【研究室でインタビュー】
日本歯科大学 生命歯学部 発生・再生医科学講座 中原貴 教授

掲載日情報:2019/07/01 現在Webページ番号:63381

研究テーマ、ご自身のエピソードについて語っていただきました!

研究室でインタビュー

先生の研究テーマや展望についてお伺いします




まずは、研究テーマについて教えて下さい。

 安全な再生医療をもたらすと期待されている“歯の幹細胞”を使った再生医療研究を行っています。
 ご存知の通り、親知らずや歯列矯正での小臼歯の抜歯などの歯科治療は、日常的に行われています。2000年以降、抜いた歯から取り出した細胞の中にも幹細胞が含まれることが分かり、それを使った再生医療研究が進められてきました。僕らも歯科大学にいるので、貴重な研究材料である歯は日常的に入手して実験に使うことができます。
 これまでに、親知らずから採取できる4種類の歯の幹細胞を解析しました。すると歯の幹細胞は、性別や年齢を問わず、骨髄幹細胞よりも3~6倍よく増えることが分かりました。つまり、若い人はもちろん、 高齢者から取った細胞も確実に骨髄の細胞より増える。その一方で、 歯の細胞は染色体異常を起こしにくく、安全でがん化の心配がない(右図)。そういう意味で、安全な再生医療に非常に向いてる細胞だと思います。また、歯の幹細胞は神経や骨など複数の細胞に分化する多分化能も備えています。そうした研究成果をまとめた原著論文*1は、2017年にOdontology賞*2に選ばれました。
 現在は、歯の幹細胞の臨床応用に向けて、従来の培養液で使用されるウシ胎仔血清を使用しない無血清培養液と凍結保護剤であるジメチルスルホキシドを使用しない細胞凍結保存液を用いた培養法の確立を目指しています*3
 こうした安全かつ臨床的な細胞培養法を開発することで、患者さんの細胞を凍結保存して、将来の再生医療に活用することができる、『歯の細胞バンク』を進めています。これからは、乳歯や親知らずなどの歯の細胞を細胞バンクに預けることで、安全な再生医療を受けることができるのです。
*1 Tamaki Y., et al. Odontology 101(2), 121~132, 2013.
*2 国際学術誌『Odontology』で引用回数が最も多かった論文に与えられる賞。
*3 フナコシニュース2018年7月15日号p 34、 2018年9月15日号p 27 参照



染色体解析

『歯の細胞バンク』について、もう少し詳しく教えて下さい。

 抜いた歯の歯髄細胞は、培養して増やした後、液体窒素で半永久的に保存できます。 そしてタイムカプセルのように、自分が子供の時に預けておいた細胞で、将来の再生医療に使うことができるのです。
 2015年に歯の細胞バンクを設立し認定医の募集をして、2016年7月に大学内に建設した細胞培養加工施設(CPC / CPF)が国の認証を受けました。そこで患者さんの細胞を保管するサービスを始めたのです。
 元々歯髄細胞を保管するバンクの意味でしたが、「髄」の字は難しくてなじまないので、2017年に『歯の細胞バンク』に改称しました。このネーミングは親しみやすくて、認定医や患者さんにとても好評です。


ネーミング一つで印象が変わるのですね。

 『歯の細胞バンク』を説明する時にキャラクターと一緒に見てもらうので、「子供の歯と大人の歯があって、そこから歯の細胞が取れるんだよ」、「それが将来、病気になった時に治療に使ったりできるんだよ」って、細胞バンクについて説明をする際、”歯の細胞”のネーミングは、子供でも簡単に理解してもらえると感じています。そこを歯髄細胞と言ってしまうと、なかなかすんなりとはいきません。


SNSのスタンプなどのアイデアも先生が考えているのですか?

 はい、認定医の先生方からアイデアをもらいながら、自分たちで考えてやっています。歯科の開業医の先生方は一国一城の主なので、治療はもちろんのこと院長として経営も行っています。そういうこともあって、いろいろなアイデアを持っている。歯の細胞バンクの普及にあたって、どういう風にアピールしていくのかという時に、やっぱりネーミングを分かりやすくするというのは大切ですし、キャラクターを使って子供に興味をもってもらうことも大事。例えば、子供を通してお母さんに”歯の細胞バンク”を知っていもらい、さらにママ友を通して各家庭にも”歯の細胞バンク”が広がればいいと思っています。こうした考え方は、一番身近な存在である歯科医師ならではだと思います。
 健康に関心が高く、医療に興味がある患者さんは情報をすごく集めているので、歯の細胞バンクにも関心をもって問い合わせをしてきます。そういった方が、実際に細胞を預けてくれることが多いです。
 僕らは、あくまで再生医療に理解のある方に、歯の細胞バンクを提供したいという理念でやっています。そのおかげで、現在たくさんの細胞を預かっていますが、今のところ大きなトラブルもなく、非常にうまくいっているなっていう印象があります。
 2019年も認定医講習会を予定していますが、今回からは歯科医師だけでなく、”医師”の先生方にも認定医になってもらおうと考えています。すなわち、 新しい「医科・歯科連携」の提案です

歯の細胞バンク

歯の細胞バンクのロゴと、
ホームページのQRコード。


パルフィ_パルプン

乳歯のパルプンくんは脚を開いていますが、この脚の間に永久歯(パルフィーくん)が収まっています。歯の解剖学的特徴を踏まえたキャラクターデザインで、どちらも学生講義に登場しているとのこと。


パルフィ_パルプン

歯の細胞バンクのキャラクター
SNSのスタンプもあるので、ホームページからどうぞ(上記QRコード)


歯科医師キティちゃん

歯の細胞バンクのキャラクター以外にも日本歯科大学には、
『歯科医師キティちゃん』がいるとのこと。



先生ご自身のことについてお伺いします



研究者になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 僕の大学同期も皆そうですが、歯学部出身者の多くは臨床に専念して開業を目指し、研究者になろうって人は少ないんです。僕の場合、「他の人と同じ事をやるよりも、オリジナリティのある仕事をやりたい」と思っていました。そして歯科も医科と同様に、患者さんには科学的根拠のある治療が求められるので、 「科学を学んで医療へと実践できる研究者をやってみよう」という意識もありました。そのため、医療系の研究者というのは、オリジナリティを追究し、ひいては患者さんや社会に貢献できる、とても魅力的な仕事だと思います。


歯医者

研究に対するモットー・スタンスについて教えて下さい。

 現在の研究はインパクトファクター(IF)が重要視されていますから、トップジャーナルに論文を掲載するという目標・ノルマに追い詰められて、研究不正などの問題が出てきていると思うんです。僕も、よりIFの高い雑誌に論文を出したいという思いはありますが、小さな発見や知見でも、新しいことを見つけたら論文にして、きちんと成果として報告したいと思っています。これを一つ一つ着実に積み重ねていくことが大事であり、その積み重ねが将来の大きな成果になると信じています。
 僕の研究のモットーは、『起回生』と『初貫徹』です。歯の細胞を用いて起回生の医療を講ずる。だけど、やっぱり歯科医師としては、最期まで自分の歯を使い続ける初貫徹を貫く。
 僕が患者さんに接した場合には『起回生の再生医療ために歯の細胞を預けませんか、だけど一番大切なのは初貫徹ですよ』と説きますね(笑)。

歯医者
集合写真

研究室のメンバーと、中原先生のモットーである
『起回生』と『初貫徹』の額装パネル。



学生時代のエピソードを教えて下さい。

 特に印象に残っていることは、大学2年生の定期試験の時に、某科目の本試験を寝坊してすっぽかしたことですね。前日に夜遅くまで試験勉強をして、仮眠のつもりがそのまま寝入ってしまいました。翌朝、「タカ、いま何してるの!?」という友人の電話で飛び起きましたが、当然その試験は終わっている。その日の試験終了後、その科目の教授に「体調不良で試験を受けられませんでした」と大嘘をついて謝りにいったことは、今でも忘れられません。幸い先生も「構わないよ」って言うような感じで、追試を受けて済みました。この出来事をきっかけにしてその教授が定年退職するまで勉強会や飲み会にも声を掛けてもらい、可愛がっていただきました。ちなみに試験の寝過ごしは、それが最初で最後です(笑)。


 日本歯科大学はスポーツが盛んなようですが、先生は学生時代に何かスポーツをされていましたか?。

 水泳部に入っていました。でも僕はあんまり泳ぐこと自体は好きじゃなくって、部活の雰囲気がよくて参加していました。部員には、泳ぐことよりも飲み会を楽しむ人が多くて、ウラでは『酔泳部』と呼ばれていました。僕もどちらかというとそっちに貢献していて、あんまり練習せずに部活の後輩を誘って、ちょっとお茶しに行ったりしていたクチなんです(笑)。



日本酒貴

中原先生は同名の日本酒「貴」を取り寄せて、主催した学会の懇親会などでふるまっているそうです。 しかし、ご自身は全く飲めないとのこと。

研究生活で嬉しかったことについてお聞きします。

 日本学術振興会科学研究費いわゆる「科研費」の若手研究Aを獲得し、さらに続けて基盤研究Bも獲得したことですね。私立の歯科大学でこうした大型研究費を獲得することはまず無いので、大変嬉しかったのを覚えています。若手研究Aに採択されて真っ先に購入したのが、オールインワン顕微鏡(キーエンス社)でした(上記写真の先生の後ろに映っている機器)。撮影ポイントだけ指定すれば、全て自動的に撮影して画像を合成してくれる優れもので、学生実習にも重宝しています。

学生実習でこの装置が出てきたら贅沢ですね!

 学生には「高級車が数台買えるぞ」、「フツーは共用施設にあるもので、研究室にはなかなか置いてないんだぞ」って言って、リアクションを楽しんでいます(笑)。

これからの抱負を教えて下さい。

 本学は歯科大学・歯学部の中で唯一、「生命歯学部」と称しています。僕の考える生命歯学というのは、一番身近である歯や口腔の細胞を使って、全身の病気に対する安全な治療法の開発に貢献することです。歯科では、すでに歯やあごの骨に対して歯の細胞を移植するといった再生医療の臨床研究が行われているんですけど、脊髄損傷とか筋肉疾患、肝臓とか心臓といった全身の病気の治療法は、まだまだ動物実験レベルの話。将来的にヒトでの研究が進み、歯の幹細胞を全身疾患にも応用して、医学・医療に活用できる社会を築いていきたいです。歯の細胞バンクは、安全な再生医療を提供するための医療インフラの一つになると信じています。

若手研究者や学生にメッセージをお願いします!

 ネットだけの情報に頼らず、学会や研究会に積極的に参加して、生の声を聞いてほしいですね。実際に、最先端の研究や治療法を行っている先生のお話をたくさん聞くことが大切だと思います。学会のメリットは、意中の先生がいたら直に話すこともできるし、その研究室の人達とも交流ができる。そうすれば、現場の生の声を聞くチャンスになりますよね。教員やポスドクの研究者よりは学生や大学院生との会話の方が身構えずに話せるものなので、若い時にその機会を無駄にしないでほしいと思うんです。自分がどの大学院・ラボに入って研究し、最終的にどういう研究者を目指すのか、きっと見えてくると思います。



本日はお忙しい中ありがとうございました。



日本歯科大学 生命歯学部 発生・再生医科学講座

再生医療に向けた研究開発と医療インフラの構築に取り組んでおり、2015年4月よりセントラルクリニックと連携し、大学では最初の『歯の細胞バンク』を開始した。将来の再生医療を通じて、歯の細胞で全身の病気を治す「生命歯学」の実践をめざしている。
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(テクニカルサポート 試薬担当)

reagent@funakoshi.co.jp

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