HOME> お知らせ> 知りたい!消化管再生医療の最前線
東京医科歯科大学 消化器病態学 水谷 知裕 先生

知りたい!消化管再生医療の最前線
東京医科歯科大学 消化器病態学 水谷 知裕 先生

掲載日情報:2023/03/01 現在Webページ番号:67485

知りたい!消化管再生医療の最前線  東京医科歯科大学 消化器病態学 水谷 知裕 先生

腸管上皮幹細胞の革新的な培養技術であるオルガノイド培養法を基盤として、炎症性腸疾患に対する新規再生治療である、患者由来腸管上皮幹細胞を用いた粘膜再生治療に携わるとともに、未来の消化管再生医療を牽引するiPS細胞由来の腸組織作製技術の開発を行っています。
私は、消化器内科医として消化管という身近で複雑な臓器の仕組みとその破綻で起こる病気の原因解明に魅力を感じてきました。その秩序の根幹を成す「腸管上皮幹細胞」の研究を通じて、未来の消化管再生医療の開発を目指しています。

体内で絶え間なく入れ替わる腸上皮幹細胞

消化管は体腔内の器官でありながら、生体内最大の表面積で外界と接する臓器です。腸管上皮は、その管腔の表面を覆い、外界との物理的防御壁だけでなく、食物の消化・吸収、さらにはホルモン分泌や免疫応答といった数多くの重要な機能を果たしています。腸管上皮は突出する絨毛と陥凹構造の陰窩で構成されており、陰窩底部に存在する腸管上皮幹細胞が活発に増殖分裂しながら4~5 日で組織の更新を繰り返しています。活発に分裂する腸上皮幹細胞から生み出される前駆細胞は、更に分裂・増殖しながら絨毛方向へ移動して、特定の機能を有する腸管上皮細胞へと分化します。このように、腸管上皮組織は幹細胞、分化細胞およびこれらを取り巻く間質細胞の緻密な協調により維持されています。

腸上皮オルガノイドの樹立と移植治療の可能性

腸管上皮幹細胞の体外での培養、増殖は長らく不可能と考えられていましたが、2009 年に画期的なマウス小腸上皮幹細胞の三次元培養法が報告されました1。幹細胞を含む腸上皮陰窩を単離し、細胞外マトリックスゲル内に包埋し、上皮幹細胞の微小環境を模倣した培養因子を加えると腸上皮細胞が球状立体構造で組織を模倣することから「オルガノイド」と名付けられました。この腸管上皮オルガノイド培養の確立により、再生医療の基盤となる患者由来の体性上皮幹細胞を体外で増殖させる技術の道が拓けました2、3。これと並行して、我々の研究グループではマウス大腸オルガノイド生育技術を確立し、潰瘍性大腸炎モデルである DSS 腸炎によるマウス直腸の潰瘍部にオルガノイドを移植し生着させることに成功しました4。移植されたオルガノイドは被覆した潰瘍の再生を促進し、腸上皮幹細胞が移植のリソースとなることが明らかとなりました。

患者自身の幹細胞を増やすオルガノイド移植療法

潰瘍性大腸炎は、わが国に22 万人を超える患者がいる難病であり、患者数の急増に加え、既存治療に不応な難治例の増加への対応が課題となっています。本疾患の治療法は炎症制御を主眼としてきましたが、現行の免疫調節薬にも不応、もしくは再発する症例が少なからず存在すること、寛解(治癒)の維持には粘膜上皮の再生(粘膜治癒)が重要であることが明らかとなり、腸管上皮の損傷・機能的破綻に対する上皮再生治療が期待されるようになりました。我々は「腸管上皮幹細胞移植による粘膜治癒の可能性」を基盤として、「難治性潰瘍性大腸炎に対する自家腸上皮幹細胞移植」の開発を行っています。First-inHumanの達成には、臨床応用で要求される培養条件を確立する必要があるため、臨床グレードのⅠ型コラーゲンを細胞外基質として利用し、細胞の単離、培養で使用する全ての試薬、培養因子をGMPグレードに切り替え、安定した培養を可能としました。
こうして、潰瘍性大腸炎患者自身の大腸非炎症部位から採取した内視鏡生検組織から、病院内の細胞調製室内で腸上皮オルガノイドを樹立、安全かつ安定的に培養増殖し、患者本人の体内へと戻す自家移植法の手順が確立されました(図参照)。そして2022年 7月、我々は潰瘍性大腸炎患者由来の自家腸上皮オルガノイドを患者自身の慢性潰瘍病変に移植するFirst-in-Human 臨床研究を世界で初めて実施しました。現在、同技術を用いた2例目以降の移植を進めており、潰瘍性大腸炎に対する自家腸上皮オルガノイド移植の安全性及びその効果を明らかにしていきます。


画像内容説明

消化管そのものを再生する技術

上述の患者由来腸上皮オルガノイドには、腸組織そのものを再生する能力は期待できません。そこで、我々は現在ヒトiPS細胞から誘導する腸オルガノイドの開発5を通じて、機能を有する腸組織の体外での構築を目指しています。これにより、難治性炎症性腸疾患や小児先天性腸疾患において腸管切除に伴う短腸症候群に対する根治的な腸組織移植技術の発展を期待しています。


参考文献

  1. Sato, T., et al., Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche, Nature, 459, 262~265(2009).[PMID:19329995]
  2. Jung, P., et al., Isolation and in vitro expansion of human colonic stem cells, Nature Medicine, 17, 1225~1227(2011).[PMID:21892181]
  3. Sato, T., et al., Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett’s epithelium, Gastroenterology, 141, 1762~1772(2011).[PMID:21889923]
  4. Yui, S., et al., Functional engraftment of colon epithelium expanded in vitro from a single adult Lgr5 stem cell, Nature Medicine, 18,618~623(2012).[PMID:22406745]
  5. Takahashi, J., et al., Suspension culture in a rotating bioreactor for efficient generation of human intestinal organoids, Cell Reports Methods, 2, 100337(2022).[PMID:36452871]

フナコシニュース

「知りたい!消化管再生医療の最前線」はフナコシニュース2023年3月1日号p.3~4に掲載しています。

フナコシニュース2023年3月1日号
    【特集掲載品カテゴリー】
  • 自動化システム
  • 培養用デバイス・基材
  • 細胞外マトリックス
  • 培地・培地添加物
  • 細胞製品・細胞関連サービス

製品情報は掲載時点のものですが、価格表内の価格については随時最新のものに更新されます。お問い合わせいただくタイミングにより製品情報・価格などは変更されている場合があります。
表示価格に、消費税等は含まれていません。一部価格が予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承下さい。