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【研究室でインタビュー】金沢大学 がん進展制御研究所 本宮 綱記 助教

掲載日情報:2024/05/13 現在Webページ番号:65982

「海外研究留学編」として、特に留学に関してのエピソードについて語っていただきました!


【研究室でインタビュー】金沢大学 がん進展制御研究所 本宮 綱記 助教

金沢大学 がん進展制御研究所
本宮 綱記 助教

略歴

  • 2011年12月 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士過程 修了[博士(医学)]
  • 2012年1月  筑波大学大学院 医学医療系 助教
  • 2015年10月  ドイツがん研究センター 客員研究員(筑波大学助教として)
  • 2018年4月  ドイツがん研究センター 博士研究員
  • 2022年3月  金沢大学がん進展制御研究所 特任助教
  • 2023年7月  金沢大学がん進展制御研究所 助教

研究テーマ:がん細胞転移における転移ニッチの分子機構

二次組織に転移したがん細胞は、「転移ニッチ」と呼ばれる特殊な周囲微小環境と相互作用することにより、転移先での定着・生存を果たし、転移巣を形成します。このプロセスは、最終的に転移という現象が完遂するか否かを決める重要なステップですが、その分子実体の多くは未だ不透明です。
私は、転移部位におけるがん細胞と転移ニッチの相互作用機構を解明し、転移を抑制するための新たなアプローチ方法の開発を目指して研究しています。

留学先

German Cancer Research Center, Group of Metastatic Niches(ドイツ、ハイデルベルク)

留学期間

6年半

ドイツ国旗とハイデルベルクの位置

研究テーマについて教えて下さい。

がん患者さんを救いたいというのが一番のモチベーションで、基本的にがんの転移にフォーカスして研究しています。今、原発巣の治療はだいぶ進んでいますので、実はそれで死亡するケースっていうのは本当に少ないです。一番の死因は全身、他の臓器に転移してしまって、そこでのがんの増殖がコントロールできず、全身的に弱ってしまって亡くなるというパターンが非常に多いんです。
転移にもいろいろあって細分化されているんですが、僕は特に、がん細胞が原発巣から二次組織に転移した後にどうなるかということを研究しています。転移が起こった後にそれをどう阻害するか、コントロールしてやるのかというのが、僕が注目しているところです。大学院の時は原発巣の血管新生を研究していたのですが、どうやってがんを治せばいいのかなっていうのを考えたときに、やはり転移に注目すべきだという結論に達して、転移の方にシフトしていったという感じですね。

それで留学先も、将来この分野・内容で研究がしたい、ということを先に決めてから、その方向性に合う海外研究室をリストアップして片っ端からメールを書きました。

留学を決めるまでのいきさつについて教えて下さい。

もともと留学したいと考えていたのでしょうか?

大学院時代の先輩方が海外留学をして活躍する姿を間近で見ていて、卒業後は海外で研究したいと強く思っていました。また、海外に住んで仕事をすること自体に対して単純な憧れも持っていました。大学院を卒業後、論文をまとめるためにすぐに留学を開始することはできませんでしたが、卒業して約4年後に留学しました。

留学先はどのように選びましたか?

最初からドイツを考えていたわけではなく、たまたま決まったのがドイツの研究室でした。10ちょっとアプライしましたが、その先の面談に進もうっていう話になったのが2つしかなかったですね。実際に決まるまでには1年半ほどかかりました。

最終的な決め手としては僕が元々やりたいと思っていた研究に、留学先のボスがかなり興味を持ってくれて、ここだったら自分のやりたい方向性ができるだろうと思ったからです。でもそれって結構珍しいパターンで、ポスドクで行く場合はボスがもうプロジェクトを用意していたり、そのラボの研究に飛び込んでやっていく、与えられたものを頑張るというパターンは結構あると思うんですけれども、やりたいと言ったことをちゃんとやらせてもらえたのは、ラッキーだったと思います。

あとは偶然にも出身研究室の先輩が現地にいたので、かなり助けていただきました。その先輩がいたことも、留学先決定に影響したかもしれないです。もし現地に知り合いがいなくても、各地に日本人コミュニティが絶対あるので。そこに連絡しておくと、行った後すんなりと助けてもらえるはずです。

ただちょっと残念だったのは、もともと英語圏に行きたかったんですよね。生活面での安心度もそうですし、サイエンスアカデミアの世界だと公用語は英語なので、英語漬けになるのが留学の一つのメリットですから。やっぱりヨーロッパに決める時はちょっと悩みましたね。

履歴書(CV:Curriculum Vitae)について

なぜその研究室に行きたいのか、をしっかりアピールすることが重要。内容ももちろん重要ですが、見た目も重視したほうが良いです。
留学先で同僚のCVを見せてもらったら、まず色使いが全然違って驚きました。カラフルで、写真もしっかり写真屋さんで撮影していて、自分のはかなり地味なCVだったんだなと気づきました。

Curriculum Vitae

ご家族の反応・様子はどうでしたか?

先に私が単身で渡独して、僕のビザを申請するために必要な三か月の間にアパート契約やその他の住環境を整えてから妻と子供に来てもらいました。ありがたいことに留学の反対はされなかったんですが、実際は妻が結構頑張ってくれていました。やはり言語が大変ですよね。しかも英語圏だったらいいですけど、彼女の生活の中で必要になってくるのは英語よりもむしろドイツ語なので、それは結構苦労していましたね。子どもは2人いるんですが、上の子は小学校一年生まで現地にいて、もうドイツ語がペラペラになりました。下の子は帰国する頃は幼稚園の年中さんだったんですけど、まあ言ってることは分かるくらいにはなってました。

あとは海外で生活している一番の不安の一つが、大きな病気をした時に、病院で説明をちゃんと理解できるかどうか、適切な治療を選択できるかどうか。これは常に不安はありましたけど、ありがたいことに大きな病気はなかったです。 ドイツの生活がすごく好きで、生活スタイルが気に入って。僕が一人身でしたら、多分永住してると思います(笑)。

研究所のすぐ近くに住んでいたので、通勤は自転車でした。でも日本の都会とは違って、町ごとに結構距離が離れていたりするので、普通に生活するには車がないと大変です。 日本人の友達は大体車を買ってました。僕は何年いるか分からないのと、もっと早く帰国するつもりだったので、車を買わずにカーシェアリングを使っていました。でも結局6年もいたので、初めに買っておけばよかったなって思いました。

ドイツ留学で必要なもの・あると良かったもの

(※当時の情報です。最新情報はご自身でご確認下さい。)

  • ビザは渡航後に現地で申請。日本国パスポートがあれば90日間は観光という形で滞在できるため、その間に住環境を整え、仕事先の契約書などをもらって、滞在許可を取る。
  • 自身のフェローシップで留学する場合は、健康保険には渡航前に自分で加入しておく。
  • ワクチン接種レコード(子供のころからのもの)を用意しておく。
  • 英語の博士号証明証(できれば修士号証明証も)は現地に行ってから要求されることが度々あった。
  • 生活に車が必要なため、事前に国際免許証の発行をしておけばよかった。

留学先での生活について教えて下さい。

ハイデルベルクの街並み
ハイデルベルクの街並み

ハイデルベルクの街並み

研究生活はどのような感じでしたか?

ラボに居る時間は平日は朝8時~夜20時くらいで、土日は午前中だけ少し実験する程度でした。日本に居る時よりも少しゆったりした生活でしたけど、それでも「クレイジー」とか言われてましたね。ドイツって冬は日照時間が短くて、朝8時はまだ真っ暗なんですけど、それより前からみんな働き出して、帰りは16時~17時ぐらい。普通に仕事をしてて、気づいたら研究所の中でもう最後一人ぼっちだったっていうことも多々あります。電気がついてる研究室があるということで警備員さんが来て「何してるの?」って言われたことも。だんだんそのうち警備員さんも慣れてきて「あなたまだいるのね~、頑張ってね」って言ってくれるようになったんですけどね。

研究室の人と夜ご飯・飲みに行ったりはあまりなかったですね。仕事が終わったら家族と過ごすっていうのが普通で、自分のプライベートを大切にするような感じなんです。一見ギラギラしたポスドクや、ビッグボスでも、仕事も人生を楽しむための一つの要素と考えている人が大多数でした。

文化の違いですね。

でも一番初めはランチも抵抗ありました。毎日ラボメンバーと学食へ行って、その後皆と1時間程コーヒータイムでまったりする習慣があって。日本にいた頃は大体一人で、共有部屋で好きな時間に食べる感じだったんですけど、ドイツだと毎日誘われるんですよ。行って帰ったら2時間ぐらいかかっちゃうので、最初は結構放っておいてほしいなって思ってたんですけど(笑)、仲良くなってくるとだんだんそういう時間が楽しくなってきて、自分にとってもそういう時間を持たないと、逆にちょっと嫌だなっていう感じになってきたんで。そのあたり、アクセク働くよりもゆったりした気持ちで働くという文化の違いが、身についてきた変化の一つかなと思います。

毎日外食だと、懐事情の方は…?

給料は割と良かったと思います。僕がいた研究所では、最低賃金がもう決まっていて、それがもうすでに結構普通の生活+αできるぐらいのものだったので。

ホワイトアスパラ

ドイツ名物 ホワイトアスパラ

言語面では苦労されましたか?

 研究所自体が多国籍で、ドイツ人が半分弱ぐらい、残りは他の国から来てたので、ほとんど英語でしたね。私はそこまで英語がうまくなかったので、始めはなかなかディスカッションが難しかったですが、ボスや同僚が辛抱強く付き合ってくれたおかげで段々なんとかなっていきました。街中でも結構英語は通じるんですよ。ある程度できていれば、まあ大丈夫だと思います。それよりも臆しちゃって、あんまり喋らないとか、自分の殻に閉じこもってしまうと、周りもどうしたらいいかわからなくなっちゃうと思うんで。「喋れないけど、楽しいよ~」という顔をちゃんと見せていけば、向こうもそんなに気にせずに、どんどん誘ってくれたりします。そこはひとつ心理的なハードルを下げてみることが大切だと思いますね。

研究室の皆さま

留学先研究室の皆さま

実際、研究に使える研究費は日本よりも多いですか?

研究費はラボによってまちまちですね。留学先は国立の研究所だったんですが、行ってからかなり恵まれている研究室だと気付いて。それが結構重要だったんですね。だから、これから行く方はラボのグラントもできる範囲で調べた方がいいです。例えばそのラボじゃなくても、そこの研究所に日本人がいれば、臆することなくメールして、あのラボの経済状況はどうか聞いてみるといいと思います。そこは聞くべきことだと思うので、恥ずかしがらずに。

研究の効率は海外の方がやっぱりいいですか?

 効率重視の傾向はありました。日本人って一人一人がスーパーマンにならないといけないような文化が残っていて、自分でなんでもやってしまうんですけども、それだとどうしても研究の進みが遅くなりますよね。留学先のドイツがん研究センターはコアファシリティがあって、Ph.D.を持っている専門家にFACS、顕微鏡、遺伝子発現解析、データサイエンスなど相談してやってもらえるんです。実際に朝、サンプルを渡したらあとは夕方にもう結果をもらえるという。自分で習得しようとすると数か月かかってしまうようなことでも、簡単にできるのが非常にいいシステムでした。

海外でないとできないことって、大分少なくなったイメージがあるんですが、研究レベルの差は感じましたか?

基本的な技術や分野によっては、留学する必要はないという場合も結構あると思います。ただ、新技術ってだいたい欧米から来るじゃないですか。新技術をいち早く取り入れることにかけては、やはり負けちゃいますね。新しい技術を自分の研究に取り入れたいとか、どんどんやっていきたいっていう人には、特にアメリカはすごく強いと思います。

留学先での研究は順調に進みましたか?

留学最後の年の話なんですが、僕のボスの契約が切られてしまったんですよね。海外って、若手にどんどんやらせようという雰囲気なので、ある程度業績が出た人はとりあえず独立してラボを持ってみるっていう感じなんですが、結果が出ていなければクビになるんです。僕のボスも割と若い方で、ちょうど独立10年目でした。それで、契約の更新がなかったんです。スモールラボだとそういうことも有り得るんだっていうのは、知っておいた方がいいと思いますね。
その間に僕はポスドクとして研究もまだ続けなきゃいけないので、隣の研究室のボスにボスドクとして雇ってもらったんです。研究所にボスはもういなくて、隣の研究室で実験をして、ボスとディスカッションするために街に出てカフェで会う…ていうのをやってました。最終的にはですね、ボスが無事次のポストが決まって、「もし僕が決まらなくても、ついてきていいよ」っていうことを言ってくれたので。それでやっとストレスから解放されたっていうことがありました。

それでも自分のやりたかった研究をやらせてもらえたので、これであわよくばNatureで(出したい)という意識はずっと持っていました。実際にはNatureはダメだったのですが、結果が出せるかもと考え出したのは3年目ぐらいの時ですかね。
研究の大枠は決まっていて、その結果も初めから狙っていました。でもやってみないと分からないことが結構あって。そういう意味ではストーリー自体、思っていたのと全然違ったものになったんですが。


帰国されるまでについて教えて下さい。

日本に帰国される際、ポスト探しは苦労されましたか?

一仕事終えて論文を書いたら帰国することは決めていました。ドイツでの生活がすごく気に入って、ドイツで独立することを考えた時期もあったんですが、やはり将来的には、日本の研究機関で日本のサイエンスの発展に貢献したいという想いがあったので、帰国することにしました。子供が2人いるのですが、言語や環境の違う外国で育て続けることに不安がありましたので、上の子が小学校に入る前には帰国したいと当初から考えていました。
ポスト探しは割と苦労した方だと思います。論文が出る前にアプライを始めていたんですけど、どこにも引っかからず…。論文が出る、もしくはもう少しだというところまで行ったら、急に引っかかるようになりました。

具体的には、基本JREC-INポータル(科学技術振興機構)を見て、自分とマッチするポストに応募していました。 また、日本学術振興会の卓越研究員事業も利用していました。卓越研究員候補者になると、その候補者しか応募できないようなポストにアプライできるようになるというものです。私の場合は残念ながらマッチングがうまくいかずポストを獲得できませんでしたが、独立ポストの公募も多くて、帰国後に独立を目指す研究者には利用価値のあるシステムでした。 あと、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業などは留学中のポスドクでも応募が可能です。こういった競争的資金を獲得することができれば、帰国先を探すハードルが一気に下がることが見込まれますので、公募ポストにアプライすることと並行してトライしてみるといいと思います。

向こうで独立ってやっぱり難しいですかね?

総合的な難しさで言えば、日本と同じぐらいだと思います。日本だとまずポストがないんですよね。独立するためのポストが大体、助教→准教授やってから教授にならないといけないですけど、海外の場合は若手にどんどんやらせようっていう雰囲気なので、若手でもある程度業績が出た人は、とりあえず独立してラボを持ってみるという感じなんですよね。だからチャンスはいっぱいあります。で、一方で日本人研究者が海外で独立する難しさはやっぱり言葉の問題と文化の問題。言葉の問題というのはもちろん、ファカルティとのコミュニケーションがちゃんとできないといけないというのが一つと、学生の教育もちゃんとできないといけない。あとは英語でグラントを取らないといけないわけなので、その文章力もすごく必要になってくるので単純に言語問題でかなりハードルは上がってしまいます。

海外に研究留学をして良かったですか?

はい。絶対に良いです!先ほど研究レベルの差の話もありましたが、日本で研究を続けていてもかなりメリットがあるし、海外に行く意味が実務的なところでは薄れてきているとは思います。だけど研究者って、なんて言うんだろう?冒険なんですよね (笑)。研究の中の冒険もあるし、新たな環境、生活面とかライフスタイルで新しいところに挑戦していくという冒険もありますね。研究者ってそのバランスが取れている稀有な職業だと思っていて。せっかくそういう面白い職業なのだから、どんどん挑戦した方がいいと思います。

留学のメリットをあえて言うのであれば、「楽しいから」ですね(笑)。 やっぱり挑戦することによって研究が楽しくなりますよね。
もし良い結果が出ればもちろんそれに越したことはありませんし、思ったような結果が出なかったとしても、それ自体が人生の宝物になると思います。僕自身もそうで、もちろん良い結果を出すために海外に行った訳ですけど、それ以外にも人生の価値観というか、楽しかったことが大きすぎて。どちらかというと、そっちの方がメリットだったなと思いますね。

海外留学を考えている若手研究者にメッセージをお願いします!

もしかしたら参考にならないかもしれないんですけど、僕は留学に対しては不安が全然なかったんです。と言っても、もともと全く不安がなくて研究者になったわけではなくて、いろんな分岐点で、例えばPh.D.を取った時にその後就職するかアカデミアに行くかとか、その過程で色々考えますよね。本当にその都度その都度、ちょっとの重み(の違い)で、やっぱりこっちを選んだんだというのがあって。そういう何個かの分岐点を真剣に考えることによって、段々と「ネジが飛んでく」って言うんですか?もっと良い言い方をすると覚悟が決まるんですね。それで留学を迎えたので、あまり迷いもなく不安もなくという感じでした。

研究はうまくいかないことが殆どですし、海外ラボであってもそれは全く同じです。留学生活自体が辛くなり、志半ばで帰国したくなる時もあるかと思います。しかし、そういう時に「自分はどうしてもこの謎を解きたいんだ。そのために留学したんだ。」という強い意志がある人は、かならず腐ることなく、うまく壁を打破できると思っています。留学前に、論文をとにかく読みまくるとか、自分の研究の軸をしっかり持っていることが、留学先での研究を成功させる秘訣だと思っています。

本日はお忙しい中 ありがとうございました!

金沢大学 がん進展制御研究所

金沢大学がん進展制御研究所

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