ヒト腫瘍の異種移植片におけるサイトケラチン7の検出に有用な抗体 抗Cytokeratin 7（CK7）抗体（HistoSure抗体シリーズ）

ケラチンは上皮細胞の中間径フィラメントです。抗アポトーシス作用、タンパク質合成、創傷治癒のほか、上皮細胞の極性化やシグナル伝達など複数の機能を持っています¹。サイトケラチン7（CK7）は、腺上皮および間葉系の特殊な細胞で発現するⅡ型ケラチンです。例えば健康な組織では、腎臓のボーマン嚢の集合管および散乱した上皮細胞（図1-A）、胎盤の上皮細胞（図1-B）でCK7の免疫染色が検出されますが、小腸粘膜（図1-C）および皮膚の扁平上皮の角質化（図1-D）では観察されません²。

図1. 様々な組織における免疫組織染色像
試料：A：ヒト腎臓、B：ヒト胎盤、C：ヒト小腸、D：ヒト皮膚由来ホルマリン固定パラフィン包埋組織。
茶色：抗ヒトサイトケラチン7抗体（#HS-454008）およびDABによる染色。
青色：Hematoxylinによる核の対比染色。

CK7は、サイトケラチン20（CK20）とともに、転移性腫瘍組織の原発巣を決定するために使用される一般的な診断用抗体の1つです²。また、CK7およびCK20の発現は、さまざまな種類のがんの予後を判断するための臨床パラメーターとして使用できます。CK7は通常、前立腺がんおよび結腸直腸がんでは陰性ですが、尿路上皮がんや粘液性卵巣がんでは陽性を示します。CK7の異常な発現は、予後不良の腫瘍動態（unfavorable tumor behavior）と関連します。例としてDumらは、検出可能なCK7の発現をCK7陰性前駆細胞に由来する胃腺がんの好ましくない特徴と相関させました²。対照的にCK7の低発現ではいずれも、CK7陽性前駆細胞に由来する非特殊型（NST）の乳がんや尿路上皮がんにおける予後不良の特徴に関連していました。ヒト肺がんでは、CK7陽性は組織学的サブタイプに依存します³。CK7の陽性発現は、肺がん患者の予後不良の独立した臨床的パラメーターである可能性があります⁴。

参考文献

1. Pastuszak, M., et al., "Cytokeratins in gastroenterology. Systematic review.″ Prz. Gastroenterol., 10(2), 61(2015). PMID:26557935
2. Dum, D., et al., "Cytokeratin 7 and cytokeratin 20 expression in cancer: A tissue microarray study on 15,424 cancers.″ Exp. Mol. Pathol., 126, 104762(2022). PMID:35390310
3. Johansson, L., "Histopathologic classification of lung cancer: Relevance of cytokeratin and TTF-1 immunophenotyping.″ Ann. Diagn. Pathol., 8(5), 259(2004). PMID:15494931
4. Luo, H.T., et al., "Identification of relevant prognostic values of cytokeratin 20 and cytokeratin 7 expressions in lung cancer.″ Biosci. Rep., 37(6), BSR20171086(2017). PMID:28827446

患者由来の肺異種移植片におけるCK7の発現レベルの解析（スコアリング）

61種類の患者由来の肺異種移植片（PDX）コアを含む組織マイクロアレイ（TMA）試料を自動染色装置を用い、抗ヒトサイトケラチン7抗体（#HS-454017）を使用して染色した。結果、肺がん異種移植片は小細胞肺がん（SCLC；61試料中6試料）および非小細胞肺がん（NSCLC；61試料中50試料）の2つのタイプに分けられた。また後者はさらに、腺がんサブタイプNSCLC（61試料中25試料）、表皮サブタイプNSCLC（61試料中20試料）、および大細胞サブタイプNSCLC（61試料中10試料）に細分された。CK7発現レベルは、染色強度および陽性細胞の割合に応じて0～3+の間の7つのスコア分類した（図2、表1）。

図2. 肺異種移植片（PDX）におけるCK7染色ステータスのスコア分類
0（negative）から3+（very strong expression）に分類した。

表1. CK7染色のスコアによる分類

CK7染色スコア	スコア基準
0	陰性または陽性細胞が1%未満
0.5+	すべて（または2/3以上）の細胞で弱い染色、または陰性細胞と20%未満の強い陽性細胞の混合
1+	すべて（または2/3以上）の細胞で中程度の染色、または陰性細胞と強い染色を示す最低20%の陽性細胞の混合
1.5+	中程度の染色を示す細胞、および1/3～2/3の強い染色を示す細胞の混合
2+	すべて（または2/3以上）の細胞で強い染色
2.5+	強い染色を示す細胞、および1/3～2/3の非常に強い染色を示す細胞の混合
3+	すべて（または2/3以上）の細胞で非常に強い染色

すべてのSCLC PDXにおいて、CK7は陰性（6試料中5試料）または、非常に弱い発現を示した（6試料中1試料）。一方、腺がんタイプのNSCLC PDXは、ほとんどがCK7陽性であり、25試料中3試料のみが陰性を示した。25試料中12試料は、中程度～強い（染色スコア1.5～2）または非常に強い（染色スコア2.5～3）CK7の発現を示した。表皮サブタイプNSCLC PDXの大部分がCK7陰性（20試料中14試料）であり、1試料のみで非常に強い発現を示した（染色スコア2.5）。大細胞サブタイプNSCLCではより不均一なCK7の発現を示し、10試料中4試料の陰性試料と、10試料中2試料で非常に強いCK7発現を示した。平均して腺がんサブタイプのNSCLC PDXは最も高いCK7発現を示し（平均染色スコア＝1.7）、SCLC PDXは最も低いCK7の発現を示した（平均染色スコア＝0.1）（図3）。

図3. PDXサブタイプの平均CK7染色スコア
CK7の発現レベルは染色強度と陽性細胞の割合に従い、0～3の値でスコア化した。最も高いCK7の発現はNSCLC腺がんサブタイプ、最も低いCK7の発現はSCLCと相関した。

次に、RNA-seqと免疫組織染色によるCK7の発現レベルを比較した。またヒトCK7遺伝子の発現は、PDX腫瘍組織で評価を行った。RNA-seqスコアは0～12.2の範囲であった。RNA-seqスコアが7.2未満は、0のCK7染色スコアへ変換した。RNA-seqスコア8.4超過は通常、CK7染色スコア1以上に変換した（図4）。RNA-seqスコアが10以上のPDXは、1～3の範囲の非常に多様なCK7染色スコアを示した。

図4. 異なる肺がんサブタイプにおけるRNA-seqスコアとCK7染色スコアの相関関係
RNA-seqスコアが高い試料は、免疫組織染色で中程度～高いCK7の発現を示した。RNA-seqスコアが低い試料では、免疫組織染色でのCK7の発現は見られなかった。

図5. CK7免疫組織染色による、NSCLC腺がんサブタイプの腫瘍不均一性の可視化

本研究では、RNAseqスコアとCK7染色スコアは同様の結果となった。高いRNA-seqスコアは、免疫組織染色において中程度～高いCK7発現スコアと相関した。免疫組織染色を用いたCK7発現解析においては、腫瘍不均一性を可視化することを可能とした一方、空間的情報はRNA-seqでは得ることができない（図5）。