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東京大学 内山聖一先生

【研究室でインタビュー】
東京大学 内山聖一先生

掲載日情報:2019/03/01 現在Webページ番号:65182

研究室でインタビュー 研究テーマ、ご自身のエピソードについて語っていただきました!
研究室でインタビュー

フナコシから徒歩15分程度の距離にある、東京大学本郷キャンパス。
今回は、当社取り扱いの温度センサープローブ(Thermoprobe®)の開発元である東京大学 内山聖一先生にお話を伺ってきました。




まずは現在の研究テーマと、そこに興味を持った理由を教えて下さい。

今の研究テーマは、新しい作動原理によって機能する蛍光センサーや蛍光プローブの開発です。
具体的には3つに分かれています。1つ目がフナコシ(株)から販売されている温度プローブの開発。
2つ目が、非常に小さい範囲のpH 変化に応答するpH センサー。普通のフルオレセインのようなものではなくて、デジタル型と言って、0.2 程度のpH の違いで劇的に蛍光性が変わります。
3つ目が、ナノスケールの膜やDNA の近傍で、プロトンやナトリウムイオンが、どのような濃度勾配を持っているかを測れるイオンセンサーの開発です。全部、蛍光現象を使っていますね。

蛍光試薬の開発は、4 年生で研究室に配属されてからの一貫したテーマです。なぜかというと、単に綺麗だから(笑)。昔から、エレクトリカルパレードのような光り物が好きでした。研究室に配属された際に、いくつかのテーマが考えられていたように記憶しているんですけど、いろんな蛍光分子を作るというのが綺麗そうだったから選んだ、という感じで、そのまま今に至っています。


サーモプローブ

「作動原理」という言葉がぴんと来なかったのですが…

プローブというと、化学の世界では普通は小分子なので、例えばフルオレセインのようなpH センサーだったら、フェノール性-OH 基が-O-になるとか、官能基の単純な平衡反応(酸塩基平衡の解離・非解離)を原理にしているものがほとんどです。温度センサーの場合も、ローダミンB のような小分子の、温度に依存する一般的な励起緩和過程を原理に使っています。
しかし、生物実験に使うにはこれらの感度は中程度なので、そこからひと工夫入れて、従来のものとは違う、感度の良い蛍光プローブを作っています。

なぜ「作動原理」にこだわっているかというと、もし、新しい作動原理を提唱できれば、自分以外の研究者もその概念を使って新しいプローブを作ってくれるかもしれない、という自分の研究に端を発する「発展性」に期待しているからです。
最近、特に思うんですけれど、あんまり競争が好きではないので…。もともと存在する常識的な考えをテーマに取り入れると、どちらがより感度が良いか、より使いやすいか、より選択的か、というような競争になっていくんですよね。でも原理を作る分には、競争にはならないので、結果として優雅に暮らせるという…(笑)。もし原理が優れていれば、むしろほかの人がそれを元に研究成果を出してくれるじゃないですか。

だからこの温度プローブも、今後、既存のものより良いものができるかもしれないですけれど、それでも原理を作った自分の貢献・寄与が無くなるわけではないんですよね。
実際、Thermoprobe® の原理を元にしてこれまでに50 以上の研究グループが論文を出しています。何もしなくてもcitationで自分の仕事に触れられて、自分で結果を出さなくても、周りが日々結果を出してくれるという。それによってずいぶんと楽をしています(笑)。



なるほど。CRISPR やiPS 細胞もそうですよね。それで、最初に考えついた人がノーベル賞をとる(笑)。

サイエンスに興味を持ったきっかけについてはいかがですか?どんな学生だったのでしょう。

記憶に残る限り、きっかけというのはないですね。最初から科学に興味を持っていたと思います。小学生の頃は毎月届けられる学研の「科学」とその付録をとても楽しみにしていましたし、薬局に行ってお小遣いで薬品を購入していました。フェノールフタレイン溶液とか、アンモニア水とか…

かつて学習研究社(現 学研ホールディングス)から刊行されていた小学生向け学習雑誌



わざわざお小遣いを薬品に使う小学生はなかなかいないのでは…早くから化学に興味がおありだったのですね。

いや、今アメリカで研究職に就いている友人も、子どものときに絵の具を全色なめて味の違いを確認したって言ってましたけどね。白は一番多くてどの色とも合うので「ご飯」、他の色は「おかず」、だそうです。



それは…知的好奇心のなせるわざですね(笑)進路選択のころはいかがでしたか?

高校のときも、化学の授業は半分以上が実験で、夏休みも実験合宿があって面白かったので、当時から化学を専攻したいと思っていましたね。大学では、講義には全然出席しない学生でしたけど、実習にはちゃんと出席して、レポートはキッチリ書いて提出していました。教養学部時代に受けた「薬学への招待」という授業が面白く、薬学部でも化学が学べるということで、そちらに進みました。

研究室に配属された後も研究をとても面白く感じたので、その後の進学も迷い無く、自然な選択でした。ただ、学生やポスドクのときには、研究の道に進むにあたって、どうやって身を立てていくのかというのは考えていたと思います。ただ好きなだけでは職につけないので。博士課程の時には、そこそこの雑誌にそれなりに論文を出していたんですけど、学振に採用されなくて…。ポスドクをやってみようと思った時に、何かしらの制度に採用されなければ、きっぱりと別の道も探そうと考えていたのですが、幸いにも学振の特別研究員に選ばれました。
だからその時点で、少し(研究者として)やっていけるのかなっていう風に思ったんですね。

日本学術振興会特別研究員



今までに研究で嬉しかったことはどんなことですか?

これまでの研究人生で言えば、面白い実験結果が出た時よりも、研究成果が最初にJ. Am. Chem. Soc. 誌(アメリカ化学会誌)に受理された時の方が、嬉しい気持ちは強かったように思います。自分がこの世界で化学者としてやっていっても良い、という許可証を頂いた気分でした。

元々、分析化学の研究室出身なので、当時は分析化学のAnalytical Chemistry という論文誌にばかり投稿していたんです。それがもっと幅広い、一般化学のトップジャーナルであるJ. Am.Chem. Soc. 誌に採択されたので、もう少し色々なところで、自分の分野に制限なく研究出来るのかなって思うようになりました。
J. Am. Chem. Soc. 誌に受理される事がなかったら、分析化学に特化した研究者として生きていこうと思っていました。5 回目の挑戦で初めてのアクセプトだったので、めげない心は大切ですね。

あとはやっぱり実験そのものが大好きなので、この年になっても実験し続けられることが一番嬉しいです。ネガティブなデータが出ても壁にぶつかったとは思わないです。化学の人って、そもそも地球上の現象がどのように起きているのかを知りたいという好奇心が原動力にあると思うんです。正しく実験して「変化がない」という結果が出たのならば、「変化がない」ということが分かったというだけです。だからそれでがっかりすることはほとんどありません。試薬をこぼした時の方が、よっぽどがっかりですね。



最後に、学生・若手研究者にメッセージをお願いします!

若いうちに自分が本当に楽しめることを見つけ、それに突き進んで欲しいと思います。一見すると、日本の社会は色々なスキルを備えたバランスの良い人材が重宝されるように思われがちですが、この世界ではそれは幻想だと思います。一芸に突出しようとする人への風当たりは強いですが、出すぎた杭は打たれません。同じ時間をかけるなら、一つのことに集中している人のほうが結果が出る気がしますね。
外界の声に惑わされず、失敗を恐れず、「挑戦し続けられる心」を育んで欲しいと思います。

研究室でインタビュー

本日はお忙しい中ありがとうございました。



東京大学 大学院薬学系研究科

温度センサープローブ(Thermoprobe®

細胞の温度を測定できる蛍光プローブ Thermoprobeの詳細はこちら

細胞の温度を測定できる蛍光プローブです。測定対象、測定方法、プローブの細胞への導入方法が異なる4種類の製品があります。
温度は、細胞内におけるあらゆる化学反応を支配する物理量です。細胞機能を担うために、細胞内の特定の場所において発熱もしくは吸熱反応を伴う化学反応が起きると、局所的な温度変化が引き起こされます。そのため、細胞内の温度分布は細胞内分子の熱力学や機能を反映しています。また、医学的見地からは、がん細胞などの病態細胞では亢進した熱発生があることが報告されています。以上のことから、細胞内の温度分布が分かれば、細胞の機能に関する理解が深まるとともに、新規診断、治療法の開発にも貢献すると期待されています。

サーモプローブ
Thermoprobeバナー

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