレセプターがあります。一つは、BAFFレセプター（BAFF-R）で、これはナイーブB細胞の生存と成熟を引き起こします。別のものは、TACI（膜貫通活性化因子およびCAML相互作用因子）であり、こちらはB細胞の抗体応答、アイソタイプのスイッチ、および恒常性を調節します⁶。さらに厄介なことには、BCMAはB細胞の発達と自己免疫応答に関与する関連タンパク質であるAPRIL（A proliferation-inducing ligand、増殖誘導リガンド）に高い親和性で結合できます。BCMAとそのリガンドであるBAFFおよびAPRILの間の複雑な相互作用は、形質細胞の維持と生存の鍵となっていますが、BCMAは多くのがん、自己免疫、および感染症にも関連しており、BCMA活性の付随的な役割を示唆しています。