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東京大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野 教授 水島 昇 先生

知りたい!新規に開発した オートファジーの測定方法
東京大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野 教授 水島 昇 先生

掲載日情報:2024/10/01 現在Webページ番号:66065

知りたい!新規に開発した オートファジーの測定方法 東京大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野 教授 水島 昇 先生

 オートファジーは細胞質成分をリソソームに輸送して分解する経路の総称である。通常は、オートファゴソームを経由するマクロオートファジーのことを指すことが多い(その他にもリソソーム膜が直接嵌入して細胞質成分を分解するミクロオートファジーなどもある)。オートファジーは飢餓などで特に活性化され、飢餓適応や、細胞内品質管理などの重要な生理的役割を有している。最近では疾患との関係も注目されている。しかし、オートファジーの活性測定方法は一般に複雑である。本稿ではこれまで用いられてきたオートファジーの測定方法を概説し、最近開発された新しい方法について紹介したい。

オートファジーの測定方法の概要

 オートファジー(本稿ではマクロオートファジーを指す)(図1)の活性を測るためには、古くはアイソトープ標識された細胞の全タンパク質のリソソームでの分解量を定量したり、電子顕微鏡でオートファジー関連構造体の数を定量したりする方法が用いられていた。その後、酵母の研究からオートファジー関連遺伝子が発見されたことにより1、より簡便な方法が開発されてきた。当初は、オートファゴソームに局在するATG8(ホモログが複数存在するが、歴史的に最初に発見されたLC3B が用いられることが多い)で標識される構造体の数や、オートファゴソームに局在するホスファチジルエタノールアミン結合型LC3(LC3-Ⅱ)の量がオートファジー活性の指標になると考えられた。しかし、それらはオートファジーの誘導だけではなく、オートファジーの後半の阻害(リソソーム抑制など)によっても増加することがわかり、それだけでは不十分とされた。また、オートファジー遺伝子の発現量など、必ずしもオートファジー活性を反映しない方法が誤って使用されているケースも散見された。やがてオートファジーの分解活性(オートファジーフラックス)を計測できる方法が開発されたが、それでもなお、それらは複雑で、実験結果もなかなか一定とならないことが多かった2。しかし、ようやく最近になって、より客観性、定量性に優れた方法が開発されるようになってきた。本稿では、これまでのオートファジー活性の評価方法を概説した後に、特にHaloTagを用いた最新の方法について詳細を述べたい。

オートファジー(マクロオートファジー)の模式図

これまでのオートファジーフラックス測定方法

 哺乳類細胞でもっとも頻繁に行われているのは、オートファゴソーム結合型ATG8(LC3-Ⅱなど)のリソソームでの分解をみる方法である。これはバフィロマイシンA1などのリソソーム阻害剤で処理した細胞と、しない細胞のLC3-Ⅱの量の差が、リソソームで分解されたLC3の量を表すという理屈である(p62などのオートファジーの選択的基質を用いる場合も同様である)(図2A)。内因性タンパク質の量を測定するので多くの実験で使用できる。しかし、この方法は行ってみると実はかなり難しい。ダイナミックレンジの範囲で実験を行うためには、リソソーム阻害剤の量を慎重に最適化する必要があり、しばしば簡単にLC3-Ⅱのシグナルが飽和してしまう。また、LC3やp62などは転写による量の変動も大きい。そうかといって、タンパク質合成を抑制する目的でシクロヘキシミドを用いることはできない。なぜなら、シクロヘキシミドによって翻訳が阻害されると、使用されなかったアミノ酸が細胞内に蓄積し、それがmTORの活性化を介してオートファジーを強力に抑制するからである3。筆者の研究室ではLC3-Ⅱの分解を検出するこの方法は現在ではほとんど用いていない。

従来のオートファジーフラックス測定方法

 リソソーム阻害剤を用いない方法として、筆者らは数年前にGFP-LC3-RFP-LC3ΔG法(LC3ΔGの部分はなくてもよい)を開発した(図2B)4。このレポーターは、合成直後にGFP-LC3とRFP(-LC3ΔG)に切断され、GFP-LC3はオートファジーでリソソームに運ばれて消光・分解されるのに対して、RFP(-LC3ΔG)はサイトゾルにとどまり内部標準として機能する(LC3のC末端のグリシンがオートファゴソーム膜との結合に必要なため)。そのため、GFPとRFPの比率をプレートリーダーやフローサイトメトリーによって算出すれば、それがオートファジーによる分解活性を反映することになる。これは客観性やスループットに優れているが、分解率をみる方法なので感度や時間解像度は悪い。
 一方、蛍光顕微鏡を用いた方法も開発されている。よく用いられているのは、RFP-GFP-LC3のように、GFP系とRFP系をタンデムにLC3につないだレポーター5やその改良系である(図2C)。これは、クラゲ由来のGFP系はリソソームに運ばれると直ちに消光するが、サンゴ由来のRFP系は消光しないという性質を用いたものである。オートファゴソームはGFPとRFPの両方のシグナルを発し、リソソームに運ばれるとRFPのみとなる。したがって、この方法は個々の構造体の成熟過程を追跡することができる。さらに、細胞全体の蛍光を測定することでもオートファジー活性を評価することができる。しかし、このレポーターの場合、RFPがリソソームに積極的に輸送されるので、RFPが恒常的にリソソームに蓄積してしまい、その分がバックグラウンドとなってしまう欠点がある。テトラサイクリン誘導系などの俊敏な方法を用いて、バックグランドを下げることが望ましい。また、Keima のように、リソソームに輸送されると蛍光特性が変化するタンパク質タグを利用することもできる6

HaloTagを用いた新規オートファジーフラックス測定方法

 哺乳類細胞でのオートファジー活性測定が困難である一方で、酵母細胞のオートファジーは比較的簡便に測定することができる。現在よく用いられているのは、GFPAtg8の切断をみる方法である。GFP-Atg8はオートファゴソーム膜のホスファチジルエタノールアミンと共有結合するので、オートファゴソームの内膜とともにオートファジー依存的に液胞内へ輸送される。液胞内でAtg8は速やかに分解されるが、GFPは比較的安定なために液胞内でもそのまま存在する(蛍光も保たれる)。このGFP断片の量がオートファジー活性を示す(図3A)。酵母は定常状態のオートファジー活性が低く、また細胞分裂も早いため、普段はGFP断片は検出されない。GFP-Atg8は選択的にオートファゴソームに取り込まれるのに対して、GFPとサイトゾルタンパク質(Pgk1など)を融合したレポーターを用いれば、非選択的なオートファジー活性を評価することができる。反対に、GFPをミトコンドリアなどの選択的積み荷に融合しておけば、個々の選択的オートファジーを評価することができる。
 このプロセシングアッセイは優れているものの、残念ながら哺乳類細胞でそのまま用いることはできない。なぜなら、多くの哺乳類細胞のリソソームの分解活性は酵母の液胞よりも高く、GFPがリソソーム内で分解されてしまい、断片として検出されないからである。GFPをより安定であるRFPに変えたRFP-LC3などを用いると、今度は恒常的オートファジーによるRFP断片が常にリソソームに蓄積してしまい、オートファジー誘導後の変化が検出しにくくなる。しかし、プロセシングアッセイは有用であるため、哺乳類細胞でも行える同等の方法の開発が望まれていた。
 近年、筆者らのグループは、一般の実験でよく利用されているHaloTagが哺乳類細胞でのプロセシングアッセイに有用であることを見出した7。HaloTagは約33 kDaのタンパク質で、蛍光リガンドなどのさまざまなリガンドと共有結合するため、汎用性の高いタグとして広く利用されている。このHaloTagはGFPと同様にリソソームに運ばれると分解される。しかし、ひとたび蛍光色素TMRなどと連結したHaloTagリガンドと結合すると、リソソーム内でも安定に存在できるようになる(図3B)7。これは、リガンドと結合したHaloTagのコンフォーメーションが変化し、リソソーム酵素に対してより安定な構造になったためと考えられる。したがって、HaloTagと結合させたATG8(HaloTag-LC3など)やサイトゾルの可溶性タンパク質(HaloTag-GFPなど)のリソソームへの輸送をプロセシングアッセイによってモニターすることができる(図3C)7。HaloTag-LC3の方がオートファゴソームに選択的に取り込まれるため、HaloTag断片の変化が大きく見やすいが、これはあくまでもLC3の選択的分解を測定していることになる。非選択的オートファジーの活性を測定する場合は、HaloTag-GFPなどのような非選択的レポーターの方が望ましいと考えられる。また酵母と同様に、HaloTagをミトコンドリアや小胞体などの特定の 標的に結合させれば、それらの選択的オートファジーを評価することができる7
 この方法は、哺乳類の従来法と比較していくつもの優れた点がある。第一に、酵母のプロセシングアッセイと同様に、定量性、ダイナミックレンジ、客観性に優れている。第二に、リガンドと結合していないHaloTagはリソソームで速やかに分解されるので、リガンド添加前のバックグランドがほとんどないことである。つまりRFPなどを用いたときに問題となる恒常的な蓄積を気にすることなく、リガンド添加時からの「パルス・チェイス実験」が可能となる。第三に、分解産物の増加率をみるため、積み荷などの分解による減少率をみるよりも感度がよい。100 → 95 → 90 と量が減少していくよりも、0 → 5 → 10 と量が増加していく方が「変化率」としては大きいからである。第四に、HaloTag-GFPのような非選択的レポーターを用いれば、ATG8に依存しないオートファジーを評価することができる。これはミクロオートファジーを含めて、サイトゾルのリソソーム分解を総合的に測定していることになる。また、今ではATG遺伝子の一部(コンジュゲーション系に関わるATG5、ATG7、ATG16L1など)はマクロオートファジーに重要であるものの完全に必須ではないことも知られているが、このような細胞のオートファジー活性を測ることもできる。第五に、蛍光リガンドを用いれば、イムノブロットの必要がなく、SDS-PAGEで分離したゲルをそのままイメージスキャナーで検出することができる。そのためイムノブロット法と比べて、実験時間を大いに短縮できる。

HaloTag を用いたプロセシングアッセイ

オートファジーの測定方法の概要

 新規に開発したHaloTagプロセシングアッセイを中心にオートファジーの活性評価法について概説したが、まだ問題点は多い。HaloTagプロセシングアッセイは外来性遺伝子の発現が必要であるため、遺伝子導入が許されないヒトや、それが簡単ではない実験系には用いることができない。そのためには、やはり内在性のレポーターやマーカーが必要となる。ヒトでの応用を考えれば、血液や尿などで解析できるバイオマーカーの発見が望まれる。また、最近ではマクロオートファジーに加えて、ミクロオートファジーの重要性も認識されるようになってきた。しかし、ミクロオートファジーを特異的に評価する方法はまだほとんどない。ATG8をベースとした方法はマクロオートファジー特異的と思われることが多いが、実際にはATG8がミクロオートファジーやエクソソーム経路などに関与することも知られている8。今後、多様なタイプ、多様な生物種でのオートファジー活性の測定技術が進歩することを期待したい。

参考文献

  1. Yamamoto, H. et al., Nat. Rev. Genet., 24, 382~400(2023).
  2. Mizushima, N. and Murphy, L. O., Trends Biochem. Sci., 45, 1080~1093(2020).
  3. Watanabe-Asano, T. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 445, 334~339(2014).
  4. Kaizuka, T. et al., Mol. Cell, 64, 835~849(2016).
  5. Kimura, S. et al., Autophagy, 3, 452~460(2007).
  6. Katayama, H. et al., Chem. Biol., 18, 1042~1052(2011).
  7. Yim, W. W. et al., eLife, 11, e78923(2022).
  8. Leidal, A. M. et al., Nat. Cell Biol., 22, 187~199(2020).

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