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大阪大学/理化学研究所 茂呂和世 教授

【研究室でインタビュー】
大阪大学/理化学研究所 茂呂和世 教授

掲載日情報:2022/07/01 現在Webページ番号:69355

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研究テーマ、ご自身のエピソードについて語っていただきました!

大阪大学 茂呂和世教授

大阪大学 大学院医学系研究科 生体防御学教室
理化学研究所生命医科学研究センター(IMS) 自然免疫システム研究チーム
茂呂 和世 教授
略 歴

  • 2003 年  日本大学 歯学部 歯学科 卒業
  • 2007 年  慶應義塾大学 医学研究科 博士課程単位取得
  • 2008 年  同大 医学研究科 特任研究助教
  • 2010 年  同大 博士(医学) 取得
  • 2011 年  科学技術振興機構 さきがけ研究員
  • 2012 年  理化学研究所 RCAI/IMS 免疫細胞システム研究グループ 上級研究員
  • 2013 年  横浜市立大学 生命医科学研究科
    客員准教授(~2016年)、教授(2016年~2019年)
  • 2012 年  理化学研究所 IMS 自然免疫システム研究チーム チームリーダー
  • 2016 年 大阪大学 大学院医学系研究科 生体防御学教室 教授
    大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫・アレルギー 教授
    大阪大学大学院生命機能研究科 教授

先生の研究テーマや展望についてお伺いします。

先生の研究テーマについて教えて下さい。

2010年に報告したILC2(group2 innate lymphoid cell、2型自然リンパ球)を中心とした病態解明やILC2自体の細胞生物学的な研究など、ILC2に関する研究全般です。その中でも、ILC2が様々な疾患においてどのように免疫応答をしているかに特に注目しています。気管支喘息やアトピー性皮膚炎、慢性副鼻腔炎などのアレルギーをはじめ、感染症においてはウイルス感染と寄生虫感染について、それ以外にも、特発性間質性肺炎や子宮内膜症、潰瘍性大腸炎など、様々な病気でILC2がどう関わっているか、原因細胞なのか憎悪機構に関わる細胞なのか、そういったところを見ています。

ILC2を発見して12年、様々なことが分かってきました。ILC2を見つけた当事者としては、今までの基礎的な解析から得られたものをヒトの疾患や治療法の開発に還元したいなと思っています。これまでマウスで見てきたことが本当にヒトでも起こるのか、起きているならそれを止めるためにはどうすればいいのかをこれからは見ていきたいと思っています。

茂呂先生

研究テーマに興味を持った理由はなんですか?

ILC2の研究は、「いったいなんだ、この細胞は」と、ある細胞に興味を持ったところから始まりました。ILC2が見つかるまでは、Th2細胞が抗原特異的に2型サイトカインを産生する細胞の定番だったのですが、ILC2は抗原非特異的に2型サイトカインを大量に産生する細胞だとわかりました。抗原刺激なしで細胞が活性化することは免疫の世界では非常に驚きで、「どうやってサイトカインを出すんだろう、出してどうするんだろう」と思い、ILC2の研究を進めていました。

アレルギー、感染、炎症…とたくさんの疾患にILC2が関わっているのですね。

そうなんです。それがILC2が多くの人の注目を集め、研究され始めた理由の1つだと思います。ILCってILC1、2、3と3種類あって、最初はそれぞれ同じ人数くらいの研究者が研究していたんですけど、最終的にILC1、ILC3をやっていた多くの人がILC2にターゲットを乗り換えたんです。さらに、ILCと対の関係となるヘルパーT細胞のTh1、2、17細胞、特にTh2細胞を対象として研究してきた人たちも、結構ILC2になだれ込んできたんです。その理由が、ILC2が多くの病気に関わっているからなんです。また、Th2細胞が抗原特異的に免疫疾患を起こすといわれていたのに対して、T細胞を欠損させても2型免疫疾患が起こる現象があり、それをILC2が起こしている、ということが色んな分野でわかってきたことによって、多くの人の注目を集めたと思っています。

ILC2を発見した当時のことを教えて下さい。

もともと私粘膜免疫の研究をしていて、当時は小腸を実験によく使っていました。小腸ってお腹から取り出す時、脂肪組織がくっついてきて、最初は邪魔だな~と思って捨てていたのですが、ある時突然、「この脂肪組織に何かあるんじゃないか」と思うようになって、解析してみたんです。するとT細胞でもB細胞でもNK細胞でもない「変な細胞」がいる!となって、そこからILC2の研究は始まりました。
よく、どうしてILC2は今まで見つからなかったのか、という質問を受けますが、答えは簡単で、「意外なところにいた」からなんですよね。免疫を研究している人は、リンパ球はリンパ組織にいるっていう考えがあるので、脾臓とかリンパ節を使うんです。でも、ILC2はリンパ節にはほとんどいないんですよ。いても少なすぎて見つけられないくらいに。ILC2は肺とか腸管とか脂肪組織、末梢組織に多いんです。私はたまたま脂肪組織を実験に使ったので、ILC2を発見できたんです。

でも、まだILC2とわかる前の、「変な細胞」を発見した当時の研究室のメンバーの反応は冷たいものでした(笑)他の学生は「T細胞の研究している」とか「●●の疾患の原因究明をしている」って研究内容を発表できるんですけど、私の場合は「脂肪組織にいるよくわからない変な細胞を研究しています」としか言えなかったので、「君は何を研究しているんだ」と3年くらい言われ続けていました。学会でもオーラル発表はできなくて、毎回ポスター発表でした。そこでも「誰も興味持ってないな~」と感じましたね(笑)
でも4年目になって、「変な細胞」がいるってことだけじゃなく、2型サイトカインを大量に出すことがわかり、論文に書いてまとめてみました。すると「これはすごく新しい何かじゃないか」と、教授が興味を持ち始めまして。そこからだんだん周りの反応も変わってきました。とてもよく覚えているのがポスター発表で初めて評価されたことですね。本当におひとりだけ、「これ、面白い研究だね」と言ってくださった先生がいらっしゃって。初めて人に評価されてとても嬉しかったので、今でも覚えています。

Natureに論文が通ってからは周りの雰囲気はもっと変わりました。ポスター発表には30人とか40人くらいの人だかりができて、教授と私とでさばいていました。「この研究は素晴らしいって思ってました」とか、あまりにも手のひら返したように変わったのでちょっと人間不信になったくらいです(笑)。たまに、Natureに通らなかったら未だに誰も興味を持たない細胞だったかもしれないなあ、なんて思っちゃいますね。

その「変な細胞」をどのように解析したのでしょうか?

今ならビッグデータ解析でちゃちゃっとできるんですけど、当時はまだ遺伝子の網羅的解析が始まったばかりで、出てきたデータから何をどうやって読み取るかっていうのは自分の努力でやらなきゃいけなかったんですよね。
実験には、ILC2とコントロールとしてあと2種類の細胞を使いました。それぞれ2万個ずつ、合計で6万もの遺伝子の発現の数値がばーーっとエクセルに並ぶんですけど、その中には全然使われていない遺伝子もあって、当時の私が知っている遺伝子なんてとても限られていたので、困っていました。そこで私は物事を関連付けて考えてみよう、と思ったんです。例えば、今日は「感染に関わる遺伝子」を見てみようとするなら、自分の中で知っている「感染に関わる遺伝子」をソートして、それらの数値が上がっているか下がっているかを見ていくんです。そうやって「今日は分化に関する遺伝子」「今日はアレルギーに関する遺伝子」・・・と調べていって、「今日は2型サイトカインについて調べてみよう」となった時についにきたんです。
数値が有意に高いものをエクセルで赤字になるように設定してたんですけど、全部真っ赤になって。「おお、これだ!」と思って、そのまま2型サイトカイン産生に関わる遺伝子、転写因子も調べたら全部赤字の結果が出て、この時に「2型サイトカインのパスウェイがこの細胞にとって重要に違いない」という確信を得ましたね。
このデータは私が「私は新しい2型サイトカイン産生細胞の研究をしています」と初めて自分の研究テーマを明確に言えるようになったデータなのでとても印象に残っています。

毎日が手探り状態の中、諦めずに解析を続けられた秘訣や理由は何だったのでしょうか?

よく自分でもあの時諦めなかったなと思います。でもこれは多分私の性格ですね(笑)。母親に昔の自分はどんな子供だったのか聞いた時、「昔は解けない謎に対してずっと「何で何で」って言う、しつこくてねちっこい子供だった」って言われまして。その時、実は自分の中にはそういう性格があったことに気づいたんです。なので、諦めずに見つけたというより、答えが分からないのが気持ち悪いから答えが見つかるまでやった、っていうだけなんですよね。やらされたとは思ってなくて、楽しかったんだと思います。



先生ご自身のことについてお伺いします。

大学時代は歯学部に在籍されていましたが、歯科医を目指されていたのでしょうか?

歯科医の家系だったんです。祖父も父もいとこもみんな歯科医なんですよ。一族で田舎の大きな歯科医院を経営していて。でも、歯科医になれって親から強制されたことはないです。私の父も実は歯学部出身だけど、研究者になって、大学に残って研究をしていた人なので、歯科医を継がなきゃとかそういう問題はなかったんです。でも、高校生で大学受験する時に夢なんて何も持ってなくて、何学部に行きたいかっていうのも全然なくて、家族はほとんど歯学部だし、なら歯学部でいいじゃないという感じで入りました。
その後、一生臨床医として生きていくなら4年くらい基礎研究をやっても良いかなと気軽な気持ちで基礎系の大学院に行くことにしました。歯学部出身だったので粘膜免疫が良いかなと思って、慶應の粘膜免疫の研究室に入りました。結局そのラボはやめてしまったのですが、そのあと小安先生のラボに移籍し、ILC2の研究を始めました。



一度ラボを離れてそのあと小安先生のラボに入られた理由はどうしてでしょうか?

最初のラボは約2年間いて、先生も大変よく面倒をみてくださったのですが、ある日突然「私はここじゃないな」と思ってやめてしまいました。そこの研究室は、先生が研究の方向性ややり方を教えてくれる研究室だったのですが、私は「研究は自分で考えて準備して、自分ですべてやっていかないとだめなのでは、なら私はここにいるべきじゃないな」と思ったんです。
でも辞めた後のことを考えておらず、一度実家に戻って、「大学院やめました」と親に伝えたんです。親には「これからどうするんだ」といわれて、私の中にはまだ研究がしたいという気持ちがあったので「研究をやりたいからもう一回違う大学院に入り直します」って言ったんですね。そうしたら「親に学費を払わせておいて、勝手にやめて、また大学院に入りたいとはなんたることか」みたいなことを言われてですね、そう思うのは当たり前だなと私も思ったので、「しばらく歯医者になってお金を貯めて自分で大学に行きます」って言いました。
そうして実家で過ごしていたある日に、辞めたラボの准教授の先生から実家に電話がかかってきまして。「あなたは研究を辞めてはいけない人です。研究を続けられる道を探しなさい」って言ってくださったんです。そこで私はどうしたらいいか聞いて、その准教授の先生は「小安先生に相談してみなさい」と。ここで小安先生のお名前が出てきたんです。当時の私は小安先生のことを知ってはいたものの、あまり話しかけたことはなく、話しにくさを感じていました。でもメールを送って直接会って相談させていただいた時、もう一目ぼれに近い形で、先生の科学や研究に対する姿勢に私が惚れこんでしまったんです(笑)
面接終わりに「小安先生のところで研究させてもらえませんか」って言ったんです。もちろん最初は断られましたよ。でも何度も何度も頼み込んで、最終的には「ベンチもデスクも用意できないけどそれでもいいなら来なさい」と言ってくださって、「それでもいいので小安先生の下で研究をやらせて下さい」と返事しました。結局はベンチもデスクも用意していただいて・・・小安先生の研究室で研究をやらせてもらえることになりました。
でも先生の元でやりたいと言った割に、すぐに研究テーマを決められませんでした。無理を言って入れてもらった経緯もあって、小安先生には迷惑かけられないと強く思っていたので、「マウス買って下さい」すら言えませんでした。なので技術員の方に頼んで、みんなが使わなくなったお年寄りのマウスを回してもらっていました。でもそれが実はILC2発見につながる大事なポイントで、お年寄りマウスのほうがILC2をたくさん持っているんです。もし若いマウスを使っていたら、ILC2は発見できなかったと思います。そんな感じで迷惑かけないようにと気を遣っていたので、ILC2を発見してからはすごい威張りました(笑)。

ご実家に電話をかけてきてくださった先生が茂呂先生の研究者としての素質を見抜いていた・・・という感じがします。

なぜあの時そう言ってくれたかはわかりませんが、でも私の心を確実に揺さぶったのはその先生の言葉でした。不思議と父親からも「お前は研究者としての素質がある」って言われたことがありまして。その理由が「問題を与えると予想しない解き方をする、人と考え方がちがうから」と言われました。
多分そういうのが社会生活だと「人と変わってる・個性的」って言われるんだと思うんですけど、私自身が自分がそうである、と気づいたのは大学院生の時で、可愛がっていた研究室の後輩に「茂呂さんって変わってますよね」って言われた時です。それまでも自分は「変わってるね」って言われてはいたんですけど「自分はまともで平均的な人間だ」と思っていたんです。でも可愛がっていた後輩に言われたものですから、ようやくそこで自分が変わってることを認識しました。准教授や父親は、そんな私の個性的なところを「研究者の素質」として見抜いたのかなと思っています。実際、研究者という職業は自分の性格に合う職業で、見つけられて本当によかったな~って思っています。

実験中

そんな先生にも、研究者になって大変だったことはありますか?

大変だと思ったことはほとんどないです。面倒で、うまくいかなくて、悩むというプロセス自体も好きなので。
研究の「想像し、計画し、実行し、解析し、考察する」という繰り返し作業がとても好きなんです。想像したら「これ分かってないじゃん」っていうのが出てきて、分かってないことをどうやったら科学的な証明・エビデンスをつけられるかって計画して。私は実験ノートを書くのも大好きで、ノートに細かく計画を立てていくんです。それを眺めて「ここにこういうコントロールを置いたらこの前から気になっていたことが分かるかも」みたいな感じで肉付けして、一人作戦会議を開くんです。それで実験室に行って、脳内で一度実験をシミュレーションしながら実験の準備します。そうしておくと本番は短い時間でたくさん実験できるようになるので。
実験が終わったら、私にとって至福の時間である、解析に移ります。学生によく見られる傾向ですが、解析作業をやっつけ仕事として義務のように行う人って意外に多いと思います。本当は1番楽しい作業だと思うのですが・・・
私は自分が調べようと思った以上の予想外の発見はないかとワクワクしながら解析しています。私は解析という作業を、 最後までこのデータをしゃぶりつくしてやろうという勢いでやってます。そうやって解析するうちにまた次に気になることができて、そこからまた楽しい想像が始まって…というようにずっとループするので、ずっとエキサイティングな状態でいられるんです(笑)。



先生の研究室について教えて下さい

ご自身の研究室はどのような研究室でしょうか?

私たちの研究室は、環境も、ラボメンバー同士の仲もよく、賑やかです。朝から晩まで研究しています。ちょっと研究に触れてみたい、くらいの気持ちだとかなり辛いラボになると思いますが、本気で研究に取り組みたいという想いをもち、自立して研究に取り組める人には最高の環境だと思います。
またイベントも多いです。今はコロナでできていないことも多いですが、お花見、花火大会、バーベキューなど色々やります。リトリート(教室旅行)の時なんかは異常なくらいの盛り上がり方をします。

豆まき

節分・豆まきを楽しむ皆さん

リトリートとても楽しそうですね!

ログハウスとか古民家をまるまる1戸借りてやるんですよ。大体一日の流れは決まっていて、お昼を食べて、そのあと夕方までみんなで集まってセミナーをするんです。そこで話し合うのは研究についてではなく、「自分の好きなところ」とか「自分の得意技」、「いいコミュニケーションとは何か」みたいな、研究テーマにはまったく関係のないことについて話し合います。先生、技術員、学生関係なく全員で発表します。
そうやってセミナーを通して、研究以外の部分でラボメンバーと自分の考えを共有することで、お互いをより理解することができますし、自分自身が気づいていなかった自分のことについても改めて知ることができ、社会で生活する上で必要な力を身につけられると私は思っています。
セミナーのあとはグループでわかれて夕飯で料理対決をします。グループごとに料理を作って最後に持ち寄ってみんなで食べて投票するんです。それで投票で負けたグループが洗い物を全部負担します(笑)。
そのあとは漫才対決です。もちろん私も前に言った料理対決含めてすべて参加します。これも先生、学生関係なく、です。事前に漫才の組み合わせが発表されているので、リトリート前になるとラボメンバーが漫才の練習をし始めるので、研究室のいろんな場所で「なんでやねーん!」って声が聞こえます(笑)

こういうイベントを通じてラボメンバーがたくさんコミュニケーションをとって、研究中にも支えあっていってほしいなと思っています。私自身が周りに助けられ支えられて、ここまでくることができたと思っているので、周りとのコミュニケーションの大切さを自分の学生には教えてあげたいなと思います。

研究室のみなさん

教授室にて モニターには理化学研究所のメンバーの方々も

最後に若手研究者や学生に一言お願いします!

ありきたりかもしれないけれど、とにかく研究をやるのであれば、「やらされる」のではなくて「自分からやって」下さい。やらなきゃいけないって思うのは、やらされてるんです。とにかくこんな楽しいことはないって自己暗示をかけてやって下さい。楽しくないと思ったら何も楽しくならないですが、どんな辛いことも、楽しいかもって思ってやれば絶対楽しいので、とにかくポジティブに取り組んで欲しいです。
あとは「自分に限界を設けない」ですかね。何か事を為せるか為せないかというのは意外に人が決めることじゃなくて、自分が為せるまで頑張ろうと思うか思わないかだと思うので、絶対に自分はやる気になればできるというスタンスでいろんなことに取り組んで欲しいですね。

本日はお忙しい中ありがとうございました!



茂呂 和世 教授の研究室ウェブサイト

https://morolab.jp/
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