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山梨大学 生命環境学部環境科学科 田中 靖浩 准教授

知りたい!微生物アートへの招待
山梨大学 生命環境学部環境科学科 田中 靖浩 准教授

掲載日情報:2023/02/01 現在Webページ番号:65963

知りたい!微生物アートへの招待 山梨大学 生命環境学部環境科学科  田中 靖浩 准教授

私は、培養が難しい未培養・難培養性微生物(系統的に新規な微生物)の分離培養を可能とする技術の開発、取得した新規微生物を用いた環境保全や浄化、有用物質生産等に関する研究を行っています。いわゆる“微生物ハンター”というやつですね。
微生物ハンターとして、様々な環境試料を対象に微生物の分離培養を行っていると、赤色や黄色、ピンク色といったカラフルな微生物たちが取得されてきます。今から 7 年前の春、「このカラフルな微生物を使って絵を描いたら面白いのでは?」と学生さん達と話が盛り上がり、始めたのが本コラムでご紹介する“微生物アート”です。

田中研究室にて制作している微生物アートの一例

田中研究室にて制作している微生物アートの一例

微生物アートとは?

微生物アートとは、寒天培地をキャンバスとして、絵の具の代わりに細菌や酵母、カビなどの微生物を使って描いた絵や文字のことを指します。ただ、これは単に筆者がそう呼んでいるだけで、寒天アートやバイオアートなど別の呼び方もあるようです(本コラムではこれらを「微生物アート」に統一して記述させていただきます)。

微生物アートの歴史

さて、この微生物アート、最初に始めたのは誰なのでしょう?
実はその答えを筆者は持ち合わせていません。ただ、おそらくは微生物を扱う研究者や学生さんが、実験の合間に「息抜きに培地に絵でも描いてやろうかな…」とか、「自分の名前を書いて遊んでやれ…」と思いつき、実際にやってみたというのが起源だと思います。
ちなみに、1928 年に人類初の抗生物質であるペニシリンを発見したことで有名なアレクサンダー・フレミングも微生物アート制作をしていたようですから1、100 年くらいの歴史はありそうです。ひょっとしたら、1880 年代初頭に寒天培地を開発したヘッセ夫妻2も微生物アートを楽しんでいたかも…ですね(だとすると、140 年くらい?)。

微生物アートの作り方

表紙に掲載された微生物アートを例に、その制作方法を紹介しましょう。
今回、“絵の具”として使った微生物は大腸菌(白色)、Micrococcus 属細菌(黄色)、Azospirillum属細菌(青灰色)、Williamsia 属細菌(オレンジ色)、Methylobacterium 属細菌(赤色)で、大腸菌を除いていずれも私の研究室で分離培養したものです。これらの菌体を、白金耳を用いてキャンバスとなる寒天培地(標準寒天培地)に塗りつけつつ絵を描きます。その後、25℃ で 3 日間培養することで完成。とても簡単ですね(笑)。

ただ、一つ注意があります。普段から微生物を扱っている人はよくご存知だと思いますが、菌体を培地に塗りつけても、その色ははっきりとは見えず、白金耳の跡がわずかに見える程度。つまり、自分の思い通りに絵を描けているかは制作途中に知ることはできません。なので、予め紙に描いた下絵を平板培地の下に敷き、それを頼りに描くと良いでしょう。

微生物アートの作り方

微生物アートの作製手順

研究室のフナコさん微生物アート

今回のために作製いただいた「研究室のフナコさん」の微生物アート(フナコシニュース2023年2月1日号表紙)

微生物アートのコンテスト

本コラムで紹介した微生物アートですが、海外では 2015 年からアメリカ微生物学会が“Agar art contest”と称したコンテストを開催しており、毎年、「どうやったらこんなのが描けるの?」と思うような力作、秀作がノミネートされています3。また、SNS で “#agarart”や“#microbialart”といったキーワードで検索すると海外の方の作品がたくさん出てくることから、世界的には多くの微生物アーティスト達がいると思われます。
一方、日本では 2019 年に日本微生物生態学会第 33 回大会(筆者が実行委員として参加)の特別イベントとしてコンテストが開催されましたが、それ以外では大学・専門学校の授業やオープンキャンパスなどでの実施が散見される程度。まだまだ国内の微生物アーティストは少数のようです
微生物アートを制作するにはそれなりの設備(クリーンベンチやオートクレーブを配備した実験室)が必要となりますが、本コラムの主な読者である生物系研究者の皆さんの多くは、すでにその環境が整っている、いわば、“選ばれた方々” となります。ですので、ぜひ、多くの方にトライしていただき、海外の微生物アーティストに負けない作品を世に送り出していただければと思います。

本原稿の執筆時点(2022年11月末)

山梨大学で微生物アートを製作している皆様

山梨大学で微生物アートを製作している皆様
(左から2人目が田中先生)

参考文献

  1. Dunn, R. (11 July 2010) Painting with penicillin:Alexander Fleming's germ art. Smithsonian Magazine, https://www.smithsonianmag.com/science-nature/painting-with-penicillin-alexander-flemings-germ-art-1761496/ (参照 2022-11-29)
  2. Madigan, M. T. (2003)第 1 章 微生物と微生物学.Brock 微生物学
  3. American society for microbiology. ASM agar art contest, https://asm.org/Events/ASM-Agar-Art-Contest/Home(参照 2022-11-29)

フナコシニュース

「知りたい!微生物アートへの招待」はフナコシニュース2023年2月1日号p.2~3に掲載しています。

フナコシニュース2023年2月1日号

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