HOME > お知らせ > 知りたい!
より有効性の高い「ウェルバランス」の デングウイルスワクチンを目指して
KMバイオロジクス株式会社 CMC技術開発本部 阿部 元治 スペシャリスト

知りたい!
より有効性の高い「ウェルバランス」の デングウイルスワクチンを目指して
KMバイオロジクス株式会社 CMC技術開発本部 阿部 元治 スペシャリスト

掲載日情報:2025/10/27 現在Webページ番号:69392

より有効性の高い「ウェルバランス」のデングウイルスワクチンを目指して

デングウイルスには4つの血清型がある。デングウイルス感染症の重症化には抗体依存性感染増強(ADE)が関わっていると考えられていることから、デングウイルスワクチンには4つの血清型に対して同時にバランス良く免疫を付与すること(ウェルバランス)が求められる。
古典的な弱毒化手法により開発された弱毒生4価デングウイルスワクチンであるKD-382は、4つの血清型全てのウイルスコンポーネントを保持している。これにより、構造・非構造タンパク質を含めた全ての血清型ウイルスコンポーネントに対する免疫を自然感染と同様に付与できることが期待される。

デングウイルス感染症

デングウイルス感染症(デング感染症)は、世界三大感染症(エイズ、マラリア、結核)に次いで、世界中で発生している蚊媒介性の感染症である。
デング熱は比較的軽症であるが、重症化するとデング出血熱やデングショック症候群を引き起こし死に至ることもある。アジアが全世界の感染者数の約70%を占め、アメリカ大陸、東南アジア、西太平洋地域が最も深刻な影響を受けている。年間約4億人の感染があり、約1億人が発症していると推計されている。世界人口の約50%に相当する39億人が感染リスクに晒されているとの報告もある1
更に、WHO の報告では、2000年の世界での症例数が50万であったのに対して、2019年には520万と約10倍に増加したこと、2024年12月時点での感染者は1,400万人を超え、1万人以上が死亡していることが示されており、デング感染症の感染者数が著しく増加していることが示唆されている。
日本でも2014年に東京の代々木公園を中心にデング熱のアウトブレイクが発生しており、地球温暖化に伴うデング感染症の常在化が危惧されている2

デングウイルスワクチンの課題

デングウイルスワクチン(デングワクチン)に関しては、75年以上に渡って、様々なモダリティでの開発が行われてきた2が、デングワクチンならではの課題3がある(表1)。
この中でも 表1②の達成は特にハードルが高いとされている。抗体依存性感染増強(Antibody Dependent Enhancement, ADE)の機序を 図1に示した。
例えばDENV1に初感染した場合、DENV1に対する抗体が速やかに惹起され、DENV1を中和する。多くの場合で軽症となる。しかし、その後、初感染とは異なる血清型(例えばDENV2)に感染した場合、DENV1に対する抗体がDENV2に結合するが、中和することはできず、その抗体を介して免疫細胞に生きたDENV2を運んでしまう。DENV2は免疫細胞に効率的に感染・増殖し、重症化を引き起こす。
この為、 表1②に示した通り、デングワクチンには、より有効性の高いウェルバランスが求められるのである。

 デングワクチンの開発上の課題
ADE の機序

デングワクチンKD-382の戦略

弱毒生ワクチンを作る為には、患者等から得られた強毒ウイルスを弱毒化する必要がある。昨今ではキメラ化や欠損変異が弱毒化に用いられることが多い3が、我々が開発を進めている弱毒生4価デングワクチンであるKD-382は、古典的な手法である宿主域変異・低温馴化を用いていることが特徴である(図2)。
図2に示した通り、宿主域変異・低温馴化では、ウイルスの全てのコンポーネントを維持したまま弱毒化されていることが特徴である。これに対して、キメラ化では構造タンパク質の一部を異なるウイルスのものに置き換えている。また、RNAが非構造タンパク質をコードすることから、非構造タンパク質も異なるウイルスに置き換わる。欠損変異では、RNAの一部を欠損させることで、非構造タンパク質の発現を制限している。
宿主域変異・低温馴化であるKD-382では、構造・非構造タンパク質を含めた全てのウイルスコンポーネントに対する免疫が、ウイルスの自然感染と同様に付与されることが期待される。また、細胞性免疫も4つの血清型共に惹されることが期待される。

弱体化の手法

KD-382 の第Ⅰ相臨床試験結果

KD-382は、健康成人に対する第Ⅰ相臨床試験(Ph1)を完了している4。 図3に我々がターゲットとしている低用 量・単回接種の群の中和抗体価(50% Focus reduction neutralization test, FRNT50) および抗体陽転率(Seroconversion Rate, SCR)のデータを示す。同じオルソフラビウイルス属である日本脳炎ウイルスと同様に、中和抗体価が1(log10)以上を陽性5と判定した。

KD-382 のPh1( 低用量・単回接種) におけるFRNT50 とSCR(垂直バーは95% 信頼区間)

KD-382の接種は初回接種日(1日目、D1)に1回実施されている。4つの血清型の全てにおいて、D57のSCRは100%であった。また追跡調査終了時(12か月目、M12)のSCRは、4つの血清型の全てにおいて100%であった。安全性評価では、KD-382に関連したまたは関連を否定できない重篤な有害事象は認められなかった。以上の結果から、KD-382は、健康成人に対して安全で忍容性があることが示された。また、低用量かつ単回接種でも4つ全ての血清型に対して12か月以上持続可能な中和抗体応答を賦活する免疫原性を示した。

おわりに

KD-382 の開発は、より有効性の高いウェルバランスのデングワクチンを達成することに重点を置いている。ここでは割愛するが、PET(Peak Enhancement Titer)を用いた検討では、KD-382はADEのリスクが低いことが示唆されている6。 現在、第Ⅱ相臨床試験を実施中である。


参考文献

  1. WHO. Fact Sheets, 23 April 2024, Dengue and severe dengue(2024).
  2. 菅原敬信、阿部元治、他.Pharm Tech Japan, 41, 577~582(2025).
  3. 阿部元治、他.Pharm Tech Japan, 41, 755~768(2025).
  4. Abe, M., et. al, Vaccine, 60, 127313(2025).
  5. Abe, M., et. al, Vaccine, 21, 1989~1994(2003).
  6. Balingit J.C., Abe M., et. al., npj Vaccines, 10, 148 (2025).

製品情報は掲載時点のものですが、価格表内の価格については随時最新のものに更新されます。お問い合わせいただくタイミングにより製品情報・価格などは変更されている場合があります。
表示価格に、消費税等は含まれていません。一部価格が予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承下さい。